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田園の誓い

あれから、しばらく。

さすがに、田んぼで飲もうと思っても、冬のこの時期にやったら、さすがによろしくない。

何せ、冬のこの時期ともなれば、田畑は雪化粧をして、一面の銀世界となっているわけだから。

いや、雪見酒というのも“おつ”ではある。

しかし、その銀世界の中で、酒を飲んで騒ぐというのもどうだろうか?

下手すれば、凍死しかねないんじゃない?


いや、なるべく早くやれるようにするにはと、少しは考えもした。

かまくらを作ってそこでやるのはどうか?

しかし、それでは大人数では開催は難しいだろう。

個別に分散すれば、大丈夫かもしれないが、そんな状況で飲むくらいなら、城の中で飲んだらいいじゃない。

わざわざ外でやるから“おつ”だとも言えるが、果たして本当に“おつ”なんだろうか?

風流をするために、常識はずれな事に挑戦するのもどうかしらね。

いや、風流というより、ただの奇矯な行動にしか見えないかもね。

それに、どうせなら、越後の一つの行事にしてしまってもいいと考え始めていたりもする。

一応、名目としては、春の訪れを祝い、皆で盛大に盛り上がろうというものだ。

あくまでも、義兄弟の契りの模倣は、三人のものとしたい。


しかし、それにしても田園の誓いとか、どんなくだらない冗談かと考えてしまう。

もっと他に案は無かったのか。

今から変更したっていいわよね。

といっても、特に代案を思い付く訳でもなく、まぁ、いいかと思ってしまったあたり、私の適当加減が分かるというものね。


そうして、内務に没頭することによって、すでに忘れかけた頃、田園の誓いとは名ばかりの、ただの慰労会のような飲み会をすることになった。

いや、あくまでも忘れかけていただけであって、忘れていた訳じゃない。

むしろ、私が飲み会を忘れるようになってしまったら、目の前にママがいたとしたら、大目玉をくらっていただろう。

明るく楽しく、皆と笑顔を共有する。

それこそが、オカマとして生きてきた私の本懐とも言えるわけだし。


「というわけで、皆準備はよろしいかしら?」

「「「おおー!」」」


私が、お酒がなみなみと注がれた杯を掲げると、それに合わせて周りの皆も反応して杯を掲げる。

やはり、長尾家主催というこの催しものに、集まらない訳が無い。

勿論、ケチ臭い事は言わない。

信濃進攻に際して、従軍した兵達全て招待している。

呼ばなくても、集まりそうな気がするところがなんともいえないけど。

何せ、いつも通りのただ酒ただ飯にありつけるのだから。

今頃、事務方は胃をキリキリとさせているんだろう。

毎度毎度遠慮の無い、皆の行動にどれだけの物資が失われるか。

どれだけの金が飛んでいくか、と考え出したらキリがない。

とか思ってみたけど、その事務方の人間が、笑顔で杯を掲げている者が、ちらほら見受けられたので、もう考えない事にしよう。


「ようやく雪どけと相成りました。ようやく春がやって来たと言ってもいいわよね。そんな春の訪れを祝って、そして、何だかバタバタで出来なかった、信濃攻めの一応の勝利を祝って、皆、今日は騒ぐわよ!乾杯!」

「「「乾杯!」」」


そうして、大音声の大宴会が開始した。

今では、乾杯というのも浸透してきているわね。

前は、飲み会をしたとしても乾杯という習慣が無かったのか、首をかしげられたものだ。

私としては、乾杯は宴会のスタートを飾る上で、大事な儀式のようなものだと思う。

意外に皆もあっさり受け入れていたところを見ると、宴会を始める合図としては、やはり都合がいいのかしら?

そんな彼らの様子を見ながら、自らの席にと腰を掛ける。

落ち着いて飲み始めたいところだけど、まずは目的を果たさなくちゃね。


「長重、貞興、いらっしゃい。」

「はい!」

「おう!待ってたぜ!」


二人を私の側へと呼び寄せる。

すると、待ってましたとばかりに二人はやってきた。

そんな二人の杯に、私が手ずからお酒を注ぐ。


「まず始めに言っとくけど、いまいちどうしたらいいか、わかってないわ。それと、確か同じときをに死のうみたいな事を言っていたけど、私はそれを許さないわ。なるべく長生きをして、得た知識を次代に引き継いでいく。その為にも、必ず生き延びなければならない。それを念頭に置いておいて。それから、義兄弟とか言ってるけど、私はこんなことをしなくても、あなた達を弟のように思っているから。それを分かっておいて欲しいわね。」

「景虎様・・・」

「お虎兄ちゃん・・・まぁ、それはそれとして、早く誓いってのやろうぜ!」


切り換え速っ!

いや、いいけどね。


「それじゃ、今日から義兄弟ということで。証人はこの場にいる皆よ。」

「ははははは・・・今さらですか!」

「まぁ、二人はそれをやりたいんだろうさ。やらせてやれば良いわ。」


そうして、私は杯をあおる。

近くで、すごい勢いで飲み続けている揚北衆の面々が、口々に何か言ってくるけど、それは気にしない。

私だって分かっているし、おそらく二人もあのときの話のノリでこうなってしまったことは理解しているはずだし。

それにしても、やっぱりお酒はいいわね。

百薬の長とはよく言ったものだわ。

さ、今日は飲むわよー!

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