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シノビーランド開園!

「今日はシノビーランドの視察に行きましょうか。」

「えっ?ここらのは、ほっといていいの?」


私の発言に、驚いた顔をする貞興。

貞興が指差す先には、まだ決済が済まずに乱雑に積まれた書類の山々がそびえ立っていた。

それらが、一瞬視界に入るが、すぐに目をそらし見ないふり。

現実逃避といえばそれまで。

だけど、人っていうのは、仕事をしているだけで、はたして生きていると言える?

私はそうは思わない。

適度に仕事をし、適度に骨休めをする。

鋭気を養って、再び仕事に臨む。

このサイクルを上手く活用できないで、仕事を続けるとかどんな苦行よ。

私は荒行に手を出す修行僧でも無いし、ワーカー・ホリックでも無い。

とてもじゃないけど、やってらんないわよ。

だいたい、何で私が偵察部隊を出すのにかかる物資の計算なんてしなくちゃならないのよ。

行きたいとか言ってる者達で、申請でも出してこればいいのに。

まあ、どんぶり勘定でやられると困るけど。

何でもかんでもオッケーは出せないものね。


「じゃあ、貞興は城で仕事をしてなさい。」

「うえっ!ちょっと待って!俺もお虎兄ちゃんに付いていくって!置いてかないでよ!」

「そうね。他にも参加希望者がいるなら、付いて来ても構わないわよ。戻ってきてから、地獄が待ってるかも知れないけど。」

「うへぇ・・・」


私が希望者を募ると、幾人かは参加を希望してきた。

そんな彼らは、全て連れていく。

いつも通り、貞興と長重は付いてくるようだ。

こんな風に言ってはいるけど、実際視察となれば、沢山の目があると良い。

更に言うなら、立場の違う者達で構成したほうが、色々な視点で見られる事から、問題点にも気づきやすい。

ただ、そんなことを言っても、何処まで理解されるかは、分からない。

結局は、何処までいっても上が命じれば、それがまかり通ってしまう訳だから。

ある種の、究極のトップダウンが常に起きかねない。

まあ、越後においてはというか、私が上に立っている間は、そうはならない気もするけど。


それはさておき、シノビーランドである。

どの程度まで開発が進んでいるだろうか。

計画を立ち上げてから、すでに数年経っている。

となれば、そろそろ完成も近いんじゃないだろうか?

完成すれば、報告が来るとことになっている。

が、まだ来ないということは、まだ完成には至っていないというわけか。

とはいえ、あまりに長い年月をかける訳にもいかない。

それこそ、オープンまでこぎ着けなければ、ただの金食い虫に他ならない。

更に言うと、その後の経営も上手くやらないといけない。

最悪、長尾家からお金を出さなくてはならない事態もありうる。

のんびりと馬に揺られて移動する。

到着すると、いつの間にか表れた影達。

その中から、一人見知った顔が前に出てくる。


「おや、景虎様か。どうしたので?」

「熊若、どうなの?開発の方は。」

「大部分は出来てきているんですがね。」

「そうなの?」

「いや、意匠が気にくわないんですわ。」

「えっ?後はそれだけ?」

「ええ、それだけですけど。」

「じゃあ、一応の完成はしてるのね。」


何ということか。

すでに完成していたとは。

意匠が気にくわない?

むしろ、さっさと開業しないあなたが気にくわないわよ。

いや、金にうるさい熊若が黙っている事が、むしろ信じられない。

さっさと開業していれば、大きな儲けは無くとも、それでも少しは稼げていたはずなのだから。


「何でそれで開業をしないのよ。」

「いや、貴賓の方々も来ることかあるんでしょう?そんな人達に適当な造りの物では侮られないですか?」

「ここでは、上も下も無いわよ。宿泊する施設は、それなりのものを用意しなくてはならないかもしれないけど、この施設は平民も利用させるんだから。そこまでこだわらなくてもいいじゃない。それに、もし多少の作り替えをするにしても、部分的にやれば良いわけだし。」

「はー、成る程。全部をきっちり完成させてなけりゃいけないかと思ってましたわ。」

「じゃあ、そういうことで。あ、試しに楽しんで行っても良いかしら?」

「そりゃ、もちろん!」


そう言って了承してくれる熊若。

それならば付いてきた皆に遊ばせよう。

乱破衆が試しただけでは、難度が高すぎるかもしれないものね。

所謂モニターとかテスターとかいわれるものよね。

私はそこには参加しない。

いや、むしろ参加させては貰えないのだろう。

ならば、始めから望みはしない。

私が言うと、駆け出す貞興。

目が煌めいている。

やはり、まだまだ子供よね。

あれ?子供よね?

長重らもそれに続く。

そうして残されたのは、私と熊若だけになってしまったりする。


「まあ、楽しんでいってくれりゃ良いんですがね。」

「大丈夫でしょ。それとも自信ない?」

「まさか!全力で作りましたぜ。これからは全力で稼ぐだけです!」

「そうね。その商魂に期待してるわ。」

「へへっ、了解です。あ、待っている間に茶でも飲みますか?」

「あ、そうね。お願い。」

「武藤もそれでいいか?」

「・・・」


おおう。

いたのね、蔵人。

全く気づかなかった。

まあ、護衛の一人も付いていないのは問題だものね。

蔵人からすれば、そこまで興味を持つ施設では無いだろうし。

熊若に案内されて、施設内の建物に案内される。

泊まり込み出来る建物を作っていたようだ。


「じゃあ、少々お待ちを。すぐに持ってこさせます。」

「あ、ありがとう。」


そう言って、奥に案内してくれた熊若。

なんだか、にやにや笑っているように見える。

しばらく待っていると、熊若の座る後ろの壁がくるりとまわり、女中姿の娘が表れる。

その手には、湯飲みの載った盆が持たれていた。

もしかして、これって忍者屋敷?


「どうですか?」

「いいわね。良くできているわ。ここで来賓をもてなしたら、結構驚かれるんじゃないかしら?」

「そりゃ、どうもありがとうございます。」

「きっと成功するわよ。」


にこやかに笑い、用意してもらったお茶をすする。

疑い無く飲むのもどうかと言われそうだが、彼らを信じるなら飲まない選択肢はあり得ない。

むしろ、信頼しているからの行動を彼らはどう見るだろうか?

もっとも、普段からそんな事を考える事すらナカッタリするわけだけど。

アトラクション?に参加できない私を気遣ってくれた心にも、隠し戸からのお茶にも温まりながら、日々の激務を癒すことが出来た気がする。

さあ、いよいよオープンね。

どんな結果になるか、楽しみだわ。

「ついに、シノビーランド開園となります。皆様、こぞって遊びにいらしてください。」

とか、景虎ならいいそうですね。

マスコットキャラクター、どうしようかな。

シノビー君って名前では、安易過ぎますものねぇ。


ブックマークや評価を頂けると、物凄くモチベーションが上がります。

また、様々な感想を頂けるとありがたいです。

今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。

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