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京に到達

ようやく京に着いた。

いや、着いた事は良い。

目的地に着いた事で、最低限の目的は果たせる訳だから。

しかし、これが京?

私の頭の中にあった、想像の世界の京はもっと華やかなものだった。

源氏物語などにも語られる、雅で優雅な街並は一体どこにあるの?

建家はボロボロだし、変な臭いもそこかしこから漂ってくる。

これでは、源氏物語ではなく、芥川龍之介の羅生門の世界ではないか。

このような現状にがっかり感もひとしおだ。


いや、噂は耳にしていた。

かの有名な日本中を巻き込む大戦が起こった。

つまりは応仁の乱。

それによって、優美な都は荒廃したと言っていい。

でも、ここまでとわね。

目に入るどれもが荒れ果てているように見える。

一刻も早く再建が必要なんだろうが、それを為すことが出来る者がいない。

いや、今は京の都は三好家が仕切っているんだっけ。

となれば、三好家は京の惨状に対して、何らかの責任が生まれると思うのよね。


ただ、それもなかなか出来ない理由もあるようだ。

それこそが、公方様の存在にあるようだ。

なんでも、京の都を奪還すべく、六角家の力を借りて何とか現状を打破しようとしているようだ。

いったいどんなお方なのかしらね。

周りの見えないお馬鹿さんなのか、それとも反骨精神の塊のような御仁なのか。

願わくば後者であることを願う。


さて、朝秀の先導のもと、兄上が現在居を構える屋敷へと向かう。

場所はと言えば、清水寺の近くとのこと。

これは、この時代の清水寺を参拝するまたとないチャンス。

現代でも、観光地として名高いお寺の近くに屋敷を構えるなんて、何か狙いでもあるのかしら?

所謂、風流というやつ?

良く分からないわね。

まぁ、兄上が良しとしているのなら、それでいいか。

私と違って、そういう雅な事に秀でている人だから。


「へぇー、案外良さそうなところね。さっきまでの街並と比べても段違いじゃない。」

「先代様はかなりの凝り性のようですね。いや、そのお陰で、宮中に対しての工作も色々と実を結ぶ事になった訳ですけど。」

「うんうん。さすがは兄上ね。」

「ただ、その分お金も大分使ってますけど。」

「そこは仕方ないと思うしかないわね。」


確かにかなりの金額が動いている。

上洛に合わせて、その金額はウナギ登りになっている。

しかし、それも致し方無い。

現在の朝廷は斜陽の時代を迎えており、何かにつけて金が無い。

それでも権威は絶大だから大したものなのだけど。

そして、そんな朝廷は悪い言い方をするのであれば、官位や権限などをお金でもってようは売り捌く事で、何とか維持をしていると言っても過言では無いだろう。

彼らは決してそんなことは言わないだろうし、今上天皇である、後奈良天皇もそんなことは絶対に言わないだろう。

もっとも発言力があるのは天皇陛下だと思うが、運営をしているのは貴族達だろうから。


「ま、早く屋敷に入りましょ?」

「おー!さすがに疲れたもんな!」

「貞興はもう疲れたのか。ま、俺もさすがにクタクタだけどな。」

「お前達、景虎様が先に決まっているだろう。我先に屋敷に入るような事はするんじゃない!」

「分かったよ、重兄。ということでお虎兄ちゃん、早く早く。」

「はいはい、分かった分かった。」


そんな風に、ガヤガヤと屋敷の前で騒いでいると、中から人影が。

涼やかな雰囲気を醸すその姿を目にして、懐かしさが込み上げてくる。


「何だか騒がしいね、景虎。」

「兄上、お久しぶりです。」

「うん、良く来たね。さすがに疲れたんじゃない?自分の時なんかも大変だったしね。」

「確かに大変な移動でしたけど、兄上のお顔を見たら何だか元気が出てきました。」

「へぇ、そりゃ良かった・・・のかな?」


そう言いながら、笑みを浮かべる兄上。

しばらくの間、会うことが出来なかった直接の肉親に会えた。

それだけで、何だかホッと心が落ち着く気がした。


「ま、立ち話も何だから、屋敷に入りなよ。」

「はい、では遠慮無く。」

「君たちもどうぞ。今日のところはのんびりしたらいいさ。」


促されるまま、私達は屋敷に入っていく。

外から見ても、なかなか立派に見えたが、邸内に入るとより立派に見える。

いや、これなかなか豪華なんじゃない?

なんというか、かなりの良い生活なんじゃない?


「なかなか豪華な造りになってるよね。お陰で貴人の方々を招くのにも役立ってくれているよ。あの人達は、故実に詳しいけど、それを実行する力は無いからね。そういうことに協力してあげたりすると、喜ばれるんだよ。連歌会とかやったりね。」

「歌ですか。」

「そう。滞在中、機会があれば参加してみるといいよ。」

「そんな。私のような粗野な人間が参加しても場をつまらなくしてしまうだけでは無いですか?」

「そんなことは無いよ。下手には下手なりの歌というものがあるだろうし。色々と寸評してくれるだろうしね。それともお茶の方がまだいいのかな?」

「そうですね。出来ればお茶の方が良いかもしれません。」

「そっか。」


私は兄上が歩くのに付いていく。

私と共に京まで来たもの達は、屋敷の中に入ると解散とあいなった。

その後の面倒は、朝秀と泰重の二人にしきってもらえばいいだろう。

朝廷との顔つなぎの出来ている朝秀は、京の情勢についてもそれなりの知識があるはずだし、付いてきている者達は、泰重にしごかれた経験のある者ばかり。

泰重が声を発すれば、条件反射のように飛び上がることだろう。

やがて、小じんまりとした部屋にたどり着く。


「ここは?」

「いや、このくらい小さな部屋の方が落ち着くからね。」

「兄上らしいと言えば兄上らしい。」

「それより、これからどうするね?」

「今のところ考えているのは、朝廷に官位を賜ったお礼を言いに行かないといけないです。それから公方様のところにも行かないと。」

「それから?」

「それだけですよ?」

「いやいや、他にも貴族の方々にも会った方がいいよ。それから寺にでも顔を出した方がいいかな。何せ、毘沙門天の化身なんだから。大きなお寺を巡るのも良いんじゃないかな?きっと母上も喜ぶと思うよ。」

「うーん。それでしたら、比叡山に行ってみたいです。」


現代で言えば、観光地の代名詞だもんね。

まぁ、観光地として整備されているような事は、ありえないたろうけど。

私が言うと、にこりと笑う。

そして、軽く頷く。


「それはいいね。寺院でも特に大きな力を持ったところだからね。お寺に認められれば、それも一つの力になるはずだよ。こういう権威ってのは、馬鹿にならないからね。」

「わかりました。ありがとう、兄上。」


そうして、幾つか、これからの指針になる話を続ける。

私が深く考えていなかった事も、考えてくれていたようだ。

ただただ、兄上の心配りに感謝しかないわね。

ブックマークや評価を頂けると、物凄くモチベーションが上がります。

また、様々な感想を頂けるとありがたいです。

今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。

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