医療水準
食事をしながら読むのはやめましょう。
一応のご忠告。
結果的に、黒田一族を攻め滅ぼすことになってしまった。
手にした力に慄くが、立ち止まっているわけにもいかない。
何はともあれ、兄上に報告を入れるのが先決だろう。
そう思った私は春日山城に使いを走らせる。
その間、一先ず黒滝城に入り、城内の片付けに追われる。
戦の爪痕が残る城を整備していく。
死者を埋葬し、投降した負傷者の傷を治療させる。
城の一部の部屋を開放して、怪我人たちにあてた。
が、そこで衝撃を受ける。
「あんた!何やってるの!」
「は?うわっ!景虎様?」
「今はそんなことより何してたか聞いてるのよ!」
「ですから治療を。」
「傷口に何塗ったのよ!すごい臭いよ!」
「これは馬糞になりますな。」
「何でそんな物を?馬鹿じゃないの!」
「えっ?いや、これが昔からの治し方でして。」
昔から!
昔から、こんな不衛生なことをしていたというの!
何なの!
これ考えた奴は本当の大馬鹿者よ!
それに色々と聞いていくと、馬糞を溶かした物を飲まされたり、最悪馬糞が無い場合は人の物を代用したりと、どれだけ糞尿好きよ!
私にそんなアブノーマルな趣味無いわよ!
それに、そんなことをすれば感染症にでもなってしまうじゃない。
破傷風とかになっても責任取れるの?
「あー、もう見てられない!ちょっと私と変わりなさい!」
「はっ?景虎様に?」
「そうよ!薬草とかは無いの?」
「あることにはありますが。」
「ならそれの準備!後傷口には今後、馬糞なんぞ塗り付けない!そんなことをした者が居たら教えなさい!シバキ上げて上げるから。」
「うへー、わかりました!」
さて、今まで治療をしていた者と場所を変わる。
おおう、すごい臭いね。
とりあえず、この傷口に塗り込まれた馬糞を綺麗に洗い流さないと。
周囲を見回してみる。
「綺麗な水は用意していないの?」
「水ですか?」
「そう、傷口を綺麗に洗うのよ。」
「傷口をですかい?」
「あーっ!もういいからさっさとなさい!」
「ひょえー、直ぐに用意します!」
私が怒鳴ると、直ぐに何処かに飛んでいく。
そして、たらいを持って戻ってきた。
その後ろに続くように、何人かが桶を持って続く。
目の前で、たらいに水を張っていく。
水は透明であり、どうやらちゃんと綺麗な水を用意出来たようだ。
「この水はどこから?」
「井戸から引き上げました。」
「そう。それなら大丈夫ね。」
怪我人の、怪我した患部を綺麗に洗っていく。
この水がなかなかに冷たい。
水が沁みるのか冷たいだけなのか、呻き声を出すがそれは無視。
そんなものを気にしていたら、何も出来ない。
が、それでも喚く。
「あー、うるさいわよ!あなたも男なら少しは我慢なさい!」
「いや、怪我人なんですから。」
「そんなことより、ちゃんと見てなさい。私もそんなに詳しくは無いけど、少なくてもあなたの取った方法よりは良いはずよ。」
「はっ、はい!」
「まず、怪我をした患部を綺麗に洗うのよ。その後、傷が酷ければ縫合しないといけないわ。誰か出来るのはいる?」
「それなら経験があります。」
「それじゃあ頼むわ。それと針で縫い付ける時に、針の先を火で熱くなるまで炙ってから縫うこと。患部を縫い付けたら、薬を塗って綺麗な布で覆う。それを包帯で巻いて終わり。分かった?」
ほー、と感心したような顔をしている。
それも周りに居たもの全てが。
なんなら横になって、治療を受けている者からもだ。
料理の調理法だけでなく、こちらの水準も大分低いようだ。
しかし、治療に関しては確りとした体制を作らなくてはならない。
「何にしても清潔にすることが大事なのよ。よくわらかないかもしれないけど、そういうものだと思っておいて。」
「ほえー、毘沙門天は治療も出来るんだなー。」
「そうよ。毘沙門天の化身である私が言うんだから間違いないわよ。」
衛生とかの観念があるのか無いのか分からないけど、こういうときなら毘沙門天の威を借りたって罰は当たらないはず。
悪鬼羅刹を懲罰するついでに、ウイルスの類いも懲罰してくれればいい。
高濃度のアルコールとかあればいいけど、今まで見たことがない。
思わず拝まれるが、致し方ないかな。
部屋に戻ると、伝令が到着したとの報告が入る。
早いわね。
早速、部屋に通す。
すると、書状を手渡される。
いつもなら口頭で済むのに珍しい。
目を通して見ると、労いの言葉から始まっている。
読み進めていくと、今は多忙ゆえ会えないとのことだ。
とても残念だけど仕方ないわね。
しばらく黒滝城にてすごし、体勢が整ったあたりで栃尾城に戻ることにした。
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