今の自分
考えれば考えるほど、訳がわからなくなってきた。
ここは過去の日本であることは間違いない。
でも、そんなところになんで私が?
お酒を飲みすぎることはこれまでも何度かあったけれど、こんなSFチックなことが起こるというのだろうか?
これまでの事を、もう一度振り返ってみる。
私は名実共に女の心を持つ男。
つまり、俗に言うオカマというやつだ。
ちなみに工事はしていない。
昨日の晩も、お仕事を頑張っていた。
昨日は誕生日ということもあり、常連のお客さんから沢山のお酒を注文していただいたし、私もそれに合わせるようにして浴びるほど、いやそれこそ溺れるほど飲んだ。
そして記憶を無くして、目が覚めると虎千代様となっていたわけだ。
ここでハッと気づく。
こんなことになったのは理由は解らないが、何故男の体でいるのか?
せめて、こんなことになってしまったのなら、女の姿にしてほしかった。
そうしたら、もっとこの時代をエンジョイ出来ると思うのだけれど。
体と心の違いという大いなる悩みは、既に元いた場所に捨て去って来ているから、仕方ないと開き直るしかないのもわかるけど。
悩めば悩むほど、どつぼに嵌まりそうな感じがする。
となればと、考えることはやめることにする。
ママも「オカマは難しい事を考えたらダメよ!」とか言っていたし。
私にとって、ママは人生の生き字引のような人だったから。
それに従うことにした。
ところで、虎千代とは何者なのだろうか?
桓武平氏とかいっていたから、由緒正しい家系であろう事は想像に難くない。
寝かされていた布団も部屋も立派な物だから、それなりのお家柄なのだろう。
で、どこの虎千代さんなのだろうか?
「それで、つや?ここは?」
「ですから、虎千代様の自室です。」
「そうではなくて、ここは何処なの。どうにも今までの事を思い出せないの。」
「そうなのですか?そんなことが起こるものなのでしょうか?」
「仕方がないじゃない。思い出せないものは思い出せないの。」
「えー、ここは春日山城になります。」
「あら、どこかで聞いたことあるわ。」
「今まで住んでいたのですから、それは当然でしょう。」
「そんなものかしら?」
「ところで、今までと違って口調が違う気がするのですが?」
「あら、そんなに変かしら?」
そう言って、頬を手で押さえながら首をかしげる。
この私の仕草すら不思議がっているようだ。
でも、これは考えるときの私の癖のような物だから許してほしいところよね。
「えぇ。なんというか女性らしいというか。」
「そう!?そう見える?」
「えっ、ええ。なんか不思議な感じですね。」
本物の女性に誉められて思わず声を上げてしまう。
面と向かって女性らしいなどと、これまで言われた事がなかったからだ。
さて、春日山城?
たしかどこかで聞いたのよね。
えーっと、どこで聞いたのかしら。
そこで、ピーンときた。
「ああ、上杉よね確か。」
「いえ、長尾家です。上杉家は越後守護のお家で、今は大殿様と争っている相手になりますね。」
「あら?記憶違いだったかしら?」
長尾家ね。
長尾家・・・って、そういえば上杉謙信って昔そういう名字だったわね。
ということは、私はその上杉謙信の親族ということかしら。
これはとんだビッグネームの親族になったわね。
で、その謙信はいったい誰なのかしら。
いい男なら良いわね。
それなりに歴史は好きだったから、戦国武将を見る機会が出来たとなれば興味があるわ。
きっと苦みばしった渋い男よね?
お酒が大好きとも聞いているし、一緒に飲む機会があればいいのだけれど。
確か上杉の姓を譲られる前の名前は・・・なんだったかしら?
そうそう、長尾景虎だったわね。
あら、今の私と同じ虎がつくわ。
これはもしかしたら近しい親族なのかも。
とても楽しみなってきたわー!
さすがに幼名までは覚えていませんでした。
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