出された食事
促されるままに、席に座りその時を待つ。
どのような食べ方をしているのか。
私の知らない食べ方をしているのか。
そこが最上の命題とも言えたが、その私の思いは脆くも崩れる結果となった。
「これは?」
「望んだものだろ?」
「なるほど。」
目の前に出されたのは、様々な部位をごった煮にしたようなものだった。
いや、それが悪い訳ではない。
しっかりと味付けをされている物であれば。
ヒタヒタにまで入れられている汁は澄んでいる訳もなく、おそらく灰汁取りすらされていないように見える。
灰汁といっても、あえて取らない場合もある。
えぐみだけではなく、旨みも含まれていることがあるから。
しかし、これは・・・
いや、文句は言うまい。
望んだのは、私なのだ。
いざ、ひと口。
そう行こうとしたところで、貞興に声を掛けられる。
「お虎兄ちゃん、俺が先に食べるよ。」
「ん?誰が一番でも構わないでしょうに。」
「そうは言っても、何かがあってからじゃ遅いよ。」
「うーん、こんなところで何かがあるとは思わないけど。まあ、いいわ。」
「おう!んじゃ、遠慮なく。」
そうして、私に出された椀をかっさらうようにして、食事を始める貞興。
牛馬の肉を使用しているというのに、全くの躊躇が無い。
それを見た河原者達は、驚いた表情を見せる。
繁長は、その様子に顔をしかめたようだが。
でも、繁長の反応こそが普通である以上、とがめ立てするつもりはない。
口の中に、掻き込むようにして食事を始めた貞興だが、椀を口から離し、咀嚼しているが何とも言えない表情をしている。
美味しいのか、それとも不味いのか?
「うーん。」
「どうなの、貞興?」
「うーん?」
何なのだろう、この反応は?
表情からは何も分からなかったが、反応からも何も分からない。
首を傾げるような貞興をほうっておいて、改めて私の前に出された椀に口をつける。
うーん?
肉の風味が口の中に広がる。
が、それだけで、旨みもへったくれもない。
肉を食べている感は十二分にあるけれど。
色々と足りない気がする。
灰汁は邪魔だし、塩気も少ない。
いや塩を入れていないかもしれないわね。
味噌のひとつでも入れてあれば、それなりに味が誤魔化されそうだが、それもない為いまいちどころか、ハッキリと言って不味いと思う。
しかし、食感は悪くない。
勿論、部位にもよるのだが。
クニュクニュとした独特の食感のある部位などは、なかなかに楽しめる。
ただ、メインになるであろう部分は、煮込みすぎか固くなってしまっている。
もう少し薄く切るなり、細かくするなりすればいいものを。
いや、そもそも煮込む時間を調整すればいいのに。
貞興が、首を傾げるのも分からなくも無い。
ちなみに、繁長は食べないようだ。
これを食べることで、不意の事態が起きても対応出来るようにしているというのが、建前らしい。
いや、単純に食べたくないだけだとは思うけども。
「どうだ?」
「そうね・・・案外薄味なのね。」
椀を私に出した男が、感想を聞いてくるので、当たり障りの無いような答えを出す。
無難とも言えるが、それは仕方がないところだろう。
それこそ、後は食感について語る以外に誉めるところが見いだせない。
「塩がなかなか手に入らなくてな。どうにも足元を見られているようでな。」
「そうなの?」
「河原者だからというだけで、どうにも高く売り付けられているような気がする。」
「それは良くないわね。そうだ、だったらうちの館にいらっしゃい。ただとは言わないけど、一般的な値段で売ってあげるわ。」
「ほう?それで、その条件は?」
「条件?あー、そうね条件ね。」
ただ同情心からの発言だったのだけども。
まあ、条件を出せと言うのなら出しましょう。
その方が、彼らも気持ち良く対応出来るかもしれない。
一方からのでは、対等な関係では無いものね。
「だったら、比較的程度の良い皮革を譲ってくれないかしら。勿論、お金は払います。」
「なんだ?その程度の事でいいのか?」
「その程度も何も、そうじゃなきゃフェアじゃないでしょ?」
「ふぇあ?」
「そう。双方ともに、納得出来る商売にしたいじゃない。それに、この程度の事で、越後についてこいとは言えないしね。」
「そうか。」
「ええ。あと、困った事があれば頼ってらっしゃい。」
「なんというか、本当に変わっているな。」
「それは、仕方がないじゃない。こんな性分なんだもの。」
そうして、食事を済ませると、二人を伴い帰路についた。
新たな家臣になるような人物を得られなかったが、直接の皮革の供給元を得たと考えれば、無駄では無かった。
それに、牛馬の肉も久々に口に出来た。
今回の上洛中には、もう訪れる事は無いだろう。
それでも、またいずれ顔を出すことを彼らには、話しておく。
今回口にしたものは、あまり美味しい物では無かった。
ならば、次回は私が調理に口出しさせてもらおう。
次回は焼肉にしましょう。
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