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越後がにわかに騒ぎだす

「して、何と?」

「はっ!お話をお受けするとのこと。」

「成る程、それは重畳。それでは、これより計画を始めさせていただくと先方に伝えよ。」

「かしこまりました。」


男にそういわれた者は、すぐにその場からいなくなる。

そして、その場には男一人だけ残される形となった。

クスリと男は一人笑う。

自らの計画が、越後に動乱を再びもたらす事になろうとも、最終的には安寧を得ることになると信じて。


◇


秋を迎え、私が植え替えを指示した田んぼは、まさに豊穣の秋を体現していた。

それまでの物よりも元気にスクスクと育った稲は、深く頭を垂れている。

これにより、また評判が上がってしまうわけだが、まあそれはいい。

それよりも、民百姓の生活を安定させてやれれば。

民が潤えば、巡り巡って私達にも、恩恵を得ることが出来る。

それに、嬉しそうに笑う人の姿は何者にも代え難い。

それにしても、金色に輝くその姿には見とれてしまう。

遠くの山々との対比とも相まって、とても美しい。

時おり、作業する手を止めてこちらに挨拶をしてくる者達に手を振って応えつつ、ゆっくりと馬の上で揺られながら道を移動する。

そんな私のもとに、駆け寄ってくる小さな影が一つ。


「お虎兄ちゃん!中条さんが来てるよ!」

「あら、中条殿が?何のようかしら?」

「わっかんない。でも、お虎兄ちゃんに会いたいってさ。」

「そう。ならすぐに行こうかしらね。」


中条殿とは、久々に会う。

夏の遠泳大会にも来てはいなかった。

自由参加としていたため、参加するつもりがそもそも無かったからなのか、それとも面倒だと感じたのかは分からない。

すぐに城に戻ると、中条殿が待つ部屋に向かう。

そこには、ピンと背を伸ばして座っている姿があった。

その姿はなかなか凛凛しい。


「それで、中条殿。今日はどうしたのよ。」

「いやいや、お顔を見に来ただけですが。」

「そんなおべっか、使うような人じゃないでしょ?」

「これはまた手厳しい。」

「それで?」

「ええ、実はですな。どうにも晴景様が、景虎様の事を疎み始めておるようなのです。」


藪から棒に何だというのだろう?

兄上が私を疎む?

そんなことはあるわけがない。

そりゃ、今年に入ってから会う機会を得ることが出来ていないけれど。

だからといって、ただ会えないだけでそう考えるのは短絡的というものだ。

会えないからこそお互い思い合う事だってあるはずだ。

それが“兄妹”だとしてもだ。

決して“兄弟”ではない。


「アハハハハ、いくらなんでもそれは無いわよ。」

「ほう?その根拠となるものは?」

「兄妹の仲に根拠も何も無いでしょ?」

「そうでしょうか?兄弟であるからこそ何かかけ違えれば、その恨みつらみはより強いものとなりましょう。それこそ他者よりも。」

「もう!止めてちょうだい!そんな話聞きたくないわ!」

「これをご覧になってもですかな?」


取り出したのは、一枚の書状。

そこには、私を排斥しようとしていることが伺える文章が、つらつらと書かれている。

そして、兄上に強い実権を持たせなければならないと。

差出人の名前は、長尾政景となっていた。

確か長尾政景といえば、綾姉様が嫁いだお相手だったはずだ。

今だ顔を見た事もない親類に、こんなことをされなければならないのか。

それこそ、私の代わりに自らが立って、私の立ち位置と取って変わろうということにしか見えない。

そんなことをせずとも、綾姉様が嫁がされるほどの相手なのだ。

ということは、それなりに配慮されているはずだし、ある程度の権限くらい持っているでしょうに。

むしろこんな事などせず、兄上のもとで両輪として働けば、より越後は発展するだろうに。


「いかがですかな?」

「いかがも何も、これだけでは兄上が私を排斥しようとしている証拠にはならないでしょ?この長尾某が、言っているだけなんだから。」

「それに賛同する者達があってもですかな?」

「そんな人がいるっていうの?」

「ええ。そして、それに対して反感を持つ者も出ています。既に晴景様派と景虎様派に別れ、一触即発といった具合になりそうですな。」


私の預かり知らないところでそんなことに?

夏集まった時には、そんな素振り見せていなかったじゃない。


「恐らくではありますが、このまま景虎様が立たずにおっても、やがては戦に発展することは必定でしょうな。」

「何てこと・・・」

「もう、腹を括る以外にはありますまい。」

「そんな事は無いわよ。きっと何か回避する方法があるはずよ。」


そう、きっとあるはず。

いちいち血を流さないでもすむ方法が。


「であればよろしいのですがな。さて、伝えるべきは伝えましたので、そろそろ帰らしていただきましょう。準備もありますからな。」

「準備?もしかして。」

「ええ、いつ戦になっても良いようにしておきませぬと。」

「勝手に暴発するのは許さないわよ!」

「成る程。では号令をかけていただける訳ですな。それではそれまで待つといたしましょう。もっとも、他の者達に関してはどうなるかわかりませぬが。」


そうして、中条殿は帰っていった。

私がとるべき行動は何だろう。

残された部屋で、一人呆然とすることになった。

ブックマークや評価を頂けると、物凄くモチベーションが上がります。

また、様々な感想を頂けるとありがたいです。

今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。

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