上洛のゆくえ
上洛の準備を進めていて、正解だったようだ。
いや、結果的にはという状態なんだけど。
なんと村上義清が、武田家の猛攻をしのぎきり、どころか撃退して見事に領地を守り抜いたのだ。
武田家といえば、とても精強な軍が自慢。
山あいで育ったからか、高い身体能力を持ち、貧しいお国柄なのか、ハングリーさも持ち合わせている。
かつての越後を見ているようだ。
ただ、越後は開拓していく余地があったが、武田家の本拠地である甲州はそこまでの余地は無い。
開発していくとすれば、米!
としか、誰しもが考えていないからだ。
いくらでもやりようはありそうなものだけど。
甲州といえば、やっぱりワインよね。
だって名物だったもの。
ということは、葡萄とかの果樹の栽培に向いているってことでしょ?
そういう産物で儲けて、米を他国から輸入すればいいと思うの。
何せ、御隣は一大穀倉地をかかえる北条家がいる。
海上交易もできる今川家がある。
多少の中間マージンは取られるだろうけど、損して得とれとも言うし。
でも、なかなかそんな考えには至らないようだ。
それも仕方がないのか。
貧すれば鈍するとも言う。
小さな盆地に、身を寄せ合って生きてきたのだ。
だからこその信濃出兵といえる。
少しでも豊かな土地を得たい。
そう考えるのは、自然な事なんだろう。
攻めいれば、他国で所有する物資も奪える。
一石二鳥とか考えているんだろうな。
うん。
ほんとバカ。
生産性が無い事この上無い。
そんな事ばかりでは、先は見えているではないか。
年数を経ても、これでは恨みは消えないだろう。
どころか、自分達の住み処が荒らされると、よりその恨みが蓄積していく。
ちょっと風が吹けば、簡単に屋台骨が揺らぐようでは、統治など夢のまた夢だろう。
全てが受け入れられるとは、到底思えないけど、それでもまだ私の方がマシだろうな。
それはそれとして、上洛である。
こっちが本題。
任命されてから、大熊朝秀は忙しそうにしている。
やるべき仕事がある男は、やはり輝く。
それが、自分でやりたいと手を上げた仕事なら、それはより強い。
内政ではなく、外交の分野にあたる仕事だが、頑張っているようだ。
それでも自分では、やりきる事の出来無い限界もあるだろう。
それでも頑張っているのなら、それでいい。
精一杯頑張って失敗したなら、それはそれで仕方がないんだから。
でも、多分大丈夫だろうな。
何となくそう思える。
また、長重もあっちへこっちへと、とても忙しそうにしている。
任命した私が言うのもなんだけど、構ってもらえない寂しさがあるわね。
いつも側に控えていた人間がいないだけで、ここまで寂しいと感じる事になるとはね。
でも、長重が一段上の男に成るためには、色々な経験を積んでいかないと。
私が知らない訳無いじゃない。
私とたまたま一緒に居たから引き上げられただけとか、どんな悪口よ。
そんなこと言うなら、私の側で働いてみればいい。
別にいびるつもりはないけど、ちゃんと勤まるとは思えないのよね。
言ってみれば、阿吽の呼吸とでも言うのかしら?
ちょっとした私の仕種から、何を考えているか判断が出来ないとね。
それに、私が言うのも何だけど、急な無茶ぶりにも対応出来る能力もないと。
長重には、着いてしまったレッテルを吹っ飛ばして貰いたい。
その為の起用なのだから。
京とは、密に連絡をしあっているようだ。
とは言っても、兄上にばかりのようだけど。
私からも、兄上に渡りはつけてある。
帰ってきた書状に、『そのくらいの事なら任せなよ。ただ飯食らいにはならないと思うよ。』みたいなことを書いてあったし、それならある程度は大丈夫なんだろう。
どうやら、京でも幾つかのつてを持っているようだ。
いや、京に行ってから作ったのかな?
まあ、それはいい。
ようは、私の考えや気持ちが伝えられる環境が出来上がっているのが大事なんだから。
もう少ししたら、さあ、上洛という段階で事件が起こる。
「村上義清、武田に破れた模様です!」
「は?」
「援兵の要請が来ております。」
「え?撃退したんじゃなかったの?」
「その後押し寄せたところに、内応者が出たらしく、落城した模様です。」
「ふわー!」
何となく目の前が暗くなるような気がした。
二人のせっかくの頑張りを無駄には出来ない。
今は武田・・・何だっけ?
えーっと。
・・・武田何とか!
余計な事をして!
ちょっとここのところ忙しい為、しばらくペースが落ちます。
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