反撃
「なんでこんな事に。」
「どうしたよ、尾藤殿?」
「あ、いえ。なんでもないです。」
ちゃかぽこ馬に揺られながら移動をする。
どうやら呟いた言葉が聞こえたらしく、村上様がこちらを伺ってくる。
が、ただの愚痴なのだから、変に突っ込まれても困る。
それにしても、尾藤殿か。
やはり、名字を得たのは正解だったように思う。
その馬の上で、なんで俺が信濃に派遣されることになったのだろうと思案する。
まだシノビーランドは起動に乗ったとは言えない。
だからこそ、まだまだ面倒を見ていたかった。
にもかかわらずだ。
まあ、乱破衆の中で誰かを出そうと考えたなら、必然的に俺にお鉢が回ってくるのは分かる。
段蔵は、京とのやり取りもそうだが、他国によく行っている。
蔵人は、景虎様の側について、危険をあらかじめ除いている。
そうなると、余るのは俺という事か。
まあ、目立った戦績を上げていた訳じゃないし、それも仕方ないわな。
それに、二人に比べてまだ俺の方が信濃の土地勘がある。
もともと活動していたのは甲州が中心ではあったが、その周辺にあたる信濃で活動をしない訳がない。
しかし、ねぇ。
他の将にでも頼めばいい気がするんだが、なんでまた俺なんだ?
他の血気盛んな連中に命じれば、喜んで参加しようものを。
まあ、言われた通りにやるだけだわな。
さて、今回の目的はというと、武田家に奪われた信濃の地の奪還にある。
が、相手はあの武田家だ。
一筋縄にはいかない。
本来ならば。
武田家の本隊は既に甲州に帰還しており、今はある意味がら空きのような状態になっている。
そこを攻め立てて、一気に奪い返そうというものだ。
にしても、もう少し頭を使った戦いというものは出来ないものだろうか?
城を見るやいなや、突貫とか村上様は何を考えているのか?
いや、速攻が悪い訳じゃない。
余りグズグズしていると、武田家の本体がやって来るかもしれない。
そうなると、勝ち目が薄くなってきてしまう。
何せ、経験の浅い連中が多い。
何度も死にそうな目に遭ってようやく強い兵が生まれる。
それを狙っての今回の出兵なんだろうというのも、理解は出来る。
適度に死線を潜らせる。
それがやがては自信に繋がるというものか。
用兵が下手なわけでは無い。
どこを攻めれば嫌なのかを、よく分かっている攻め方をしている。
さすがに何度も敵からの攻撃を跳ね返してきただけの事はある。
はてさて、最後まで上手くいけばいいが。
◇
「おらっ!お前ら突っ込めや!」
「「おおー!」」
オイラの号令に従って、兵達が城に突っ込んでいく。
城を守備する人数が少ないんだろうか?
ここも、こんなんで終わってしまうのか。
まあ、仕方がない。
しかし、景虎殿もなかなかに食えない御仁だ。
いや、それはあのとき側にいた宇佐美殿の方か?
こんな連中じゃ、まともな用兵も何も無いではないか。
まあ、だからこその分かりやすい指示を心がける事にしたんだが、これはこれで勉強になるな。
それに、やはり精強な越後の兵ではある。
新兵といえど、その動きはなかなか見るところがある。
それこそ、景虎殿が率いれば、より化けるのだろうな。
越後の兵達の、景虎殿に対するその思いというのだろうか。
それは非常に強いものがある。
それこそ、神格化されているのではないかというほどに。
まあ、自らを毘沙門天の化身と言ってしまっているしな。
それに、戦にも負けなしなのだ。
そんな人なら、神格化したくもなるんだろう。
いや、実に面白い。
自分の手勢を率いて、一戦やってみたくなるわな。
そんな機会が巡ってくるとは思えないが、それでもだ。
◇
さて、幾つかの城を落としたところで、俺の本来の任務に取りかかるとしますかね。
それで効果はどのくらいのものになるんだろうか?
まあ、今はそんな事はどうでもいいか。
「それじゃ、お前ら。きっちりやってこいや。」
「了解です、お頭。」
「おう。」
そうして散会していく直属の部下達。
つまりは乱破衆の面々。
直接的な戦よりも、搦め手のような仕事の方が得意な人間ばかりの集まり。
となれば、今回の策略もはまるんだろうな。
いや策略らしい策略と言っていいのかね?
景虎様から命じられたのは、武田家の評判落としに相違無い。
あること無いことを信濃に住まう者達に吹き込んで、武田家に付かないようにすることが目的となる。
高札を掲げて周知させてみたり、人伝にて伝わる口コミのような事をしてみたり、と様々な手を使う。
無論、高札一つとっても、識字率というものが低い為、文字をつらつら書いたものを掲げてもダメだろうから、イラストで何となく分かるように工夫をしてみたりと、これまではやってこなかったような工夫を加えてある。
かくいう自分もそこまで文字は得意じゃない。
お陰で、文字を覚えさせられた訳だが。
しかし、甲州の片田舎にいたときとやってることは余り変わらないよな、よくよく考えると。
なのに、待遇が雲泥の差な訳だが。
いや、他国なんかと比べても、俺ら乱破の扱いがここまで良いところなど無いだろうな。
そう考えると、景虎様々な訳だ。
しかも、武功ではないにもかかわらず、ちゃんと功としてくださっていたりもする。
ならば、その期待に何とかして応えるのが男ってもんだろ?
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