戦の為に
翌日から、激務というほどではないが、やることは山積していた。
今のうちに帳簿をちゃんと直して、収入と支出のバランスがとれているか。
民からの上がってくるであろう年貢は適正なのか。
誰かが横から抜いていることは無いだろうが、不正は行われていないのか。
といった、内政面はもちろんのこと、城内に置かれた武器を扱えるように適切な状態にしなくてはならないし、兵たちの練度を少しでも上げておかないといけない。
弓の扱いは、泰重がいるから全面的に任せてしまえばいい。
だが、槍や刀についてはどうしたものだろう。
それなりに鍛練を積んできたから、刀の扱いはある程度慣れたけれど、槍はあまり使いなれていない。
でも、定満に聞くと弓と槍が戦場ではメインの武器になるようで、刀は最後の最後にしか使わないと言いきられてしまった。
さて困ったと思っていたが、ひょんな事からこの悩みは解決した。
「景家、皆の様子はどうです?」
「おお、景虎様。なかなか筋がいいですぞ。今少し足りない所もありますが、十分戦えますぞ。」
「そう、それは良かったわ。頼りにしているわね。」
「バッハッハ・・・こらそこ!もっと腰を入れて突かんか!」
柿崎景家という長尾家が誇る猛将が、駆け付けてくれたのだ。
どうも、父上の時から仕えていたようなのだが、兄上がこちらに寄越してくれたのだ。
中々迫力のある顔をしている。
子供達が見たら泣いて逃げ出しそうな風貌だ。
性格も顔を見たら分かるんじゃないだろうか?
そのくせ気が利くので、他の武将達からも一目置かれているらしい。
兄上に言われたからと言って、そう簡単に来てくれるものなのかと思ったが、どうやら自ら志願してきたらしい。
「戦場が無くてはワシの存在価値が無い。」とか言っていたから、根っからの戦馬鹿らしい。
そんな豪放磊落な男に、弥太が興味を示さない訳もなく、兵たちに混じって槍の訓練をしていたりする。
何とも笑顔が眩しい。
が、私は少し怒らなくてはならないのが何とも。
「こらっ、弥太!」
「あ、お虎兄ちゃん!」
「頼んどいた仕事は終わったの?」
「あ、やっべー!」
「やべーじゃないわよ!ご飯抜きにするよ!」
「御免よ、すぐやるから勘弁して!」
「それならすぐに準備!早いところ片付けてきなさい。」
私に怒られた事もあって、慌てて駆けていく。
回りの兵達から笑い声があがることから、可愛がられているのがわかる。
いずれは将として上に立って指揮する身としては、兵に好かれるのは良いことだと思う。
「バッハッハ・・・弥太は元気がいいのぅ。」
「元気がいいのはいいけど、言われたことはちゃんとやってもらわないと困るわ。」
「確かにそうですな。こういう小さい事がつもり積もっていけば、戦場で独断専行などをしでかすかもしれませんからな。」
「そうよね。甘やかしてきたつもりは無いんだけど。」
「まあ、まだまだ子供ですからな。しかし、なかなか筋がいいですな。成長して体躯も確りしてこれば、これほど楽しみな事は無いですぞ。」
弥太が誉められると、何故だか私も嬉しくなる。
私の事でないから、お世辞ということでも無いだろうから、これから成長してどのような武将になるだろう?
何となく武闘派になりそうだけれど、大丈夫かしら。
何かにつけての解決方法が、腕力に頼るものにならなければ良いのだけれど。
願わくば、善悪をちゃんと理解した素敵な大人の男になって欲しい。
ばつの悪そうな弥太を引き連れて、政務を行う部屋に行く。
まだ、文官らしい者が文官がいないので、私を中心としてひたすらのデスクワークとなる。
重太は、涼しげな顔でひたすらに手元を動かしている。
淀み無い動きに安心する。
もう、重太は戦場に出ないで、ひたすらにやってくれてもいいんだけど。
そうすれば安全な訳だし。
また定満も駆り出していたりする。
「策を練るのが仕事のはずなんですがね。」とか言っていたけれど、「それなら余計に内政に精通しているべきでしょ。」と返したら返答に窮したらしく、大人しく手伝ってくれている。
ここに弥太もおずおずと参加する。
本当なら、遊びたい時期だというのは分かっているが、それを許さない状況であるため仕方がない。
ある程度準備が整ってきた頃、栃尾城近辺の豪族の連中が兵を起こしたと連絡がきた。
そいつらは、この栃尾城目掛けて進軍してきているという。
どうにも兵数がこちらよりも多いらしい。
体がブルリと震える。
武者震いというより、単純に恐ろしさに震えたのかもしれない。
が、ここで引くわけにはいかない。
自分が混乱してしまえば、城内の兵達はより混乱するだろう。
女は度胸。
腹をくくるしかない。
オカマの底力を見せる時が、刻一刻と近づいてきていた。
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