兄の優しさ
「起きてるか?」
その声に目を覚ます。
といっても、どうにも片方のまぶたが非常に重い。
それでも何とか目を開けると、視界の悪い私の視線の中に、こちらを覗き込むようにしていた御兄様がそこにいた。
何とも言えない顔をしている。
「あら、御兄様って痛っ・・・」
「ああ、無理するな。親父様に酷くやられたようだな。顔がパンパンに腫れてやがる。」
「そう・・・なの・・・?」
「何というか、虎千代だとは分からんな。」
「そこまで?」
どれ程、腫れ上がっているのだろう?
青タンくらいならいいが(いや、全然良くない!)どうにも凄いことになっていそうだ。
この場に鏡が無いのが幸いだった。
下手に自分の変形してしまった顔をみたら、ショックでまた倒れてしまうかもしれない。
いや、十中八九気絶する。
古典の昔話にある、お岩さんのようになってたらどうしよう。
せっかく、これから美しさを求めるような男になろうと思った矢先にこれだ。
それにしても、あのくそ親父には腹が立つ。
大体、自分の母親を少し褒めた程度で、何故にこんな目にあわねばならないのか?
全くもって理解できない。
あんな野蛮人の血が、体に流れていると思うと泣きたくなる。
「やはり、その顔では直ぐには寺に移るのは難しいだろうな。これからより熱を帯びてくるだろうからな。もしかしたら、今夜はうなされて眠れないかもしれないな。」
「それは・・・辛い・・・わね・・・」
どうにも、顔が腫れているせいか、口を動かしにくい。
「頭の方も大変だな。親父様に掴まれたようだが、毛がかなり抜けてしまっているな。それでも、血が流れる事が無かったのは幸いだ。」
「幸い・・・なの・・・?」
「あんなところでお前が流血して倒れていれば、それこそ大変だな。それでなくても、ようやく目を覚ましたばかりだったというのに。」
「はぁ・・・いっそのこと・・・流血したほうが・・・面白いじゃない・・・」
「まぁ、そう言うな。それにそうなったとしたら、親父様の癇癪がもっと酷いことになってたかもしれんぞ?」
「はぁ・・・最悪・・・」
息も絶え絶えになりながらも悪態をつく。
そんな私を見て苦笑する御兄様。
「だが、もしかするとこれは良かったかもしれないな。寺に入れば、この城に居るときより不自由があるかもしれないが、それでも親父様と顔を合わせなくて済むぞ。」
「それは・・・魅力的ね・・・」
「ただ、家中の他の者に会いづらいかもしれぬが。」
「仕方無いわね・・・」
少し寂しく思ってしまう。
私にとっては、まだ一日くらいの浅い関係だが、元々の体の持ち主は違う。
それこそ、生まれてから今日までという人生の全てに関わりがあったのだから。
「さて、少し顔を見に来ただけだったし、そろそろ行くか。寺に入るといっても、顔の腫れが引いてからになるはずだ。さすがにその顔のままでは外面が悪すぎるだろ?」
「確かに、パンパンに腫れ上がった顔では外は歩けないわ。更に言うなら、髪の毛も元に戻ってからにしたいところよね。」
「さすがに、そこまでは無理じゃないかな。」
最後まで御兄様に苦笑をさせてしまった。
御兄様が立ち去った後、今後私がどうなるのか考えてみる。
が、想像がつかない。
というのもお寺に行ったこと位はあるが、どのような生活をしているのか。
どのように暮らしているのかが、わからないからだ。
それこそ、墓参りで訪れるくらいのものだ。
昔、テレビでやっていた、とんちの得意な少年が、確かお寺で生活していたが、あんな感じなのだろうか?
となると、私もとんちを言わなくてはいけない?
いや、さすがにそれはあり得ないか。
他愛の無い、下らない事を考えている内に睡魔が襲い、眠りにつく。
寝返りをうったり、ふとした瞬間に顔の痛みから目が覚めてしまうが、それでも何とか眠ることにした。
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