上杉学校設立に向けて
「というわけで、越後に学校を作ろうと思います。」
「相変わらず唐突ですな。」
「バッハッハ、何時もの事だな!」
「で、また振り回されるのですか・・・」
私の目の前には、いつも通りの定満と景家。
それに、港の状況を伝えるべく登城していた実乃の姿があった。
吃水の深い船も入れる程の港が出来上りつつあるという、嬉しい報告をしに来てくれていた。
彼ら三人も、私の思い付きに振り回される事には馴れてきている様子だ。
いや、前から考えていた事なんだけどね。
それに、この学校を作るという事業が上手くいけば、将来的には自分達の仕事も減るし、領国の未来も不安が減るというものだし、良いことづくめだと思う。
確かに、設立から起動に乗るまでは、大変な事が多いとは思う。
でも、得難い人材を探すくらいなら、育ててしまった方が早いわよね。
こう言っては何だけど、恩も売れる訳だし。
そうなると、他国にわざわざ行こうとせずに、そのまま長尾家や越後の諸将の元に行くでしょうし。
だいたい、長尾家はというか、私は生まれの違いでどうのこうの言うつもりは微塵も無いんたから。
優秀な人材なら、いくらでも引き上げて上げるわよ。
「で、儂らを集めたのは、どういう意図があっての事ですかな?」
「まさしく!これ以上の仕事はなかなか・・・」
「あぁ、勿論責任者を決める為よね。」
「やはりですか・・・」
彼らの質問に素直に答えるが、その答えを聞き、肩を落とすようなそぶりを見せる。
まだ、何も決まってないじゃない。
「して、どうするおつもりで?」
「そりゃ、長尾家が運営する学校だから、私の信用に足る人選じゃないといけないでしょ?そうなると、どうしてもあなた達を一番に考えてしまうのよね。」
「それは・・・ありがたいお言葉ですな。」
「確かにそうですな。それほど重用して頂けているとは。」
「バッハッハ・・・これまでの態度から見ても、我らを蔑ろにすることは無いくらいわかるだろうが。」
「まぁ、蔑ろは有り得ないわよね。長尾家の屋体骨を支えてくれている人材を無下に扱うなんて考えられないでしょ?」
「そのお言葉だけで結構!不肖、この実乃!犬馬の労を厭いませんぞ!」
「あっ、ありがとう。」
ちょっと誉めたら、すごい感動されてしまった。
いや、忠義心が高いと考えたらありがたい事、この上ない訳だけど。
でも、ここまであからさまだと、ちょっとひくわね。
とはいえ、それほど長尾家の事を思ってくれているなら問題は無いわよね。
「それじゃ、今回の件を任せるのは・・・定満かしらね。」
「なんと!儂がですか?」
「そう。儂がです。」
「宇佐美殿なら間違いござらんな。」
「バッハッハ!まあ、頑張れ!」
おどけた様子を見せる定満に、景家と実乃の二人は声をかける。
さも、自分の安全がはかれたかのように。
でも、そうは問屋が卸さない。
仮に卸しても、私が許さない。
「一応、頭には定満という事にしたいけど、教官役としてあなた達も協力してあげてほしいわね。」
「教官役ですか。」
「そう。あなた達がこれまで培ってきた技術や知識を教えてあげてほしいのよ。勿論、教えられる範囲で構いはしないわ。無理に全てをとは言うつもりは毛頭ないから。」
「しかし、それなら儂で無くとも良いのでは?」
「何を言っているのよ定満。長尾家の軍略を取り仕切るあなたが、頭に着くことに意義があるんじゃない。」
「しかし・・・」
どうにも頭を縦に振らないわね。
どうしようかしら。
もう少し持ち上げてみたらいいのかしら。
と言っても、嘘では心に響くものは無いでしょうし。
ま、腹を割って話をすれば、通じるものもあるでしょ。
「いい、定満。長尾家の軍略はと聞かれたら、迷わずこう答えるわ、定満って。大げさに聞こえるかもしれないけど、今張良とも、今孔明とも言っていいくらいだわ。それに重臣の一人でもあるあなたが、頭に着くことで私の本気度が伝わるってものでしょ。」
「なっ!」
「確かに、大目標は私が決める形になるのは、仕方がないわよね。なにせ、私が当主なんだから。でも、その他一切の軍略についてはあなたが決めているでしょ?それは何故か。あなたが長尾家の軍略そのものだからよ。」
かなり大仰になってしまったかしら?
ま、それでもいいか。
実際、全て取り仕切っている訳でないのは分かっている。
そんなこと出来るわけもない。
それでも、長尾家の軍略を育ててきたのは、彼の力もあってこそなんだから。
「そこまで言って頂いて、請けぬとは言えませんな。分かりました。このお話、お請け致します。」
「うん、ありがとう。」
「少し所用を思い出しましたので、これにて。」
そう言って、スタスタと部屋から出ていってしまう。
まあ、いいか。
重要な話はもう終わったし。
「あやつが今張良か!なら儂はなんだろうな。」
「おそらくは今韓信では無いですかな?」
「バッハッハ。なら本庄殿は今蕭何か!」
「アハハハ。そうなれるように努めたいですな。」
おや、二人が盛り上がっているわね。
今韓信に、今蕭何ねぇ。
じゃあ、私は劉邦なのかしら。
毘沙門天で劉邦って。
どうにも盛りすぎね。
それに、あちらは大陸を制覇してるけど、私はそんなのあまり興味無いのよね。
まぁ、楽しそうに話をしているんだし、水を差すことはないわね。
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