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公方様 その二

「んで、だ。遠路はるばるご苦労さん。」

「いえ、これも幕臣の勤めなれば。」

「そうかい。それで憲政。関東の様子はどうなんだ?」

「はい。一度は伊勢のに敗れはしましたが、それでも上野の奪還には成功しております。これよりは、精強なる越後の兵の力でもって関東に討ち入る所存。」

「そうかい。よろしく頼む。」

「はっ!」


憲政様の言葉に対して、つまらなそうな顔で応える公方様。

にしても、良い男ね。

顔もどちらかと言えば、男らしい顔立ちだし。

体も引き締まっているように見える。

そのくせ、無駄に筋肉はついていないようにも。

変に筋トレでつけたというよりも、ちゃんと実戦に役立つような鍛練によってついているように見える。

体を鍛えるのも、武士としての大事な仕事とも言えるけど、この方は段違いなのようだ。

一対一となったら、組み敷かれてしまうかもしれない。


それに、言葉遣いもそうだ。

一見、ただ粗野な話し方だけど、回りくどさが無い分本題に入りやすい。

ただ、私の場合は、官位を得たことに対するお礼を言いに来ているので、それも全てが良いとは思わない。

公方様がお力になってくれたんだろうけど、あくまでも官位を認めるのは朝廷なのだ。

となれば、朝廷に配慮して、多少は敬意を表するべきなのだろう。

もっとも、その辺の事を理解した上で、わざとあのような態度を取っているようにも取れる。

であるとすれば、なかなかの役者となるわけだけど、その辺どうなのかしらね。


「それで、そっちのが景虎でいいんだな。」

「はい、長尾景虎です。」

「ん?長尾?まだ上杉じゃねーのか?」

「いえ、まだです。」

「ふーん。」


そう言いながら、顎に手をやる公方様。

何やら思案気だが、どうしたのだろう。

それに、もともと私長尾景虎が、上杉憲政様に付いて上洛をしてくるというのは、勿論連絡してあるはず。


「それで、上杉になるのはいつ頃の予定だ?」

「関東を取り返し、関東管領としての儀礼を行うまではなんとも。」

「それで、本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫と言いますと?」


公方様の質問に答えたのは憲政様。

しかし、その返答に納得いかないのか、さらに疑問を投げ掛けてくる。


「少し冷静に考えてもみろよ。憲政が越後に逃げ込んで、すぐに上野国を取り返しただろ?なのにその後が続かないじゃねーか。これは何でだ?」

「それは、先に武田の勢力とぶつかる事になりましたから。」

「本当にそう思っているのか?武田が攻めてくると言っても、越後には被害は及ばなかっただろうよ。いや、それ以前に上野を取ったなら、そのまま関東の連中を焚き付けて一暴れしたって良いだろうに、それもしてない。景虎、おまえ本当に関東に攻め込む気はあるのか?」


何とも答え難い事を言い出してくれる。

ぶっちゃけ、最近は上杉とかどうでもいいかなとか心の中では、思い始めていたというのに。

私が上杉の名跡を継がなければ、関東に攻め込む必要も無い。

それよりも越後を発展させる方が余程建設的だ。

代々、国外の人間を遊びに来させようと考えて、色々な施設を作ってきた。


「これはおそらくだが、憲政。お前に遠慮しての事だろうよ。」

「遠慮?」

「いくら実働部隊を送るのが景虎だとしても、頭にはお前を据えるべきだろう。そこのところを気を使っているようにしか思えん。」

「何と!」

「長尾姓のまま関東に攻め込むのと、上杉姓の状態で攻め込むのとどちらが格好がつく?諸将に号令したとしても、今のままでは軍の盟主に過ぎん。が、これが上杉であればどうだ?長尾の功とするも上杉の功とするも好きにすれば良いが。」

「むむ。」

「いっそのこと、この場で上杉としてしまえ。」


何を言い出しているのかしら?

理解が追い付かない。

いや、この場で?

それはさすがに無茶が過ぎる気がするんですけど。

そういう前例でもあるのかしら?

いや、あったとしても、やはり無茶が過ぎる。


「いえ、それは流石に・・・」

「・・・畏まりました。」


は?

畏まるの?


「成る程。確かに景虎は様々な事につけ、配慮を欠かしてはおりませなんだ。であるのなら、それも宜しいかもしれません。」

「そうか!よく決断した!」

「しかし、関東管領の職はそう簡単には譲れませんが。」

「うーむ、それは仕方がない。が、これで名実共に上杉の跡取りとなる。はっはっ!目出度いわ!」


いや、もう訳が分からない。

うん、もういいわ。

考えるのを止めにしましょう。


こうして、何故か公方様に面会しに来たら、上杉姓を賜る事態になってしまった。

さらに、憲政様より一字与えられ政虎と改名することになった。

どうしてこうなった?



「公方様、宜しかったのですか?」

「んあ?何がだ?」


景虎改め政虎と憲政の二人を帰した後、藤孝が詰めよって来た。

男に近づかれても嬉しくも何とも無いんだが。

まあ、足利の家を心配しての行動と考えれば、悪い気もしないが。

とはいえ、やはり近いな。


「政虎の事です。あのように、虎に翼を与えるが事をして。」

「あ、別に構わねぇよ。それで、関東が落ち着くなら安いもんだろ。しかし、上手い事言うな。」

「そのような事を誉められても嬉しくはありません!そんなことより、何時こちらに牙を向けるか分かりませんよ。」

「心配性だな。が、それは多分無いだろ。だいたい、越後はここから遠い。仮に何かあったとしても、直ぐには何もならないさ。」

「何故そのようなことが分かるのです!」

「そりゃ、分かるさ。俺にはな。」


含みのあるように笑ってやると、呆れたような表情を見せる。

何を言っているのか、分からないといった様子だ。

それも仕方ないし、それはそれでいい。

だが、俺には分かるんだよ。

俺にはな。

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