表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
123/130

出された食事

促されるままに、席に座りその時を待つ。

どのような食べ方をしているのか。

私の知らない食べ方をしているのか。

そこが最上の命題とも言えたが、その私の思いは脆くも崩れる結果となった。


「これは?」

「望んだものだろ?」

「なるほど。」


目の前に出されたのは、様々な部位をごった煮にしたようなものだった。

いや、それが悪い訳ではない。

しっかりと味付けをされている物であれば。

ヒタヒタにまで入れられている汁は澄んでいる訳もなく、おそらく灰汁取りすらされていないように見える。

灰汁といっても、あえて取らない場合もある。

えぐみだけではなく、旨みも含まれていることがあるから。

しかし、これは・・・

いや、文句は言うまい。

望んだのは、私なのだ。

いざ、ひと口。

そう行こうとしたところで、貞興に声を掛けられる。


「お虎兄ちゃん、俺が先に食べるよ。」

「ん?誰が一番でも構わないでしょうに。」

「そうは言っても、何かがあってからじゃ遅いよ。」

「うーん、こんなところで何かがあるとは思わないけど。まあ、いいわ。」

「おう!んじゃ、遠慮なく。」


そうして、私に出された椀をかっさらうようにして、食事を始める貞興。

牛馬の肉を使用しているというのに、全くの躊躇が無い。

それを見た河原者達は、驚いた表情を見せる。

繁長は、その様子に顔をしかめたようだが。

でも、繁長の反応こそが普通である以上、とがめ立てするつもりはない。

口の中に、掻き込むようにして食事を始めた貞興だが、椀を口から離し、咀嚼しているが何とも言えない表情をしている。

美味しいのか、それとも不味いのか?


「うーん。」

「どうなの、貞興?」

「うーん?」


何なのだろう、この反応は?

表情からは何も分からなかったが、反応からも何も分からない。

首を傾げるような貞興をほうっておいて、改めて私の前に出された椀に口をつける。

うーん?

肉の風味が口の中に広がる。

が、それだけで、旨みもへったくれもない。

肉を食べている感は十二分にあるけれど。

色々と足りない気がする。

灰汁は邪魔だし、塩気も少ない。

いや塩を入れていないかもしれないわね。

味噌のひとつでも入れてあれば、それなりに味が誤魔化されそうだが、それもない為いまいちどころか、ハッキリと言って不味いと思う。

しかし、食感は悪くない。

勿論、部位にもよるのだが。

クニュクニュとした独特の食感のある部位などは、なかなかに楽しめる。

ただ、メインになるであろう部分は、煮込みすぎか固くなってしまっている。

もう少し薄く切るなり、細かくするなりすればいいものを。

いや、そもそも煮込む時間を調整すればいいのに。

貞興が、首を傾げるのも分からなくも無い。

ちなみに、繁長は食べないようだ。

これを食べることで、不意の事態が起きても対応出来るようにしているというのが、建前らしい。

いや、単純に食べたくないだけだとは思うけども。


「どうだ?」

「そうね・・・案外薄味なのね。」


椀を私に出した男が、感想を聞いてくるので、当たり障りの無いような答えを出す。

無難とも言えるが、それは仕方がないところだろう。

それこそ、後は食感について語る以外に誉めるところが見いだせない。


「塩がなかなか手に入らなくてな。どうにも足元を見られているようでな。」

「そうなの?」

「河原者だからというだけで、どうにも高く売り付けられているような気がする。」

「それは良くないわね。そうだ、だったらうちの館にいらっしゃい。ただとは言わないけど、一般的な値段で売ってあげるわ。」

「ほう?それで、その条件は?」

「条件?あー、そうね条件ね。」


ただ同情心からの発言だったのだけども。

まあ、条件を出せと言うのなら出しましょう。

その方が、彼らも気持ち良く対応出来るかもしれない。

一方からのでは、対等な関係では無いものね。


「だったら、比較的程度の良い皮革を譲ってくれないかしら。勿論、お金は払います。」

「なんだ?その程度の事でいいのか?」

「その程度も何も、そうじゃなきゃフェアじゃないでしょ?」

「ふぇあ?」

「そう。双方ともに、納得出来る商売にしたいじゃない。それに、この程度の事で、越後についてこいとは言えないしね。」

「そうか。」

「ええ。あと、困った事があれば頼ってらっしゃい。」

「なんというか、本当に変わっているな。」

「それは、仕方がないじゃない。こんな性分なんだもの。」


そうして、食事を済ませると、二人を伴い帰路についた。

新たな家臣になるような人物を得られなかったが、直接の皮革の供給元を得たと考えれば、無駄では無かった。

それに、牛馬の肉も久々に口に出来た。

今回の上洛中には、もう訪れる事は無いだろう。

それでも、またいずれ顔を出すことを彼らには、話しておく。

今回口にしたものは、あまり美味しい物では無かった。

ならば、次回は私が調理に口出しさせてもらおう。

次回は焼肉にしましょう。

ブックマークや評価を頂けると、物凄くモチベーションが上がります。

また、様々な感想を頂けるとありがたいです。

今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
押してくれれば一票入るようです。どうぞよろしく。 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ