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山登り

そんなこんなで、比叡山。

麓からも立派な建物が見える。

ここを登るのかと思うと、少し辟易もするけれど致し方がない。

むしろ、折角来たのに建物を見ないなんて選択肢は無いわよね。

仏教の中心とも言える聖地にして、朝廷や幕府からも干渉しがたい権力の集中する場所。

寄付なども多額のものを得ているのかしらね。

最近では、流行りの一向宗なんかに圧される面もあるようだけど。


一向宗といえば、本願寺だったわね。

でも、お寺が京ではなくて、石山の地にあると聞いた時は驚いた。

現代に残る本願寺は、向こうから移転してきたというわけ。

西と東に別れているけど、まだこの当時はそんなことは無いみたい。

となれば、より強い力を持っていても不思議ではないわよね。

何せ力を分散することなく保っているんだから。

それはここ比叡山も同じか。

特に、お寺が別れたなんて話は聞いたこと無いけど。


さて、参道というか山道を登る。

意外と整備されていて登りやすい。

私だけじゃなくて、様々な著名な人達もお参りに来ているでしょうから、それも当然といえば当然よね。


「それで、今日は付いてきて良かったの長重?」

「大丈夫です。公方様との折衝は大熊殿のお仕事ですし。公家の方々との挨拶もあらかた終わってますから。」

「そう?それならいいんだけど。」

「それに、興味もありますし。」

「比叡山に?」

「国家鎮守の要とか言われますもんね。どのような所か見ておけば、話のネタになりますから。」

「なるほど。実益もあるのね。」


今日は貞興と繁長以外にも、長重と泰重の親子達も付いてきている。

さらに、段蔵や蔵人辺りも勿論付いてきている。

それなりの人数がいないと、箔が付かないと考えたのかしらね。

にしても、完全に観光気分のお上りさんの集団よね、私達。

いや、半ば自分自身もそう思っている節もあるけど。

じゃなかったら、こんな山をわざわざ登ろうなんて思わない。

そりゃ、車とかあるなら別だけど。


「しかし、これは良い訓練になりそうですのう。越後に戻ったら、兵達の教練に山登りを加えるべきかもしれませんのう。」

「うげっ!またキツくなるのかよ!いや、それより今だって山に分け入ったりしてるのに。」

「貞興、あれはまだ森の中を行軍する訓練。今言っているのは、あくまで山での行軍の話をしておる。」

「でも確かに効果はありそうか?」

「越後から出兵となれば、山道を通らざるをえない場合もある。となれば、無駄にはならないだろうさ。」

「加藤殿は馴れてるから平気でしょうよ。でも、兵達が山肌にしがみついて戦なんかしないよ?大体平地で斬り合うって決まってる。」

「しかし、様々な状況に対処出来れば、これ程心強いものは無いからのう。」

「あ、これダメだ。もう確定してる。」

「諦めろ、貞興。こうなったら父上は決して曲げないだろうから。」


貞興のぼやきを長重が抑える。

まあ、ああ言いながらも実際訓練となれば、先頭きって突っ走っていくから不思議なものよね。

それに対抗する繁長がいて、二人を冷静に見ながらも、真面目にこなす長重の姿が目に浮かぶ。

段蔵や蔵人は、不思議と苦労しなさそうなのは何故なのかしらね。

やっぱり忍者だから?

山を飛び谷を越えって、なんか涼しい顔でやりそうだものね。

それはそれとして、皆がやるとなると、私も参加せざるをえないかしら?

皆が駆け抜けていく中、一人取り残される訳にもいかないだろうし。

大将だからって、後ろであぐらをかいてるだけじゃ、舐められかねないものね。


そんなこんな話をしていると、やはり移動が早く感じるもので、程なく立派な建物が、しっかりと視界におさまる。

やはり、大したものよね。

でも、あくまでも感心したのは建物だけだった。

問題は、そこに住まう僧達のせいに他ならない。

はっきりと言って、あまり良い印象が持てなかったわね。

最初は、女人禁制の男の園との話を聞いて鼻息を荒くしたものだけど、なんとも拍子抜け。

確かに表面上は男だけに見える。

でも、私の目は誤魔化されないわ。

男装した女性がちらほら見えたものね。

嫁としてなのか、それともかこっているのか。

その辺は分からないけど、なんとも風紀が乱れている。

僧兵という名のゴロツキみたいのも沢山居たし。

これでは、真面目に修行しているであろう僧達がかわいそうになる。

こんなのが、気に食わない事があると、強訴とか言って天皇陛下へ向かって来るんでしょ?

天皇陛下も気苦労が絶えないでしょうね。


それから、参拝を済ませると、少なくない金額を寄付したのだけど、その対応にあたった僧侶にイラッとさせられる。

お金は確かに大事でしょうよ。

大きなお寺なんだから、運営費もバカにならないでしょう。

でも、露骨な金満坊主って言うの?

そんなのと話をしていたら、何だか疲れてしまった。

何より、そんなのに敬語で話すのとか、もう疲れてしまうのも当然よね。

大体、御所で生活する陛下よりも暮らしぶりがいいというのが気に食わない。

ボロ着て修行しろとは言わないけど、これじゃね。

天室光育和尚ほどの知恵のような物が無いとしても、話も面白くないし。

あまつさえ、それで説法してやったみたいな顔しだすし。

仕方がないから、話を聞いた後、長重が幾らか包んで渡していた。

まどろっこしい言い方されるくらいなら、「延暦寺で働く俺は偉いから、小遣いよこせ。」くらいストレートな物言いをしてくれた方が、よっぽど気持ちが良いわ。

まぁ、そんな奴に払う物なんかは何も無いけど。


そんな訳で、頭にきたので、さっさと下山することにした。

修行の場としても名高いはずの場所なのに、どうしてこうなってしまったのかしらね。

京から見て鬼門の方角にあるらしいけど、そのマイナスのパワーを浄化出来ずに溜め込んだのかもね。

はぁ、仏様が可哀想でならないわ。

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また、様々な感想を頂けるとありがたいです。

今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。

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