起きたら和室
目を覚ますと、とても古風な建物の中にいた。
いったいなんでこんなところで私は眠っていたのだろ?
キョロキョロと辺りを見やる。
襖や障子が目に入る。
温かな布団に包まれていた。
上半身を出していると、ブルリと体が震えるのがわかる。
「うー、寒ぅー。」
モゾモゾと布団の中に潜り直す。
自らの体温で温められていた為か、布団の中はとても温く、外に出て様子を見ようという意思を奪っていく。
そもそも、私が普段使用しているせんべい布団とは、寝心地が全然違う。
とはいえ、なんでこんなところで眠っていた?
たしか、昨日はお店で、それこそ浴びるほど飲んだ記憶しかない。
そうそう、私の誕生日のお祝いということで、常連の剛君とか健介君と悪乗りして飲みまくったのだ。
そういえば頭痛が・・・しないな。
なんでだろう?
何となく顔を触ると、私のトレードマークになりつつあった髭がいっさい無い。
これはやはりおかしい。
酔った勢いで剃り落とした?
いや、そんな記憶全く無い。
記憶を飛ばしたとしても、誰かに剃られそうになったとしても、そんなこと私が許す訳無いし、むしろ返り討ちだ。
そんじょそこらの男に負けるようでは、仕事なんか成り立たないのだから。
暗がりの布団の中とはいえ、視界はある。
丁度起きたタイミングが朝か昼なのだろう。
隙間から薄く光が入っているのだろう。
何となく手のひらが小さい。
全身を、その小さな手のひらで触ってみるが、全てが元々の体に比べて小さい。
さすがに怖くなってガバッと布団から起き出す。
なんというか、全身が縮小されている。
いったい全体どういうこと?
驚愕という名の感情しか出てこない。
「・・・寒い。」
訳が解らないが、また布団の中に戻る。
しかし、これはどういうことなのだろうか?
全くもって意味が解らない。
お酒を飲んでいるときに変な薬でも飲んだのかしら?
ってそれは漫画の読みすぎね。
「・・・まあ、いいわ。考えるのめんどくさいし。どうせこれは夢ね。それならのんびりしましょ。」
再び夢の世界に旅立つことを決意した私は目を閉じる。
今、起きていることのいっさいに対して、考えることを手放した。
そうこうしていると、段々と眠気が襲ってくる。
うつらうつらとし出した辺りで、障子が開く音が聞こえた。
「だっ、誰なの!」
思わず声を上げてしまうと、その声を聞いた相手は駆けるようにして私の元へとやって来た。
「虎千代様!お目覚めになられたのですね!全然目を覚まされないから、私はどうしたらいいかと・・・」
そう言ってその人物はさめざめと泣き始める。
これに困惑するのは、むしろこちらだ。
「あんた誰よ!それに虎千代って誰よ!私は早苗という立派な源氏名があるのよ!」
「虎千代様!何を仰っているんです!それにあなた様は桓武平氏の一族ではありませぬか!」
「えっ?それどういうこと?」
「どういうことも何も、あなた様は長尾為景様のご子息ではありませんか!」
「えっ?それ誰?聞いたこと無いわ?お客様にもそんな方いなかったし。あ、ママならわかるのかしら?」
「あぁ、しばらく眠られていたせいで、頭が混乱なさっているのですね。もしかしたら、あのとき頭を打っていたということ?」
そう言って、またさめざめと泣き始める。
別に女の涙に弱いなんてことは無いけれど、さすがにこれは鬱陶しい。
私と虎千代?ってのと勘違いしているようだし、何があったか知らないけれど、その子の事が心配なのもわかった。
で、他人をそんなに心配しても、仕方がないと思うのよね。
「ところであなた。名前は何なの?」
「本当に私の名前をお忘れで?」
彼女の真剣な表情に、私も真剣に答えねばと思い、じっとその目を見つめ返す。
「はぁ、そうなのですね。仕方がありません。やはりあのとき頭を打たれていたのでしょう。私の名はつやと言います。」
「そう、つやさんね。分かったわ。」
「虎千代様!侍女にさん付けは必要ありません。誰かに見られたら怒られてしまいます。」
「そう。ならつやね。それでここは?」
「勿論、虎千代様の自室でしょう。」
「そう、そこなのよ!私が解らないのは!」
「そう言われましても。」
「私は、昨日の夜はお店に遊びに来てくれた子達と、飲み明かしていたはずなのよ。どの辺で意識を飛ばしたのか、記憶に残って無いけれど。」
「それこそあり得ない話です。昨日の夜も、虎千代様は目を覚まされることなく眠り続けていたのですから。それにお店?ですか?」
怪訝そうな表情で、こちらの顔を覗いてくる。
それほど変なことを言ったのだろうか?
一度冷静になって考え直した方がいい気がする。
まず周りを見回すと、襖や障子で綺麗な布団で寝ていた。
体が小さくなっている。
よくよく見ればつやの着ている服は和服。
いわゆる着物というやつだ。
長く生やした髪の毛を後で束ねている。
その姿は、よく日本画で美人画の題材にされるものと相違ない。
そしてどうだ。
自分が着ているのも和服だ。
見れば見るほど子供の姿で困惑する。
これはもしかして・・・
侍女は架空の人物となります。
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