戦国武将は中華の武将好き
景家と実乃の二人が今もなお、話に花を咲かせていると、部屋に長重と貞興の二人がやってきた。
ちょうど馬鹿話をしているような状況であった為、入室の許可をだす。
「何だ?何か楽しそうな話してるなぁ。」
「おお、貞興。景虎様からお褒めの言葉を頂いたのよ。」
「ええ。宇佐美殿が今張良。柿崎殿が今韓信。そして儂が今蕭何だそうだ。いや、名前負けしてはおらぬか心配になるわ。」
「いえいえ、お三方であれば、決して名前負けなぞあり得ませんよ。景虎様を盛り立て続けている、忠臣の鑑として見習っていかねばならぬ方々なんですから。」
長重の言葉に、さらに気を良くする二人。
にんまり顔でご満悦といった具合か。
なるほど。
なら、二人にも何か仕事を任せないとね。
韓信や蕭何の二人を放っておくなんて、勿体ないこと出来ないものね。
「だからかな?さっき定満のじーちゃんとすれ違ったけど、なんか泣いてたからさ。ありゃ、嬉し泣きか。」
「おい、貞興!そういうのは見ても見ぬふりをするものだろ!」
「あっ、いっけね。」
貞興の天然が炸裂し、何とも言えない空気になる。
が、張り詰めた緊張感とかがあるものではなく、どこか温かい感じのする空気ではあるが。
しかし、そこまで感動してくれているとは思わなかった。
あの、定満が男泣きとはね。
何だか、私までぐっときちゃいそうよね。
「それで、お虎兄ちゃん。俺達はどうなるのさ?」
「ん?俺達?」
「そう、俺と重兄だよ。付き合いの古さだったら一番だぜ。」
「おい、貞興!」
「二人は・・・そうねぇ・・・」
長重が止めるが、別に構いはしない。
こんな話をたまにはやるのも悪くない。
息抜きって訳じゃないけど、面白可笑しく日々を過ごせれば、これ以上の事はない。
で、二人はあえて言うなら誰かしらね。
「そうね、あえて言うなら関羽と張飛かしら?」
「おっ!いいなって、もしかして俺が張飛?」
「まあ、一番下だしそうなるわね。」
「うぇー!あんなに乱暴者じゃないよー!」
そうかしら?
むしろ、しっくりくる気がするけど。
万能に何でもこなす柔軟さを持ってる長重は関羽で、どちらかと言えば猪突猛進なところがある貞興は張飛。
いいじゃない。
あら?
そうなると、私は次は劉備?
もう、なんだか訳が分からないわね。
「となると関羽か・・・名前が大きすぎて実感が湧きませんな。」
「まぁ、今はそれでいいでしょ。私も聞かれたからちょっと考えてみただけだし。それに、まだあなた達は、景家達三人に比べて圧倒的に実績が足りないし。」
「そうですね。ですが、それにみあうように努力していきたいです。」
「そうね。その気持ちがあれば、いずれはみあう男になれるかもしれないわね。」
長重は、ここでも優等生な発言をする。
まだまだ若いというのに、随分と落ち着いた印象をうける。
私がいて、貞興がいてとなると、その調整役とならずにはいられなかったのかもね。
もし、史実の関羽もそうだとしたら面白いんだけど、その辺の真相はさすがに分からない。
「それよりも景虎様。劉備がいて関羽がいて、そして張飛がいるとなるとやらなければならない事がありますな。」
「いったい何かしら?」
「決まっています。桃園の誓いですよ。」
ああ、義兄弟の契りを交わしたとかなんとかいうやつか。
え?
必要?
そう思いながら貞興を見ると、目を輝かせているじゃないか。
本当にこの時代の人達は、中国の武将が好きよね。
何なら、半ば神聖化されていそうな雰囲気すらあるし。
「お虎兄ちゃん!重兄!やろうぜ、それ!」
「ん?いや、いいけど景虎様の都合というものもあるだろうし。」
「バッハッハ!そう気にするな!景虎様が、やらないわけは無いだろう。」
いや、景家。
私がやらないと何で決めつける?
いや、やるけど。
だって、やったって何の支障も無いような気がするのよね。
もともと、私に付き従うというより、拾ってきたのは私なんだし。
それに、血の繋がりはなくとも、可愛い弟分だと思っているし。
「うーん、そうねぇ。やってもいいけど、桃園なんてうちには無いわよ。」
「いやいや、そこは代用で済ませれば良いでしょう。」
「そう?じゃ、手っ取り早く済ませるなら、城下に行って田んぼの辺りでするのが早いわよね。田園の誓いになっちゃうけど。」
「別に構わないよ!やった!楽しみだ!」
貞興が喜んで、バッと立ち上がる。
それを見て長重も笑みを浮かべている。
ま、これだけ喜んでくれるなら、それもいいか。
今日はくだらない事をする一日としてしまってもいいだろう。
「それで、桃園の誓いとなれば、酒が必要となりますな。」
「おお!そうだのう!本庄殿は良いことを言う!」
あー、桃園の誓いをだしにして、私からお酒をせしめようという魂胆なわけだ。
なるほどなるほど。
って、少なくとも自分で飲むくらい出来る程度には、金品や領土を与えていたように思うけど。
ま、ただ酒ってなかなか美味しかったりするものね。
上限をつけないで飲んでも、自分の懐は全く痛まないし。
「わかった。もうどうせなら、人を集めて皆で飲めばいいでしょ?大分規模の大きな桃園の誓いになっちゃうけど、それはそれで面白いかもしれないわね。」
「おお、流石話が分かりますな!」
「ええー!そこは俺達だけじゃないのかよ!」
「まぁ、そう言うな貞興。何となくこうなる気がしていた。」
「その代わり、またバリバリ働いてもらうわよ。」
「そこはお任せください。」
何だか凄く話が大きくなってしまったわね。
でも、皆で酒を酌み交わすのも悪くは無い。
一人で飲むのもいいけれど、それとはまた違った楽しみってものがあるんだし。
貞興はちょっと不満そうにしていたけど、そこは我慢してもらうしか無いでしょ?
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