栃尾城
いよいよ栃尾城に移動する事になった。
春頃を予定していたが、反長尾勢の動きが無かったことから夏まで引き延ばされた。
それにともない、正式に古志郡司に任命されることになった。
これで大義名分を得ることになったということになる。
私に付いてきたのは重太と弥太、そして正式に私の家臣となった甘粕泰重といったところだ。
何故か宇佐美定満が付いてきているが、あなた春日山城に詰めてなくてもいいの?
「向こうに守備兵がいるから、その運用は任せるよ。」と兄上に言われていたので、兵数についてはそれほど心配してはいない。
「景虎様、栃尾城とはどのような所なんです?」
「うーん、行ったこと無いからよくわからないのよね。定満は分かる?」
「確か、以前お話させてもらったと思うのですが?」
「そうだったかしら?色んな城と、ごっちゃになっちゃったのかしら?意地悪言わないで教えてよ。」
「はあ、仕方ありませんな。栃尾城は、山城で堅城として知られていますな。」
「えっ?それだけ?」
「それだけ知っていれば十分でしょう。後は城に着きしだい、ご自分で検分をすればよろしい。むしろ、それで私の話した事を思い出してくれれば良いのですがね。」
「まあ、そうね。下手な先入観を持つのも良くないし。」
「いや、わしゃあもう少し詳しく知りたいんですけどのう。」
「そういうことみたいだから、泰重に教えてもらえる?」
「仕方ありませんな。」
定満が泰重に近づいて説明を始める。
それに成る程と首を縦に振る泰重。
二人のベテランの将には、おそらく相当働いてもらうことになる。
私が、まだまだ戦を経験していないヒヨッコなのだから仕方がない。
さて、重太と弥太もさぞかし緊張しているものだろうと思ったが、雰囲気がいつもと変わらなかった。
遠足でも行くのかよ。
そんなツッコミをしたくなるほどだ。
どうも二人の話を聞くと、私がいれば負けることなんてあり得ないと信じきっているようなのだ。
どれだけ買われてるのよ。
まあ、何とか期待に応える事が出来るよう努力をするしかないわね。
栃尾城は、春日山城に比べるとやはり弱冠、いやかなり劣る。
十分堅固な城ではあるのだけれど。
城下町もやはり活況ということもなく、こう言っては何だが、田舎に越してきたみたいだ。
それでも城から見る景色は美しく思えた。
都会には都会の、田舎には田舎の風情というものがあるということか。
今日からは、この城を中心として民を飢えの無いようにしていかないといけない。
そのためにも、兄上に逆らう連中を討伐していかないといけない。
これは骨が折れるかもしれないなぁ。
旅装を解き、早速この辺りがどのような状況であるのか、帳簿でも確認しようと思ったのだが、どれもどんぶり勘定の物しかなく、どうやってこの辺を治めていたのか理解に苦しむことになった。
城に詰めている兵に聞いても、「昔からですよ。」と平然と言われて唖然とした。
越後が飢えている理由ってこの辺にあるんじゃないの?
一先ず、その辺の事は明日考えることにしよう。
さて、城の中をぐるりと回ると色々見えてくるものがある。
どこが攻められると泣き所になるか、逆に強みは何なのかということだ。
強みを最大限に活かす為の布陣をどうすべきか、定満と相談しないといけないかな。
こう言っては何だが、栃尾城の回りは敵だらけなのだ。
戦いの為の準備をしておかなくてはならない。
ただ、どれだけの兵が付き従ってくれるだろう。
それこそ、まとめて向こうに持っていかれたら勝ち目なんか全然ないわけだから。
ちなみに、私が城の中を確認しているとき、重太と弥太も付いてきていた。
優等生の重太はぶつぶつと何か呟いているから、自分だったらどう戦うか考えているんだろう。
対して弥太はそんなこともなく、「腹へったなあ。」と気のない言葉を吐いていたりする。
そういえば兵糧はどうなっているんだろう?
お金も大事だけど、食べるものがあることもまた大事。
調べてみると、それなりには備蓄をしているようだ。
これなら敵に攻められても、しばらくは耐えきれるはずだ。
そこまで確認して今日は休むことにした。
明日からは大変になるかもしれないなぁ。
ブックマークや評価を頂けると、物凄くモチベーションが上がります。
また、様々な感想を頂けるとありがたいです。
今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。




