上洛の道のり
信濃より兵を引き上げ、越後に戻ると山積した仕事に追われるとこになった。
そりゃそうよね。
今までは毎日こなしていたわけだけど、しばらくの間、越後から離れていたわけだから。
私の決裁待ちの案件が幾つか見られた。
また、他の者達にとっても忙しいのは同じ様子。
稲の刈り取りだって遅れている。
農作業が終わっても、冬支度もこなさなくてはならない。
将として指揮していた者達は、そこに領内の案件を片付けるという作業もある。
信濃にいる間は、撤退に反対していた揚北衆も、領内に戻るとその辺の事に追われている。
一部の将達は、既に状況を予測していたようで、現実逃避でもしたかったのかしら?
まさしく大わらわといった具合で秋を駆け抜け、気付けば冬に突入していた。
私達が引き上げてからしばらくして、武田の軍勢も引き上げていったようだ。
彼らにとっても、様々な問題が浮上していたはずだものね。
こういうタイミングで城を取り返したり出来ればいいんだろうけど、村上殿にはその体力は残されてはいない。
しばらくは、にらみ合いを続ける形になるのでしょうね。
それから小笠原殿なんだけど、何故だか越後に戻ってきてみたら、その姿が無かった。
とくに、つても無いでしょうに、何処に行ったのだろう?
まあ、いいわ。
来る者拒まず去る者追わずって言うしね。
長尾家の水が合わなかったって事なんでしょう、多分。
しかし、こうなると信濃の状況は、より混迷を深めそうよね。
武田は、これからより信濃への侵攻を強めるでしょう。
それに村上殿がどこまで対抗出来るかだけど、独力ではそれも難しいでしょうし。
かと言って、私達が援軍を出す為の大義名分は失われてしまったわけだし。
まぁ、攻めずに済むならそれも良いかも。
でも、越後のすぐ隣に武田が居座るっていうのもね。
ハッキリと言って、安心なんか出来ないものね。
こんなとき、関東管領の力が働けば良いんだけど、信濃はどう考えても関東じゃないから対象外だし。
つくづくあんな役職いらないわね。
それでも、上杉家の名跡は獲得出来るなら、えたいと考えているんだけど。
もともと足利家の重臣のお家柄。
幕府の力が弱まろうと、その威は今だ健在。
対外交渉にも役立つでしょうしね。
それに、越後はもともと上杉家が守護として支配していた土地。
幸いな事に、私の場合は上手くいっているけど、代替えした場合はどうなるか分からない。
それを考えると、名跡を得られれば箔も付く。
それこそ攻めるなら、佐渡島にでも攻め込むわよ。
あそこって、金山で有名だったものね。
それをゲット出来れば、より越後の経済回るでしょうし。
もっとも、戦を終えたばかりだし、冬という季節もあり、全然動く気はないけど。
「それで、どうなの?」
「はい。全て滞りなく。後は日を決めるばかりとなっています。」
「うん、そうなんだ。いつ頃が良いかしらね。」
私の目の前には、大熊殿が座っている。
彼には、上洛についての一切を任せている。
任せたからには、変なことは言わない。
まあ、私がどうやったらいいのか分からないのだから、口を挟むべきじゃないものね。
そう決めての任命だったのだけど、上手く準備は出来たようだ。
そうなると、いつ頃行くか。
随伴する人員はどうするか。
そもそも、どの程度の規模で行くのか。
その辺を考えていく事になるのかしら。
「それなんですが、人員は極力減らした形ではいけませんか?」
「ん?そりゃ、構わないけど。なんでまた?」
「やはり、加賀がありますから。」
「加賀?ああ、加賀か・・・」
「ええ、加賀です。」
加賀といえば、今は納める者も無く、農民の国となっていた。
まあ、良く言っての農民の国という表現になるのだけど。
納める者がいないが、議会があるような事も無く、ただの無法地帯のような状況になっていた。
それこそ荒れに荒れていることだろう。
そんなところに、私達が行軍なんてしたら、それこそ襲われてしまったりしてね。
普通に考えれば、そんなことは無いと思うけど、どうなのかしらね。
「ですので、移動は船を利用して敦賀より下り、京へと赴きたく。」
「そうね。それでいいわ。」
「それと、今回の上洛は上杉憲政様に付き従う形としたいのですが。」
「憲政様を?」
あの役立た・・・じゃない関東管領様を?
「官位も上ですし、幕府の重役でもありますから。」
「つまり、連れていった方が、色々円滑に進むと?」
「その通りです。」
「分かったわ。差配はあなたに任せたのだから、それに従うことにしましょう。憲政様の方には、私からお話しておきましょう。」
「よろしくお願い致します。」
さて、それじゃ話に行きましょうか。
また関東への出兵を要求してくるのかしらね。
それか、お小遣いの範疇から越えた金額を要求してくるかしら?
はぁ、やれやれよね。
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