こぼれ話 時には昔を思い出して
本編とは関係ありませんよ。
何となく暇が出来ると、ふと昔の事を思い出してしまう。
昔と言っても幼少期の事ではない。
いうなれば前世の事である。
つまり、私が周りから『景虎』と呼ばれる以前の『早苗』という、パッとしない源氏名をつけて生活していた時の事だ。
何故『早苗』なんて名前を使っていたのか。
答えは簡単だ。
私の憧れの女性(というか女の子)の名前を拝借しただけにすぎない。
本物の早苗はどうしているかって?
今では結婚も済ませ、格好いい旦那に子供二人という、絵に書いたような幸せ家族になっているわよ。
因みに、その早苗ちゃんのお相手である忠君は、私の初恋の人だったりする。
とはいえ、叶わぬ恋であるのは重々承知していたし、早苗ちゃんが好きな人だって事も知っていたから、むしろ私が率先して二人をくっつけたようなものよね。
はぁ、馬鹿な女よね私。
それでも、オカマとして活動するようになっても、二人は私との付き合いを止めるような事は無かった。
名前を借りるといったときも「私の名前なんかでいいの?」とか言っちゃってね。
二人はどうしているかしらね。
きっと、今も幸せにしているはずよね。
じゃなかったら、化けてでちゃうから。
私が皆に、オカマだとカミングアウトしたのは大学在学中の事だ。
そして、私はそれなりの大学を卒業すると同時に、夜の街に羽ばたくことになる。
たまたま飲みに行ったお店に、私の大恩人にして人生の道しるべとなる目標の人に出会った。
つまりママに出会ったのだ。
まだ、この時は周りには、自分の悩みについて話をしてはいなかった。
でもママと話をして、その考えが段々と変わったのを覚えている。
あれほど、堂々と自らの存在を主張出来るということが、その当時の私にどれ程眩しく写っただろう。
それがとても素敵な事で、格好いい事かと思い知らされてしまったのだろう。
そして気付いたら、私の事をママに話していた。
包み隠さず全てをだ。
ニッコリ笑ったママは私に言ったわ。
「お前も同類かい!」
ってね。
何だと思ったのかしら?
もしかして言い寄っているとか勘違いしていたとか?
ううん。
そんなことは無いわよね。
何せあのママだもの。
やがて、大学を卒業してママのお店に就職することになった。
店の名前は『花魁ボーイ』
もう何が言いたいかよくわからないわよね。
店内に花魁の格好をしたキャストなんて一人もいないんだし。
店で働きだした頃から、ようやく本当の自分をさらけ出せたからか、すごく生きていくことが楽になったのを覚えているわ。
今考えると、やっぱり若かったのね。
お酒も煙草もこの時覚えたのよね。
懸命に働く私を、ママは優しく見守ってくれたわ。
時折、お客を取り合ったりしたのは良い思い出よね。
長いこと働いていると、ママの金言というのを賜る事があったわね。
“オカマは難しい事を考えない”
“明日を見るな、今を生きろ”
“思いは隠さず話せ、オカマが尻込みしても仕方ない”
“人の気持ちを理解できる最高の存在がオカマである”
“オカマたるもの強くあれ”
“女よりも女らしく”
“男は根性女は度胸両方持ってるオカマは最強”
そして
“何者よりも自由に”
これまでの私の考え方が、ぐるりと百八十度変わった気がした。
ママのお陰で生まれ変われた気がした。
まあ、本当に生まれ変わって『景虎』になるなんて思いもしなかったけれど。
新しい仲間も沢山増えたし、私目的で来てくれるお客も出来た。
本当に幸せだったわ。
ママ、私時代は違うけれどあなたの教えを守って生きていくわ。
たまに挫ける事もあるかもしれない。
でもそんなときこそ、ママの教えが生きてくるはずよね。
きっと強く、たくましく、そして美しく生きていくわ!
一部、本物のオカマの方のおっしゃっていた事を引用していたりします。
あの人達って実際のところ頭の回転がすごく速いんですよね。
接客業という事もあるんでしょうけど。
話してみると驚きますよ。
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今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。




