いざ河原へ
何はともあれ、天皇陛下にお目にかかる事も済んだ。
しかし、名誉な事ではあるけど、気疲れが凄い。
私が出なくてはならない場面を除いて、他の人物に対応してもらいたいものよね。
それこそ、私の代理でなら、兄上こそがそれに相応しいと思うのよね。
多分今なら、趣味“風流”とか言えそうなくらいに没頭してるものね。
そんな人なら、公家の方々と相対しても、失礼をすることも無いんじゃないかしら?
仮に何かミスをしたとしても、兄上ならそれも取り返す事だって出来ると思うし。
兄上は優しいだけじゃなく、自分の欲に対しては、結構腹黒いところを出すから。
そういう意味でいうと、朝秀では、まだちょっと早いかしらね。
勿論、いずれは一切合切任せていく事になるでしょうけど。
さて、拝謁も終わったとなれば、やりたい事がある。
それは河原者らとの面会だ。
せめて、天皇陛下に拝謁を終わらせてからと、兄上から言われていたから後になった。
どんな人達がいるのか楽しみではある。
何せ、食生活が違うのだ。
肉食ばかりではないだろうが、となれば体格なども違う可能性もある。
骨格はそうそう変わることは無いだろうけど、かえって違いが分かるかもしれない。
いや、そんなことはどうでもいい。
体格がどうとかは、この際いい。
それよりも大事なのは、ただ肉を食べるというだけでなく、肉を食べる者達も忌避する牛馬を食べているであろう事だ。
牛の旨さは、それこそ現代の食生活をしていたら、間違いなく知っている事だし、馬も当然美味しいに決まっている。
天皇陛下にお目にかかる事も大事なら、美味しい物を得るのも、また大事。
並列にしたら、不敬とされるんだろうな。
当然、自分の中では扱いが違う。
でも、人に聞かれたら、勘ぐられないとも限らない。
極力、このルンルンな気持ちを知られないようにしておかないと。
というわけで、河原者がいるであろう所へ向かう。
私の後ろには、貞興と繁長の二人が付いてきている。
多人数にしなかったのには、理由がある。
相手に過剰な警戒をさせるべきではない。
見ず知らずの人間が、多人数で寄せてきたら、どんな人でも警戒するだろう。
どころか、悪感情で仲間を呼ばれてとなると、第一印象は最悪となり、交渉も何も無くなってしまう。
こちらが逃げるにしても、この二人ならば何とかなるだろう。
特に、戦いについて従事してきた者で無いのなら、一喝するだけで終わるかもしれない。
いつどこで命を落とすか分からない世の中で、切った張ったで命を磨り減らす(当人達はそう思って無いだろうけど)生き方をしているのだ。
そうそう対抗は出来ないだろう。
もっとも、そこまで悪いことにはならないと思っているが。
河原者と呼ばれるだけあって、川の近くに居を構えているようだ。
もっとボロボロかと思ったが、以外としっかりしている。
いや、掘っ立て小屋と言って差しつかえは無いのだろうけど。
それでも、忌避される存在と呼ばれるとは、その家を見る限りでは分からない。
やはり、あくまで立地がよろしくないのだろう。
だとしても、彼らがこの場所を離れるつもりが無いから、この場所に住んでいる。
いや、引っ越す事が出来ないのか。
なんにせよ、暮らしぶりはそれほど悪そうには見えなかった。
たまたま私が見た場所が、たまたまそうだったとも考えられるが。
私がそんな様子を見ていると、貞興がボソリと呟く。
「言うほど、悪い暮らしはしてないじゃんか。」
この言葉に、私は心を締め付けられるような気がした。
最近、忘れてしまっていたが、もともと貞興は生まれもしらない孤児だった。
運良く私がその命を掬い上げる事が出来たが、一つ間違えばの垂れ死んでいた。
そんな明日食べる物にも困る生活と比べれば、天と地の差があるのだろう。
どころか、親兄弟だっているのだ。
それを考えれば、幸せな生活をしているように見えてもおかしくはない。
繁長の「そうか?」という一言を聞くと、やはり生まれは違うのだなと実感させられる。
何だかんだと言っても、繁長は本庄家の御曹司には違いないのだから。
その辺の暮らしぶりを、比べるまでも無いだろう。
しかし、そんな生まれの境遇こそ違えど、仲良くしていてくれているのが、何より私は嬉しかった。
願わくば、二人の友情が長く続いて欲しい。
ゆっくりと歩いて行くと、なんとも言えない臭いが立ち込めている。
一言で言えば臭い。
はた目には、街外れにありがちな小屋に見えるが、それに近づいていくにつれて、強烈な臭いが襲ってくる。
さすがに、この臭いをその辺で撒き散らされれば、確かにたまったもんじゃない。
だからこその河原という訳か。
下賎だなんだというより、この臭いの方が問題なんだろう。
しかし、この臭いの原因は?
このような臭いを放つ要因は何だろう?
それも、彼らに会ってみれば、答えが分かるか。
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