第二次黒滝城攻め その一
また懲りもせずに、黒田秀忠が反旗を翻したようだ。
しかし、また何で?
城内にあった備蓄は奪いさっていたし、そんな後がない状態で謀叛なんて出来るんだろう?
どうにもきな臭い。
余程の後ろ楯でもいるのかしら。
にしては前回攻められた時に、誰も助けてくれるような素振りを見せなかったけど。
流石に、厨で話すわけにもいかないので、ささっと食事を済ませると場所を移す。
ここでうどんを取り上げたら、実乃が可哀相過ぎるものね。
「どうなってるのよ、実乃。」
「いや、そう言われましても。それがしも、こんなことになるとは夢にも思いませんで。」
「それで、兄上はなんて?」
「いえ、まだ使いは来てませんな。」
「うーん、どうしたものかしらね。」
「バッハッハ、叛意は明らかなれば、攻め討つのが良いでしょうな。」
確かに、兵を動かすべきなのは分かっている。
だが、動かすには大義名分がいる。
勝手に動かして、こちらも謀反に連動して動いたなどと思われては、たまったものではない。
春日山城が、再び攻められているというのであれば、兵を動かす口実にでもなるのだけれど。
「むしろ、本当に謀叛をおこしたのかしら?」
「伝令からの情報を信じないと?」
「そうは言わないけど、すぐに情報が伝わってきたから。」
「流石に、攻め落として直ぐの城の動向くらいは調べています。」
「ふーん。周到といえば周到といえるのかしら。」
黒滝城が、どのように扱われるか調べていたということか。
定満の慧眼には恐れ入るわね。
考えてみれば、黒田秀忠を生かして捕らえるように言われていたし、もとより許すつもりだったのかもしれないわね。
そうなると本当に兄上に従うか、それとも叛意があるか見極める必要がある。
今回は、兄上の優しさが仇になってしまった形か。
「でも、兄上からは出陣の命令は下ってないわよ。兵を勝手に動かしちゃマズイでしょ?」
「ならば、前回の黒滝城攻めの命令を持って行動すればよろしい。」
「定満、そんなこと言ったって、もう討伐の完了は兄上に伝えてあるのよ?それに論功行賞も終わってるじゃない。」
「何、実乃殿にはまだ何も報いては無いでしょう。となればまだ報奨の授受を履行した訳では無いゆえ、まだ論功行賞も終わっておらず、すなわち戦も終わってはいない。とすれば如何か?」
「それは苦しい言い訳ね。それに兄上に報告してあると言ったでしょ?」
「ではどうなさいます?」
定満の質問に、直ぐに答える事は出来なかった。
皆も一様に頭を捻るが、良い考えは浮かばなかった。
と、そこへ招いてもいない方が表れた。
「何を悩んでいるのだ。」
「えっ?あ、これは上杉定実様。どうしてこちらへ?」
「何、越後守護としての仕事をしにな。」
「と、言いますと?」
「長尾景虎よ、今すぐに越後を騒乱に導かんとする黒田秀忠を討ってまいれ!」
「そっ、それは!」
「なに、生死は問わん。それにどうせ捕らえた所で死罪は免れぬ。ならば戦場で死なしてやるのも、優しさというものよ。」
よもや、この人から命じられるとは思わなかった。
というか、いきなり来て何言い出してるのよ。
誰が勝手に上げたのよ。
それに私に命令出来るのは兄上だけよ?
だが、私以外はそうは思わなかったようだ。
「景虎様、これは好機です。守護様からの命であればこれ程の大義名分はございません。」
「それは確かに。渡りに舟というものです。」
「バッハッハ、となれば準備をさせねばなりませんな。揚北衆にも連絡をしなくては、武功をとられたと文句を言われてしまいますな。」
「いや、でも・・・」
「それにぐずぐずしていては、黒田秀忠めが、どのような行動に移すか分かりません。また春日山城を攻めさせる訳にはいきますまい。」
「そうね・・・分かったわ。すぐに準備をして出立しましょう。」
どうするか悩んだが、兄上やお母様が危険にさらされる可能性もある以上、否やは無い。
私が出陣の準備を命令すると、一気に城内は慌ただしくなる。
陣立ても考えなくてはならないし、これはまた大変よね。
「うむ。しっかりと働いてまいれ。」
「かしこまりました。定実様のご期待に添えるよう努めて参ります。」
「それは殊勝な事よ、励めよ。」
「はっ!それでは準備がありますので失礼します。」
「うむ。さて、儂も戻るか。」
こうして再び、黒滝城攻めをすることになった。
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