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蕎麦といったら?

定満に色々と相談事をしていたら、様々な雑務に追われていたのであろう実乃が、ようやく帰ってきた。

黒滝城を、兄上に引き渡しを行ってきたという話だ。

本当に良く働いてくれる。

ご苦労様と、心の底から声をかけてあげたくなる。

私の目の前にいる実乃は、少しふてくされたような表情をしていた。

折角帰ってきたというのに、仕事を終わらせてきたというのに、いったい何が不満なんだろうか?


「晴景様は黒田秀忠を許し、再び黒滝城に付けるとのことです。」

「お疲れ様、実乃。」

「いえ、これもお勤めと考えれば当然の事です。」

「それは素晴らしい考えね。あなたのような人が、私の元に来てくれたのは本当に嬉しいわ。景家や定満は、いつも通りあの調子だし、揚北衆の面々もね。」

「はい、確かに。」

「そこをいくと、実乃は色々粘り強くこなしてくれるから本当に助かっているのよ。」

「それはありがたく。」


何だか固いのよね。

それとも何か怒らせるような事でも私やった?

全く身に覚えが無いんだけど。

軽く顎をさすって思案するものの、何も思いつかない。

そんな私の気持ちを読み取ったように、実乃が口を開く。


「ところで、黒川殿と鮎川殿にはもう?」

「え?えぇ。料理を振る舞ったらそれは喜んでくれたわ。あれは作ったかいがあったというものよね。」

「柿崎殿や宇佐見殿にも?それに他の揚北衆の者達にも?」

「たまたまいたからね。流石にあそこで除け者には出来ないでしょ?それに皆で食べた方が美味しいでしょ?」

「ええ、あれはなかなかに良い物でしたな。また機会があればいただきたいものですな。」

「そして、そこにそれがしの席は用意されていないと?」

「それは、その場にいなかったから仕方ないわよね。」

「うぅ・・・ひどいですぞ!」

「なっ、何がよ。」


急に激高する実乃。

その急変ぶりに驚かされる。

で、何が酷いのよ。

仕事を立派に勤めてきたのはちゃんと誉めているし、実乃が私の作った料理を食べる事が出来なかった理由も説明したじゃない。


「景虎様は、それがしの気持ちを知っていながら、このような仕打ちを。」

「何言ってるのよ。」

「実乃殿!ここは落ち着きなされ!景虎様は本当に理解しておられない。」

「なっ、なんと!」


私に飛びかからんばかりに、鼻息を荒くしていた実乃を定満が抑える。

こんなところで下手な事をすれば、どのような責を負わされるか考えなくてはならなくなってしまう。

定満に言われてしおしおと萎びれる。


「ありがとう定満。」

「いえ、たまには動きませんと体が鈍ってしまいますからな。」

「それで実乃。存念があるなら言ってごらんなさいよ。苦労をさせたのは分かっているから、多少の事なら、聞いてあげなくもないわよ。」

「本当にございますか?」

「こんな時に嘘なんてつかないわよ。さ、言って。」

「それでは言わせてもらいます。それがしにも、その振る舞われた料理をお与えくだされ。」

「は?」


何?

実乃は天ぷら食べたさにワーワー言ってたわけ?

そういえば、揚北衆も私の作った物を食べて、それは喜んでいた。

つまり、それが食べたいと?


「成る程ね、分かったわ。」

「おお、それでは!」

「でもダメね。」

「なっ、何故です!」

「天ぷらって油で揚げる料理なんだけど、あれ大量の油を使うのよね。一人分を作る為だけには使えないわ。」

「なんということだ・・・」

「それに、蕎麦も粉を引いてないから直ぐには作れないし。」

「おお・・・」


私の言葉に項垂れる実乃。

流石に、これは可哀想になってきた。

天ぷらはともかく、蕎麦は食べさせる約束をしていたし。

そうなると、何か代用品でも考えないとダメかもね。

こんな事で使い物にならなくなったら、目も当てられない。

代用品か・・・

蕎麦の対極というと・・・うどんかしら?

完全にカップ麺のイメージに支配されてるわね。

確か小麦粉が残っていたし、上手く作れるか自信ないけど。


「変わりにうどんでも作りましょうか。試作もなしのぶっつけ本番だから、どうなるか分からないけど。」

「うどん・・・ですか?」

「聞いたことはありますが、食べたことはありませんな。」

「なら決まり。取り敢えずそれで我慢してちょうだい。そのうちに、蕎麦切りも天ぷらも用意する機会を作るから。」

「絶対ですぞ!」


ということで、また調理をすることになってしまった。

まあ、これからお昼にでもしようかと考えていたところだったし、それもいいかもね。

で、うどんなんだけど小麦粉に塩を少量加えて、ひたすら練る。

で、出来た生地を薄く伸ばして細く切る。

それを茹でたら出来上がり。

で味付けだけど、以前買っていたたまり醤油を軽くたらり。

だし汁まで作るのが面倒だったということは内緒だ。

何せ、竈でお湯を沸かすのだけど、火の調整が異常なまでに難しい。

何度も使用するうちに馴れはしたが、それでも油断をすれば、だしの良い風味や香りが、さっとどこかに飛んでいってしまう。

まあ、私のテンションがそこまで高かった訳では無かったことも影響していると思うけど。

ちなみに、生地を練ってくれたのは重太と弥太だったりする。

私が、何やら始めたと聞き付けて飛んできたようだ。

三人娘はというと、他の雑事に追われて顔を出す事が出来なかったようだ。

まあ、三人の分はちゃんと取っておくけども。


「これが、うどん?」

「麺ですな。」

「うん、美味しいです。」

「やっぱりお虎兄ちゃんはスゲーぜ!」

「バッハッハ、中々いけますな!」

「さすが柿崎殿、聞き付けて来ましたか。」

「そりゃ、城内に居れば直ぐに耳に入るわい!」

「これが、それがしの為に作られた物。」

「シンプルだけど、中々美味しいと思うから試しに食べてみて。それに何か嫌な予感がするから。」

「しんぷる?良くわかりませんが、早速。」

「かっ、景虎様!こちらに居られましたか!」


実乃が、箸を付け口に運ぼうとしたその瞬間、大声が響く。

何かと見れば、以前私のところに駆け込んできた伝令さんだ。

お疲れ様です。


「どうしたの、そんなに慌てて。」

「黒滝城主、黒田秀忠ご謀反!」

「「「え?」」」


またですか?

さすがに実乃が可哀想なので。

果たして実乃はうどんが食べられるだろうか?



ブックマークや評価を頂けると、物凄くモチベーションが上がります。

また、様々な感想を頂けるとありがたいです。

今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。

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