私の姉
しばらく侍女のつやと話をしていると何か視線を感じる。
いったいどこから?
覗きは女の敵よ!
そう思い、静かにその視線を感じる方を見やる。
視線を感じる方。
つまり、つやが入ってきた入り口をだ。
そこには、障子に隠れるように少女がたたずんでおり、こちらをじーっと見つめていた。
あれで隠れているつもりかしら?
光のおかげで障子に影が写り、なんというかモロバレであった。
ずいぶん可愛らしい真似をする子ね。
頭隠して尻隠さずとかいう言葉を思い出すわね。
いや、言葉のそれとは逆転しているけども。
「ねぇ、つや。ちょっと質問があるのだけれど。」
「いったいなんです?」
「あそこでこっちをじっと見ている女の子は誰かしら?」
「女の子でございますか?」
そう言って、つやは入ってきた方を見て驚く。
「綾姫様!何をなさっているんですか!」
「綾姫様?あら、お姫様だったのね。」
「虎千代様の姉上様ではありませんか!」
綾姫の行動を咎めてみたり、私の言葉に大声を出したりと、つやは大変そうね。
存在がばれた綾姫は、ばつの悪そうな顔をしてこちらにやって来た。
「どうなさったのです、綾姫様。」
「虎千代が心配で様子を見に来たら、起きてたみたいだったのだけれど、私がいきなり入り込むのもどうかと思って。」
「そうだったのですか?」
「虎千代が元気そうで安心したわ。」
「あら、それはありがとう。どうにも心配させてしまったようね、御姉様。」
「まあ、私のせいだからね。気にも病むというものよ。」
「御姉様の?」
私の言葉にコクンと頷く。
いったい何をしたというのだろう。
もっとも、この小さな体に対してであれば、自分より大きな体であるこの少女に、何かされても抵抗出来ないだろう。
やだ!一体何をされたの!
変な妄想をすべきではないが、ついつい言葉に刺激されてしまう。
「少し悪ふざけが過ぎたわ。後ろから膝を小突いたら転んでね。」
「膝?」
「そう。こう後ろから私の膝で、ね。」
ウソ!
まさかの膝カックンで意識を失ったの!
そんな人聞いたこと無い。
もしかしたら、世界初の膝カックンでの死亡者になるところだったの!
そんなの嫌よ!
「虎千代がもう起きなかったらと思うと、夜も寝れなかったわ。」
「あら、そうだったの?それは気の毒な事をさせたわ。」
「うん、だからお昼はよく寝たわ。」
「それはただ単に、お昼寝のしすぎよ。」
綾姫の言葉にカラカラと笑い声をあげると、それにつられて綾姫も笑いだした。
憤懣やる方なしといった具合なのはつやだ。
とはいえ、主君の娘となると変に怒ることも出来ないようだ。
さすがに、心配で眠れないという人間が、それなら昼に寝るなどというふざけた事はしないだろう。
それも、自分のせいで引き起こしてしまっていた事柄によって、身内を傷つけてしまったとなれば、その心中を伺い知ることはできない。
上手く冗談に繋げる器量をもっているようだ。
これは頭のいい子だ。
まぁ、人によっては怒りだす人もいるだろうけど。
私はその程度では怒らないわ。
良くも悪くも、今はこうして元気に起き上がれているのだから。
あまり攻めて気に病むよりも、仲の良い関係を持つ方が大事だと思うのよね。
「あ、そうだ。目が覚めたのなら早く着替えて父上のところに行かなくちゃ。」
「父上のところ?」
「そうよ。元気なところを見せて安心させてあげないと。兄上もたいそう気にしてらしたわよ。」
あら、御兄様もいるのね。
これはちょっと楽しみ。
御父様もそうだけど、どんな方々なのかしら?
「あら、それは悪いことをしたわね。早速謝りに行かなくちゃいけないわね。」
「そうしてあげて。それで、ちょっと質問だけどいい?」
「何かしら?」
「その口調はどうしたの?まるで女の人みたいよ。それに倒れる前は姉上って呼んでいたのに、今は御姉様?」
「嫌?」
「別に嫌ではないけど、不思議に思って。」
「じゃあ、いいじゃない。細かいことを気にしないのも良い女の条件よ、綾姉様。」
「そういうものかしら?」
「そういうものよ。」
適当に誤魔化すと、父上の元に行くために準備をすることになった。
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