古志郡制圧後
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これはどうしたこと?
下郡を平定し、揚北衆を味方にすることが出来た。
上手く対応できたといえばそれまでなのかもしれないが、皆よく頑張ってくれたと思う。
始めに、私の下に付くことを宣言してくれた中条藤資、反旗を翻したものの最終的に引き込む事に成功した色部勝長に黒川清実。
そして、これまで静観をしていた鮎川清長、小川長資、新発田長敦、竹俣清綱、加地春綱などの名だたる将を長尾家配下とすることが出来た。
これにより、長尾家の越後における支配体制は磐石な物になっていくと思う。
後は、兄上の手腕に期待したいところだ。
どちらかというと内政畑な人だが、話をすれば素晴らしい好人物であることが分かってもらえる筈だ。
一部、それでも反発する反骨心の強すぎる連中もいたが、そこは多勢に無勢というものだろう。
親長尾派となった武将達に、さっさと制圧されてしまった。
これに私は何も言わなかった。
というより、何かを言う前に全て終わっていたという方が正解か。
さて、下郡はどのような財務状況か知りたいところだが、こちらに降ってきた者達の所領は安堵とした為、その内情を伺い知ることは出来なそうだ。
これは色部勝長や黒川清実についても適用した。
多少の心配は有るものの、仮にここで反旗を翻すようなら、即座に周りから攻め落とされるのは必定といえる。
また、中条殿や定満からの進言もあり、あえて力を削ぐような真似はしなかった。
多分、こうなるようにとの規定路線が引かれていたのだろう。
それに、他の反長尾派の連中の制圧に一番気合いが入っていたようで、いつの間にか現れる中条殿より聞かされた。
私に逆らった者達を持ち上げる事で、翻意が無いことを知らしめているのだろう。
しかし、中条殿って何者?
忍者なの?
いや、そんな訳は無いか。
にしても神出鬼没というのがピッタリ当てはまる。
なんとも不思議な人だ。
「さて、これで大手を振って春日山城に報告に行けるわね。」
「そうですね。」
「久々に戻るのか、お虎兄ちゃん。」
「そのつもりよ。妙と結と香の三人にも会いたいし。お母様のご様子も気になるところよね。」
「皆元気にしてるかなー。」
「便りが無いのは元気な証拠でしょう。きっと元気だと思うよ。」
「そうだね!早く行きたいなー。」
「申し訳ありませんが、それには及びません。」
私達三人が話をしていると、定満がススッと近寄ってきた。
こちらの会話を隠れて聞いているなんて、あまりいい趣味とは言えないわよね。
もっとも、慣れというものは恐ろしいもので、定満の行動を咎める者はこの場にはいなかったりするのだけれど。
中条殿だけじゃなく、定満も本当は忍者じゃないの?
「えー、何でだよ、宇佐美のじーちゃん。」
「そうです。景虎様が赴く必要があるのでは?」
「だから、その必要無いと言っているのだ。あと、じーちゃんは止めなさい。」
「どういうことなの?」
「実はですな。本庄実乃殿が既に伝令として立たれたのです。」
「えっ!私は頼んだ覚えは無いわよ。」
「ええ、今の会話を聞いてそのようだと分かりましたので、一応のご報告をと思いましてな。」
実乃は何を考えているのだろう。
勝手に行動すれば、怒られるであろう事は分かりそうなものだけど。
それに私もそうだけど、この子達二人も一度は春日山城に戻りたかったはずだ。
それをわざわざぶっ潰すのは、ある意味背信行為と取られても仕方無いわよね。
どころか、ただ単に喧嘩でも売られているんじゃないかとすら思えてくる。
「まあ、今の景虎様のお立場を考えれば、致し方無いのかもしれませんな。」
「それはどういうこと?」
「景虎様の兄上とはいえ、主君であるのてす。先触れの一つも出すのが普通と言えましょう。それにまだ、古志郡は平定したとはいえ、火種が燻っているようにも思えます。そのような状況で景虎様がこの地を離れるのはどれだけの危険がありますかな?」
「そう言われてしまうと動くに動けないわね。じゃあ、この子達だけでも行かせられない?」
「既に伝令が向かった以上、春日山城に向かう理由は無いでしょう。」
「何?私達を行かせたくない何か理由でもあるの?」
「滅相もございません。ただ、今回は不要にて。」
「それを決めるのは私じゃなくて?」
「いえ、それを決めるは晴景様にございます。」
「どうしてそこで兄上の名前が出るの?」
「・・・」
無言かい!
しかし、兄上の名前を出されてしまったのだから、行くに行けないという事なのかしら?
別に家族に会うのくらい、自由にさせて欲しいものだけれど。
「それなら実乃が帰ってきて、私の登城が必要となれば?」
「無論、登城していただかなくてはならないでしょうな。」
「分かったわ。それなら今回はそういうことにしといてあげるわよ。」
「流石は景虎様。ご理解が早くて助かりますな。」
これは何かあるんだろうな。
一波乱ありそうな予感がするわね。
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