握り飯
さすがに、まだ日が明けない真夜中では作業効率が悪いと考え、私は働いてくれた兵達に少しの時間ではあるが、休息を取らせた。
休んだあとは、おそらく凄惨な事になっていること請け合いの戦場を綺麗にする事になる。
今回、相手方が本陣を張った場所が、農地として向いているかは分からないし、何の利用価値も無いのかもしれない。
どころか、もう二度と訪れる機会もないやもしれない。、
それでも、敵として刀を交えたとはいえ、死人を放置するのはいかがなものであろうかと考えた。
下手に放置すれば、死肉や腐肉を漁る動物が寄り付いてくるだろうし、蛆や蝿などの虫やらが大量に発生するのは想像できる。
城からは程近い場所である以上、被害を被る可能性は往々にしてあるだろう。
となれば、被害に会う前に何とかするのは必然といえる。
感情と利害とが一致する訳で、絶対に行わなければならないだろう。
一先ず、城へと帰還をする。
その帰路で、近隣の住人達が声をあげて歓迎してくれていた。
自らが住まう場所が、戦場とならずに済んだ事。
理由は、これに尽きるんじゃ無いのかしら。
彼らの生活を守っていかないといけないと思うと、胃が痛くなりそうね。
でも、そういう家に生まれてしまったというか転生?してしまった訳で、仕形がないのでしょうね。
下手な人より面倒見が良いのも、オカマの特色といえるのかもしれないわね。
お店のママも、困っている人がいれば助けるように言われてたし。
そうすれば、お客としてリターンを見込めるかもと言ってもいたけれど。
彼らに軽く手を振って、歓声に応える。
兵達も、心なしか鼻が高い思いをしているようだ。
城に着くと、そのまま厨に向かう。
覗くと、そこも戦場のようになっていた。
男達の帰りを待つことしか出来ない女達の戦場。
米を炊き出し、握り飯を作らせていたのだ。
若い娘から歳を重ねた老人まで幅広い。
皆、一様に男達の帰りをただ願いながら、懸命に作っていたのだろう。
かなりの量が作られていることが見てとれる。
その中に、いつも見慣れた顔が二人。
重太と弥太の二人だ。
戦いが終ると、先行して城に戻らせていたのだ。
興奮気味に語らう姿を、優しげな目で見ている者も何人かいるようだ。
「重太、弥太、それに皆!戻ったわよ!」
「あ、お帰りなさい。」
「お虎兄ちゃん、お帰り!」
「「「お帰りなさいませ。」」」
皆が声をかけてくれる。
そして二人は、私の元に駆けてくる。
何の気なしに近づいてきた二人の頭を撫でる。
男の子だからはね除けるかと思いきや、二人ともあっさりと受け入れてくれていた。
私は二人の頭を撫で付けながら、女達に命じる。
「さぁ、皆!男達がお腹を空かせて帰ってきたから出番よ!」
「「「はいっ!」」」
気持ちのいい返事を返すと、慌ただしく厨から出ていく。
きっと、旦那や好いた相手に一番に持って行くんだろう。
ただ、必ずしもその願いが叶うという訳でも無いことはわかっているはずだ。
人気のある者には集中するだろうし、それにあぶれてふてくされる者だっているはずだ。
それならまだ可愛いくらいの話ではあるが。
何せ、こちらが勝ったとはいえ被害を零に抑える事などは到底無理な話。
想い人が死んでしまい、悲嘆にくれる娘も出てくるだろう。
そんな事は皆分かっているだろう。
それでも駆け出さずにはいられないのが、女心というものなんだろうか?
燃えるような恋をしてみたいが、今のところまだ一度もない。
願わくば、彼女達が幸せでいられるといいんだけど。
「お虎兄ちゃん、俺も腹へったよ!」
「あら?まだ何も食べてなかったの?」
「景虎様を待っていました。」
「先に食べていてくれて良かったのに。」
「でも皆で食べた方が旨いよ!」
「それは確かにそうね。少し握り飯を分けてもらって来て頂戴。」
「それなら大丈夫です。きちんとその分は確保してありますから。」
用意周到というほどではないけれど、ちゃんと握り飯をとっておいたようだ。
それに、私を待っててくれた事がとても嬉しい。
育ち盛りなのは私も同じだが、まだまだ子供である筈なのに気配りも出来るようになっている。
気付かぬ内に、いつの間にか大きくなっていくのね。
三人並び、腰を下ろすと食事にありつく。
「美味しいわね。」
「「うん。」」
うなずいて、握り飯をパクつく二人を見ながら私も食べる。
よし、明日はもう一頑張りしないとね。
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