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稽古

翌日、泰重の指示のもと鍛練を行う事になってしまった。

京に来たはいいけど、それを理由に鍛練をサボるというのは許されないらしい。

いや、前久様が見学をしたいと言っていた事も要因の一つではあるけれど。

泰重が「武士たるもの、常在戦場斯くあるべし。」とか言っていたし、もともとそのつもりだったのだろう。

確かに、稽古を一日休めば、取り返すのには倍以上かかったりするわけだし、間違った考えでは無い。

無論、貞興をはじめとした、他の者達は消沈していたが。


さて、長尾家において、鍛練と言えば一にも二にも武術と思われそうなものだが、そうではない。

それよりも大事な事がある。

それは基礎体力に他ならない。

いや、泰重とどのようにして、将と兵とを鍛え上げていくか話し合った時に、つい私が言ってしまった事が原因だったりするけど。

どれだけ刀を振ろうが、槍を振ろうが尽きぬ体力があるというだけで、敵からしたら驚異と感じるだろうと。

それを良くも悪くも鵜呑みにして、出来上がっていった越後長尾家メソッド。

実際に、戦場での戦いぶりを見れば、実施して良かったと言わざるおえない。

その為、長尾家に勤めることになる以上、誰もそれから逃げることは出来なくなってしまった。


それは文官であっても例外は無かった。

勿論、武官と比べれば数段厳しさは落ちる。

か、それでも彼らにとってはキツい事この上ないだろう。

それでも、年末進行のデスマーチ状態の修羅場すら、脱落者無くやれているのは、この鍛練が効果を示しているように思える。


さて、本当に近衛前久様がいらっしゃった。

半ば冗談のつもりでの発言だったのだけど、本当に興味を持たれていたようだ。

物好きと言ってしまってもいいんじゃないかしら。

他の公家の方達と違い、腰に刀を差して歩いている方なのだから、それも仕方が無いのかな?


「今日はよろしくお願いします。」

「いや、こちらこそ無理を言ったようで申し訳無い。」

「いえ、大丈夫ですよ。私達も余り長くだらけてしまっては、いざ有事の際に対応出来ませんから。」

「なるほど。景虎殿がおっしゃると、説得力がありますね。それでまずは何をするんです?」

「まずは、ひたすら走ります。」


前久様と話しながら手で合図を送ると、泰重がコクりと頷いた。

そうした後、この鍛練に駆り出される事になってしまった、私の供をしていた者達が並ぶ方へと、顔の向きを変える。


ちなみに、大熊殿や長重なんかは参加していない。

鍛練に参加するよりも大変な折衝が待っているようで、すでに屋敷から出た後になっている。

また、段蔵や蔵人ら乱破の出の者達は参加をしていない。

彼らは、私の身辺警護をするべく鍛練を辞退しており、泰重も了承済みだったりする。

それに貞興や繁長あたりが反発するが、私が「この二人を黙らせる事が出来るならいいわよ?」と言うと、逆に彼らの方が黙ってしまった。

さすがに、乱破衆のトップの二人に対抗出来る程のレベルには、まだ到達していない。


泰重が手を上に掲げ、その手を振り下ろす。

すると、それを合図に皆が一斉に走り出す。


「で、どれだけ走るんだい?」

「どうでしょうか?ひたすら走り続けさせられるのはわかりますけど、終わりの合図を出すのは私では無いですから。」

「それじゃ、何時終わるのかもしれない中、ひたすら走らされるのか。これは大変だ。」

「そうですね。少しやり過ぎな感も否めないですけど、それでも、結果が出ていますから。多少は追い込むくらいまでやらないと、人はなかなか成長できないのかもしれませんね。」

「それは至言なのかもしれないね。よし、参加していいかい?」

「前久様がですか!」


まさか、京に住む貴人たる者の中でも、最上位に位置すると言っても過言ではないであろう右大臣である前久様が、鍛練に参加したいと?

その言葉に、慌てる取り巻きの方々と、卒倒しそうな兄上。

いや、私が悪いんじゃないですからね?

しかし、本当に物好きというか何というか。


「申し訳ありませんが、ここは参加はお辞めいただけると。」

「あー、やっぱり駄目?」

「何かあってからでは遅いのです。」

「まあ、ねえ。怪我でもすれば責任問題が起きるか。」

「その通りです。有り体に言ってしまえば、そのような重い枷と成りかねないものを、そう簡単に背負う訳にはいかないのです。」

「いや、ハッキリと言うね。でも、わかった。それなら仕方がないか。その代わりと言ってはなんだけど、今日はのんびりと見学させてもらうよ?」

「それでしたら、構いませんよ。」


ひとまず、前久様を鍛練に参加させることは回避できたようだ。

ただ、その代わりに、一日見学をしていくと言う。

でも、しばらくは皆走り続けさせられる形になるため、見ていてもこれといって、楽しいものでは無いだろう。

それに、屋敷の周りを巡るだけでなく、近くの山を分け入ったりとするため、そもそも視界からいなくなるんだけど。

となれば、別な事で何かもてなさねばならないと思う。

また、お茶でもやる?

いや、そればかりでは芸が無いか。

となると、和歌の読み合いとか?

さてさて、どうするべきかしら?

ブックマークや評価を頂けると、物凄くモチベーションが上がります。

また、様々な感想を頂けるとありがたいです。

今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。

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