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選んだ道

私がやれといえば、皆がするのだろう。

私が攻めよと命じれば、それに従って攻め始めるのだろう。

だが、それが何になるのだろうか?

わざわざ手に入れた平穏をなげうつ必要性がどこにあるというのだろう。

無論、平和といっても一時のものであろうし。他国からの攻撃もあるかもしれない。

だがそのときには一丸となって事に当たればそれでいい。

ただそれだけの事じゃないか。

それだけの事なのだ、それだけの。

だが、現実は無情だ。

これが私が思っているだけだとすれば、なんと悲しいことだろう。

結局は、私の思いを分かち合う事が出来る人など、どこにもいなかったということになる。

裏切り、恨み、妬み。

それが身内で起きる?

何の冗談だ。

いや、冗談だとすればこれ程質の悪い物は無い。

すでに賽は投げられた。

いや投げられていた。

だとしても、簡単に割りきれる事は無い。


「お虎兄ちゃん!」

「うわっ!何よ、弥太!」

「いや、怖い顔してぶつぶつ何か言ってるからさ。」

「ああ、そうだった?」

「いつもと違って中々怖かったぜ。」

「私が?」

「おう!ほら見てみなよ。皆驚いてるぜ!」


そう言って弥太が指し示す方に目をやると、廊下に妙がペタりと座り込んでいた。

何よ?

そんなに怖かった?


「妙、そんなところに座っていないで中に入ってらっしゃい。」

「あっ、失礼しましたお虎様。」

「何を今更取り繕ってるのよ。別に怒ってなんか無いわよ。」

「でも・・・お虎兄ちゃん。その顔昔見たことがあるよ?」

「昔?そうだったかしら?」

「うん。お寺で私達が襲われた時に。」


そう言われて、はっとする。

あのときは、怒りで周りが見えずという状態になっていた。

それこそ、天室光育和尚に毘沙門天の化身と揶揄されたほどに。


「ゴメンね、妙。嫌な事を思い出させちゃったわね。」

「ううん。ちゃんとお虎兄ちゃんは助けてくれたもの。」

「そう?」

「そうだよ。」


そう言って、フワリと花が咲いたように笑う妙。

それだけで、何故だか救われる気がした。

根本的な解決は何もしていないのに。

それでも、心持ち軽くなった気がする。

私もまだまだダメね。

すぐに心を乱すようでは。


「何か、急に穏やかになっちゃった。つまんねーの。」

「何がよ弥太?」

「そうよ。それとも、お虎兄ちゃんが四六時中怒ってる方がいいの?」

「うえー、それは勘弁だよ!」

「だったらバカな事言わない!わかった?」

「分かったって!」


弥太も、妙には頭が上がらないみたいね。

まあ、妙だけじゃなくて、結と香にもみたいだけど。

まあ、それでいいのよ。

対外的にはともかく。

家の中では、家族の中では女が強いのはどうしたって仕方が無い事でしょ。

それに、その方が案外上手く家が回るものだったりするし。


「ありがとう、二人とも。でももう少し考えたい事があるからまた後でね。」

「わかりました。あんまり根を詰め無いようにしてくださいね。」

「何かあったらすぐ呼んでよ!飛んでくるからさ。」


仲良く連れだって部屋を出ていく二人を見ると、本当の兄弟のように見える。

ちゃんと心が繋がっている証拠だ。

であるなら、それこそ血の繋がった兄上とだって同じように出来るはずだ。

いや、そうでなければならない。


やがて、考えを巡らせ続けた結果、一つの答えに行き着く。

いや、そもそもその考えにしか行き着かなかったはずだ。

不戦を貫く。

ただ、それだけだ。

勿論、簡単にはいかないだろう。

相手に攻めかけられているのに、こちらが反撃が出来ないなどと誰も認めはしないだろう。

あくまでも、限定的な不戦となるのは明らかだ。

それにその態度を見て、弱腰な対応だと批判する者も出るだろうし、離反者も出るだろう。

だとしても、それを貫く。

決してこちらからは攻めかけない。

これが私の選んだ道。

決して誰の思惑にも乗ってやるもんですか!

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