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意地の張合い

今日のメインイベント。

それは、政景と景信の二人の対戦に他ならない。

彼らの戦いに、皆興味津々なようだ。

それまでの騒がしさはどこへやら。

じっと様子を伺っている。


二人は、それこそ犬猿の仲と言って差し支えないだろう。

先の評定においても、降ってきた政景に対して、景信はかなり強気の姿勢を示していた。

自らの地位を守るため。

いや、むしろそれをより高める為には、政景は邪魔でしかないからだ。


綾姉様を妻とした政景の方が、私との距離を縮め易いのは想像に難くない。

景信の生家からは、私の御母様が出ている。

が、寿命を考えれば、残念ながら御母様の方が、先に旅立ってしまうのは仕方がない。

となれば、私との繋りは、あくまでも親族であるという事柄だけしかない。

そうなった際の、自らの扱いに不安を抱いているのだ。

怯えて吠える子犬みたいね。

当人である景信は、そんなに可愛らしい物ではないけど。


一方、政景はどうだろう。

綾姉様の旦那である以上、私にとって義理の兄となる。

私が当主である以上、義兄上と呼ぶのはあまりよくないようだ。

それに、残念な事ではあるけれど、私に対して反旗を翻した。

兄上との家督の争いの際の事については、それほど気にはしていない。

どちらが、自らの主に相応しいか、越後という国を良くするのはどちらなのか。

それを考えての行動だったのだろうから。

けれど、政景自身が起こした反乱については、不問とするのは難しい。

何せ、私が越後の国主と、幕府からのお墨付きをもらっていたわけだから。

まあ、その前に反乱を起こしていたとしても、簡単に許す訳にはいかないわけだけど。


そうは言っても、簡単に首を取るという選択をしないのが私だ。

それに、領地についても、さらりと話をしないように逃げた。

私の考えとしては、一門衆として、政景と景信の二人が両輪となって、越後を盛り立てて欲しいと考えていた。

そのためには、政景の力を削ぐというのは、あまりよろしくない。

無論、多少はこちらが得る形にはなるだろうけど、それでも政景にとっての泣き所となる場所を奪うつもりはない。

そんなことをして、困窮するような状態になられては、綾姉様の生活が大変になる。

そんな苦労をさせたくは無かった。


そして、こんな風に喧々とやりあう状態はなんとかしておかないと、将来に禍根を残す事になる。

親族同士で、相争うなど悲しすぎる。

そんなことにならないようにするのも、一族の当主となった私の仕事といえるはずだ。


「さあ、二人とも。準備はよろしくて?」

「おおとも。政景なぞ、捻り潰してくれるわ!」

「ご命令とあらば。」


かなりイケイケな様子の景信。

それに対して、受動的ともとれる政景。

対称的な二人が、相対する。

さて、結果はどうなるだろう。


「それじゃ、はっけよーい・・・のこった!」


私がゴーサインを出すと、互いに勢いをつけてぶつかり合う。

がっぷりと組み合うが、すぐに政景が転ばされてしまった。

倒れ込む政景を見下ろす景信。

ニヤニヤと笑い顔になっているが、あまり格好良いとは言えないわね。


「はっ。やはりこの程度よ。同じ長尾の一門だと思うと、泣けてくるわ!」


景信の言葉に、土を握りしめながら、立ち上がる政景。

そして、私の元に近寄ってくる。

何?

対戦相手は私じゃないわよ?

勝負もついたわけだし。


「景虎様。もう一番。」

「え?」

「はっ!勝負はついただろうに。往生際が悪い。」

「お願いします。」


これは本気ね。

目力が凄いわ。


「うーん、そうね。私は構わないけど、景信はどうかしら。まさか、勝ち逃げするような事は無いとは思うけど。どうする?」

「景信殿、お願いします。」

「景虎様が、そうおっしゃるならば仕方あるまい。政景にも、よもや頼まれるとは思わなんだ。」

「じゃ、合意ということで。はい、のこった!」


私の合図で、再びぶつかり合う二人。

先程、簡単に転がされてしまった政景だが、次は景信を投げる事に成功した。

これに、驚いた表情を見せる景信。

にやつきのあった顔は、何処かに行ってしまったようだ。

ガッツポーズを見せるは、政景。

余程、気合いが入っていたらしい。

その姿を見て、綾姉様が何やら歓声をあげているようだ。

亭主の姿が格好良かったのだろう。

仲の良いことだ。


「ぐぬぬぬ、政景。もう一番取れぃ!」

「望むところ。」

「あー、じゃ、のこった!」


そうして、勝ったり負けたりを続ける二人は、何度も取り組む。

投げ、耐え、押し、引きと様々な動きをして、相手の隙を突く。

いったい何度やるつもりだろう。

いい加減、私は飽きてきたんだけど。

二人は、まだまだ続けるつもりなのかしら?

なかなか良い表情になってきているように見える。


「ねぇ。まだ続ける気?」

「まだ勝敗はついてませんからな!」

「もう少し、お願いします。」

「はぁ、もう止めなさいよ。これ以上は体を壊すわよ。それよりそうね・・・このあと宴会を催すから、そこで飲み比べでもなさいよ。」

「ふむ。別の事で勝敗をつけよと。なるほど。」

「それで構わない。」

「じゃ、決まり。さっさと着替えてきてちょうだい。」


そう言って、二人を土俵から下ろす事に成功した。

私からけしかけて、むしろ強制的に始めさせた訳だけど、これほど続くとは、誰が思うのだろうか。

なんか、意気投合しているように見えたものね。


その後、景家と色部殿の二人の願いを叶えるべく、盛大に宴会を開く。

もう、宴会というより、これはお祭りよね。

上も下もない。

以前にも大きな宴会をやった記憶があるが、それ以上の最大規模で行われた。

相当な赤字になるのは、疑いようもない。

さあ、皆飲め飲め。

私も自棄だ。

今日は飲んでやる!

そんな勢いでいたら、私以外の皆酔いつぶれてしまった。

その為、政景と景信の標的が私に変わることになったようで、酒を飲むとなった時は、二人して何かと私に張り合うようになってしまった。

もう訳が分からないけど、仲が多少は改善出来たようだし、まあいいか。

ひとまず相撲は終わり。

なんでこんなに続いてしまったのだろう。

さらっといくつもりだったのに。


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また、様々な感想を頂けるとありがたいです。

今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。

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