春日山城入城
私は今、春日山城のすぐ近くまで来ている。
兄上と結んだ調停に従い、私が春日山城に入る為にだ。
私は必要ないと言ったが、景家は頑として譲らずそれなりの兵を私に付けていた。
無論、景家自信も付いてきている。
「バッハッハ、久方ぶりの春日山城の偉容ですな!」
「そうね、久しぶり。でも一年も経ってないのよ?」
「だとしても感じ方は人それぞれというものでしょう?」
「まあ、確かに。」
「さあ、向かいましょうぞ。」
「いや、本当にいいんだけど。」
「何をおっしゃる!ここまで来た事を無駄とされるおつもりか!」
「ああー、もういいわよ!好きになさい。」
城に入る為に、私が率いるように見える軍勢は粛々と進む。
城下町では歓迎された。
歓迎されるような事柄は何一つしていないが、それでも歓迎された。
口々に「あれが毘沙門天の化身か!」とか「これで越後は安泰だ!」とか。
以前にも来ているんだから、そんなに物珍しい訳でも無いだろうに。
いや、騒いでいるのは新たに越してきた者か、それとも他所の土地で生きる者か。
私を見たことが無い者からすれば、それは物珍しいか。
「景虎様、やはり自分に馬はやはり早かったのでは。」
「何よ段蔵。士分に取り立てろって言ったのはあなたじゃない。」
「それはそうなのですが、これまでの生活に比べて余りに変化が過ぎた物でしたから。」
「まあ、慣れなさいよ。それに、これから先任せる仕事は、あなたの特技を生かした、泥臭い物ばかりになるかもしれないんだから。こういうなんか華々しい時くらい、しゃんとなさいよ。」
「はっ、はい。頑張ります。」
はい頑張って。
今回、段蔵は私の護衛としてすぐそばについていてくれている。
不足の事態に備えてというやつだ。
その実力は、泰重からも太鼓判を押されていた。
段蔵は、私からの禄を食む武士として表向きはなっている。
が、裏では乱破としての腕を発揮してもらうことになる。
イメージ的には服部半蔵みたいな感じかしら?
有名だものね、ハットリ君。
あ、私が命じたら語尾にニンニンとか付けて話すのかしら?
まあ、命じないけど。
さて、しばらく城下町を練り歩くように移動を続けていると、やがて春日山城の門前にまでたどり着く。
あっさりと調停を結んだところから、兄上自体にはそこまで兄妹で合い争うつもりは無かったと思う。
門前にはそこを守る兵がおり、こちらを見ていた。
それらに手を軽く振って挨拶の代わりとした。
ペコリと頭を下げる門兵。
さらに中に入り、下馬をして城の内部に入る。
入り口付近には顔をよく知る女性がいた。
こちらをにこやかに、見守っているようなそんな優しい視線。
「お久しぶりです、綾姉様。」
「元気にしていたみたいね、虎千代じゃなくて今は景虎様だったわね。」
「嫌だわ、綾姉様。そんな他人行儀なの止めてくださる?」
「そう?存外様付けも悪く無いと思うわよ?」
「またそんなことを。」
「ウフフ、冗談よ。」
相変わらず綾姉様は美しくそこにいた。
もう嫁いでしばらく経つというのに。
まあ、少女の面影は無くなってきていたけども。
「それで、綾姉様。何故こちらに?」
「決まっているじゃない。私の旦那に頼まれてよ。」
「旦那というと長尾政景殿よね。でもそれって?」
「今回は兄上の味方をしたからね。でも講和の話が出てきたらあっさりと受け入れてしまったでしょ。それで立場に窮した訳よね。」
「あー、なるほど。綾姉様も大変ね。」
「でもお陰で景虎に会える口実になったし、損はしてないわ。」
確かに私を排斥しようとした中心人物な訳で、兄上との調停が済んだ今、かなり危険な立ち位置に置かれているのは分かる。
攻められてしまえば、命脈は絶たれるも同じ。
それなら私と仲の良い綾姉様を送り出すのも理解できる。
今回に関しては、私と直接戦をしたわけでもないし、綾姉様の嘆願もあるわけで不問にしたいと思う。
「さ、それじゃ早速向かいましょうか。」
「えっ?綾姉様も?」
「さすがに、私はあなたと兄上の話し合いに顔は出せないわよ。それでも部屋までの案内役くらいはさせてほしいわ。また兄弟仲良く過ごせるようになるんですもの。」
「そう?何だかずいぶんと心配させてしまっていたようで申し訳ないわ。」
「そんなことを言い出したらキリがないわよ。私も武門の家に生まれた娘なんだから、多少の心構えは出来ているわ。」
「やっぱり強いわね綾姉様。さすが私の姉上だわ。」
「持ち上げても何も出ないわよ。さ、行きましょう。」
「ええ。」
私は姉上に伴われて、城主の待つ部屋へと向かう。
兄上、元気にしてらっしゃるかしら。
何とかまとまったので。
これで第一話の回収も出来たでしょうか?
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