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初めての船旅

「ぐぇぇぇぇ、気持ち悪い・・・」

「うるせーぞ、貞興。よけい気持ち悪くなる・・・」

「ほら、繁長も静かにしてなさい。まったく、二人揃って船酔いとはね。」

「困ったものですのう。こうなれば、越後に帰ってから船上での活動も訓練の課程の一つとするべきかもしれませんな。」

「まあまあ、今回は多目に見てあげて。陸に戻ればシャキッとするはずだから。」


上洛を為すための船旅は、波乱のスタートとなった。

まさか、元気さが売りとも言える二人が、港を離れて早々に船酔いになるとは思いもしなかった。

今は甲板に出て風に当たらせているが、それが良いことなのか、それとも悪いのか分からない。

現在のところ、船酔いをしたのは二人だけのようだ。


憲政様は、さっさと船室に入ってしまっている。

もしかしたら、彼も船酔いを起こしているかもしれないが、私達の目の届くところにはいないので、そこのところは分からない。

一応、憲政様のお付の者が何名か同道しているので、彼らに任せておけば問題は無いだろう。


朝秀や長重は平気そうな顔をしている。

何度か船に乗った事があるようだが、船酔いとは縁が無さそうにしていた。

かく言う私もそうなのだが。

初めての船旅ではあるものの、船酔いとは無縁の体で心底良かったと、目の前の二人を見て思う。

泰重は泰重で、こちらも平気なようだ。


「足場の安定感の無い状態なんて、いくらでもありましたからのう。」


とか言っていたけれど、そんなんで大丈夫なものなのかしら?

むしろ安定感の無い状態って、どんな状況なんだろう?

生活が苦しかったという意味では無いことだけは間違いない。

乱破衆の二人も大したもので、船に乗ったことや、安定感の無い船の上という環境にも.あっさりと対応出来ている。

蔵人は船室の壁に背を預け、風が吹き抜ける海をボーッと見ているようだ。

ただのポーズで周りに気を配っているのだとは思うけど、見た限りにはそう見える。

段蔵は、船乗り達とやけに仲良くなっている。

海に生きるだけあってか、カラッとした気持ちのいい連中ばかりだったのだが、どうにも気が合ったらしい。

それすら場に溶け込むようで「さすが忍者だなぁ」とか思ってみたり。


私達の乗る船は一路、敦賀へと向かって走っている。

幸いにして天気は晴れ。

雲一つ無い日本晴れというやつだ。

まるで、京へ向かうことが良いことであると暗示しているかのようだ。

煌めく海面はとても美しく、日本海であるのに、以外と波は穏やかだった。

日本海と言ったら、女の情念渦巻く荒れ狂う波に支配されたところと思っても仕方がないわよね。

演歌なんかだと、大概そういうシチュエーションだものね。

途中の港にも寄港するんだろうけど、その辺は船長を信頼して任せてある。

いくら私からだったとしても、運航に対して兎や角言われるのは、面白く無いだろうから。

まぁ、変なところへ連れてこうとしたとしても、逆襲に会うだけなのは分かっているだろうし、そもそもどうこうするメリットも大して無いだろう。


「それで、敦賀までだと、どのくらいでつくのかしら?」

「風しだいなところもあるとのことで、何時と明言することは出来ぬらしいですのう。それに、行く先々で寄港しながらの旅となりますからな。それでも懸命に頑張ってはくれておるようですがのう。」

「そう。ま、仕方ないわね。餅は餅屋というし、プロに任せておけば間違いはないでしょ。」

「“ぷろ”ですか?」

「そう、プロ。意味は専門家ってところかしら。」

「なるほど。それを“ぷろ”と。いやはや、この歳になっても知らぬことは多いですのう。」

「何を言ってるのよ。まだまだシャキッとしておいてもらわないと困るわよ。長尾家の軍勢が締まっているのは、偏に貴方の存在があるからと言っても、過言では無いんだから。」

「いやいや、過言でしょう。それでも、そう言われて嬉しくない者はおりますまい。本当に人たらしですな。」


そう言って、快活に笑い飛ばす泰重。

しかし、泰重の存在が長尾家の軍を精強なものとしているのは、現状間違いは無い。

自らは当主の座を息子に譲った後、身を引くつもりでいた。

それを私は良しとせず、引き留めを図った。

図ったと言っても、単純に頭を下げただけだけど。

戦場での軍功を望まず、自らを滅私するようにして、兵達の面倒を見てくれている。

そんな男が私の側に居てくれている好運。

目立ちたがりの揚北衆のような連中だけでは無いのだ。


「人たらしかどうかは分からないけど、事実は事実よ。」

「いや、分かりました。もう止めてくだされ。背中がむず痒くなってしまいますわい。」

「ふふっ。そうね、あまり持ち上げられるのも気持ち悪いかもね。しっかし、京はどのようなところなのかしらね。」

「いやー、田舎者の儂では想像もつきませんな。」

「あら、田舎者なのは私も一緒よ?」


そうして、共に笑い合う。

緩やかな空気をはらみつつ、船は目的地へと移動を続ける。

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また、様々な感想を頂けるとありがたいです。

今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。

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