表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/130

生まれかわり

事件はいつも唐突に訪れる。

前もって「今日事件ありますよ!」と教えられても、困る話ではあるが。

それは、ある夏の日の事だった。

いつも通り一日の作業を終え、食事を済ませのんびりと書物を読もうかと考えていた。

最近では、みみずが這いずった後のように書かれた文章も、読み解けるようになってきていた。

慣れとはやはり怖いものである。

段々と、私もこの時代に馴染んできているんだろう。


「お虎兄ちゃん。まだ休まねぇのか?」

「ええ。もう少し読み物をしてからにするわ。」

「そうなの?僕もう眠いよ。」

「弥太、それならもう眠ってしまいなさい。重太、面倒見てあげてもらえる?」

「おう!わかった!」


何故か、私はお虎兄ちゃんと呼ばれることになった。

まぁ、子供達に虎千代様とか呼ばせる気はさらさら無かったが。

どうにも、女性らしい話口調から“虎千代”が“お虎”となり、一応性別は男だから“兄ちゃん”ということで、子供達の間で決まったようだ。

私としては、お虎さんとかでいいと思ったし、なんなら姉ちゃんで良かったと思うんだけど。

まあ、子供達が自分達で考えて決めたのなら、それで構わないけども。

もう眠いとぐずる弥太を、重太にお願いする。

二人は歳が近く三つばかりしか離れてはいない。

が、それでも弥太はまだまだ幼く、重太は事あるごとに面倒を見ていた。

あわよくば、末永く本当の兄弟のような関係性が続けば良いのだが。


さて、まだ夜となったとはいえ、明るさの残る内にしばし読書に興じることにしよう。

月明かりでは目に毒だ。

視力が落ちてしまっては元も子もない。

何とはなしにつらつらと読んでいく。

読むのは源氏物語。

平安時代から続く大ベストセラーだ。

何度も読んだが飽きることはない。

たびたび光源氏コノヤロウ!と思ったりもしたが。

ふとしたとき、どこからか私の名前を呼ぶ声が聞こえた気がした。

こんな時分に、ままあることではない。

後ろを見ると、眠りについた弥太と共に重太も眠っている。

寝かしつけた際に一緒に眠ってしまったようだ。

なんとも嫌な予感がして腰を上げ、二人を起こさぬよう静かに部屋を出る。

何となくではあるが、私が面倒を見ている三人娘の内の一人、結の声が聞こえた気がしたからだ。

あくまでも直感のようなものであり、何もなければそれでいい。

移動する面倒を被るのは自分のみであるのなら、大したことはないのだから。


離れの建物に近付くと、何やら物音がする。

ドタドタと何とも五月蠅い。

こんな夜に騒ぐなんて、女の子としては、はしたない部類に入るのでは無いのだろうか?

女の子は淑やかに、が私の目標ではあるが、それを押し付ける真似はする気が無いし、元気なのは良いことだけども。

でも、部屋のそばに来ると、どうにもかしましく騒いでいる様には思えない。

何かに抵抗しているような感じだ。

いったい何をしているのか?


「あんた達!五月蠅いわよ!」


そう言いながら、部屋と外を隔絶している障子を開け放つ。

すると、そこに居るべきではない者の姿が幾つか目に入る。

妙、結、香の三人は床に組み敷かれており、その上に見覚えのある男がいた。

それ以外にも、その様子を見ている者達もいた。

三人娘の衣服は乱れ、その目から涙を流しているのが見てとれた。

その現場に愕然とする。

これはどういう事?

何で、この子達の上に男が覆い被さっている?

何で、この子達は泣いている?

何で、男の手がこの子達の口を押さえるようにしている?


「何やってんのよ!」

「くそっ!何しに来やがった!」

「お虎兄ちゃん!助けて!」


こちらの姿を確認したであろう男の顔は見覚えがある。

どころかその場にいるもの達全員分かる。

私より先に入門していた先輩の坊主どもだ。

それも、私の行動を疎んじているような態度をとっていた連中だ。

まだ目から光が失われていないように見える事から、ギリギリ間に合ったようだ。


「あんた達!これはどういうこと!」

「うるせぇ!守護代様の子供だからって、女を囲ってる奴が俺達に文句なんぞ言うな!」

「そうそう。ちょっとくらい、俺ら先輩にも良い目を見せてくれよ。」

「馬鹿いってんじゃないわよ!その子達にそんなこと求めてなんか無いわよ!」

「なんだ?本当に男女みてぇだな。」

「あーあー、うるせぇな。まぁ、見つかっちまった以上は仕方あるめぇ。ご子息様と囲ってた娘三人は、賊に襲われて死んだことにでもするしかあるめぇ。」


そう言って、部屋にいた坊主どもが、こちらにゆっくりと向かってくる。

上等だよ!

やってやるよ!

オカマ嘗めんじゃないわよ!


「誰が男女よ!あえていうなら女男よ!」


多勢に無勢などという言葉もあるとはいえ、折角私が保護した娘達を、そのままにすることなど出来ない。

まして、こちらに向かってくるのだ。

人数は五人。

怒りに身を委ねる。

油断しているであろう今の内に、速攻を仕掛ける。

目の前に迫る一人の顎を、思いきりよくかち上げる。

舌を噛んだのか、声になら無い声を出すところに、鳩尾目掛けて思いきり蹴りこむ。

左手から向かってきた者の顔面に、気持ちの良い右ストレート一閃。

右手から来た者の、股間を思いきり蹴り上げる。

これで後二人。

見るからに私の動きに怯みを見せている。

つい数秒前の威勢はどこに行ったのか?

「混乱しています。」といわんばかりの目をしているところを、体重がこれでもかと乗った左フックで吹き飛ばし、残り一人に跳び蹴りを敢行する。

それなりに成長した私の体のお陰もあるが、思ったよりもこの五人弱い。

が、だからといってそれで私は止まらなかった。床に倒れている坊主どもの股間を踏みつけていく。

いや、踏み抜いていく。

こんな煩悩に負けてしまうくらいなら、そんなもの必要ないだろうとばかりに。


さすがにこの大立ち回りをすれば、誰でも気付くものでどかどかと駆けてくる者達がいた。

それこそ賊でも入ったのであれば、直ぐに対応しなくてはならないだろうから。

ふと、私が正気に戻り、振り替えると手に武器をもった者達が、こちらを唖然とした様子で見ていた。

下手をすれば、腰でも抜かしたかのように床に座り込んでいる者もいた。

その中の誰かが私に対して呟いた。


「びっ、毘沙門天・・・」


えっ?毘沙門天?

現代人としての価値観を持っている主人公が自分で「俺は毘沙門天だー!」というわけ無いと思うので、こんな形になりました。

ちなみに三人娘の貞操はギリギリセーフで守られていますので邪推無きよう。



ブックマークや評価を頂けると、物凄くモチベーションが上がります。

また、様々な感想を頂けるとありがたいです。

今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
押してくれれば一票入るようです。どうぞよろしく。 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ