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俺の名は?

「段蔵、今良いか?」

「良いも何もないだろ。何だよ、いったい。」


景虎様から仰せつかった、シノビーランドの建設を指揮していたところに、熊若がやって来た。

見ての通り、仕事に従事しているわけだが、いったい何なんだ。

まあ、話くらいは聞いてやれない事もないか。

こいつも仕事を抱えているはずだ。

いや、乱破衆では副頭領が仕事が無いわけがない。

それでも、わざわざ話をしに来たのだから、熊若にとっては余程の事なんだろうよ。


「ちょっと頼みというか、相談があるんだけどよ。」

「今じゃなけりゃ、いけないのか?」

「そういうわけじゃないんだが、どうにも気になってよ。」

「まあ、いいや。話してみろよ。」

「俺が周りから何て呼ばれているか、知ってるか?いや、乱破衆からじゃないぞ。あくまでも武士の連中からだ。」


武士の連中から?

なんと呼ばれていただろうか?

普通は名字で呼ばれるな。

自分も、確か『加藤殿』と呼ばれるしな。

景虎様は下の名前で呼ばれるが、目上の方であるし、何より自分を引き上げてくださった大恩人。

なんと呼ばれても構いはしない。


「突破殿だぞ、突破殿!」

「そういやそうだったな。それがどうした?異名で呼ばれる事くらい、今に始まった事じゃないだろ?」

「異名と理解した上ならまだいい。だが、どうにも名字と間違えているらしい。」

「ああ、成る程。」

「そこで気付いたんだ。俺は名字が無いってな。」

「いや、遅すぎないか?」

「それまで、そんなもん無くても不自由は無かったし、今も特に不自由は無い。でも、気になっちまったもんは仕方ねぇだろ?」


確かにそうか。

だが、それならそれで、好きに名乗りをすればいいんじゃないか?

景虎様なら、余程の事が無い限り、認めて下さるだろうから。

そりゃ、景虎様と同じ長尾や、上杉なんて名乗るのはダメだろうけどな。


「それで、何で自分のところに?」

「景虎様に決めてもらえないかと思ってな。そうなると、お前に相談するべきだろ?何より上下関係はちゃんとしとかないといけないからな。」

「うーん。こんな事でお手を煩わせるのもな。とはいえ、いらんことを気にして仕事に身が入らないのも困るか。分かった。どうなるかは分からないが、聞くだけ聞いてみるか。ちょっと待ってろ。指示だけは出してくる。」

「そうこなくちゃな。」


嬉しそうな顔をする熊若。

それを横目に、指示を出していく。

ようやく指示が行き渡ると、熊若と二人、景虎様の元に向かった。



「景虎様、よろしいですか?」

「あぁ、段蔵?入ってらっしゃい。」


私がひたすら書類を片付けていると、私を呼ぶ声が聞こえた。

声の主は段蔵だった。

私は入室の許可を与える。

すると、静かに部屋へと入ってくる。


「ちょっと待っててよ。」

「いえ、突然申し訳ありません。」

「ああ、いいよ・・・っと。これで良しかな?それで、どうしたのよ?」


書類を、キリの良いところまで書き込むと、私は彼らに体を向ける。


「それで、乱破衆のまとめ役の三人で、わざわざ来たのは何のようかしら?」

「三人?って、蔵人いつの間に。」

「いや、熊若。少し気を抜き過ぎだろ。一緒に部屋に入って来たじゃないか。」

「そうだったか?いや、すまねぇ。」

「・・・」

「いや、そう怒るなよ。悪かったって。」


熊若が頭を下げている。

が、私には蔵人が怒っているかどうか、全くわからなかった。

いや、相変わらずの無言なんだけど。

二人は分かるのかしらね。

まあ、意思の疎通が出来ないと不味いものね。

何か秘密があるんでしょう。


「それで?」

「はい。実はですね、熊若の事なんですが、自分に名字が無いことで悩んでいまして。いきなりで申し訳ないのですが、是非とも景虎様に名付けて頂きたいと。」

「ええ、そうなんですわ。よろしく頼みます。」

「ええっ!」


名付けって何よ?

私に名字を決めろって?

別に好きに名乗ればいいじゃない。

いや、そういう訳にはいかないのかしら?

その辺どうなんだろう。


「まあ、いいか。私で良いのね?」

「ええ、お願いします。」

「・・・」

「あ?蔵人もつけて欲しいって?お前は立派な名字があるだろ。」

「それに、二人がつけてもらえるなら、自分だってつけて貰いたいくらいだ。」

「お前はダメだろ。お前は“飛び加藤”だろ。そのお前が加藤じゃないとか、訳分からないだろ。」


えーっと、結局どうなるのかしら?

何か、コントを始めたように見えてしまう。

まあ、仲良き事は美しきかなという事かしらね。


「確かに、加藤という名字は、変えないでいいんじゃないかしら。立派な名字だものね。」

「景虎様が、そうおっしゃるなら。」

「それで、二人は・・・そうね。何でも良いのね?」

「頼みます。」

「・・・」


二人の真剣な表情を見て、私も真剣に考えないといけないわよね。

とはいえ、どうしようかしら。

せっかく、乱破衆の頭領である段蔵の名字が加藤なんだし、それを少しは流用したいわね。

とすると・・・


「そうしたら、蔵人は武藤。熊若は尾藤でどうかしら。」

「・・・」

「そうだな。何故、蔵人は武藤で、俺は尾藤なんで?」

「ええと、蔵人はより武を磨いて貰えるように。熊若は、軍の殿を任せられる位になって貰えるように、っていう願いを込めてみたんだけど。それに、三人とも藤で揃えた方が、何となくだけど美しいしね。」

「成る程。そういうことなら、有り難く。そうか、今日からは尾藤と名乗れば良いのか。」

「・・・」

「蔵人が、とても嬉しいと言っています。」

「そう?なら良かったわ。」


二人とも、どうやら気に入ってくれたようだ。

これは本当の理由は言えないわね。

段蔵が加藤(加糖)だから、無言の蔵人は武藤(無糖)。

熊若は、その二人の間を取って尾藤(微糖)という事にしたんだけど。

熊若に名字が無かったので。


ブックマークや評価を頂けると、物凄くモチベーションが上がります。

また、様々な感想を頂けるとありがたいです。

今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。

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