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潮時

無事荒砥城は守られたようで、とりあえずは満足。

こちらも攻め始めて程なく、青柳城を落とすに至った。

刈屋原城からは援軍が出されなかったからだ。

さて次はどうするべきだろうか。

いよいよ葛尾城を狙うべきだろうか?

いや、その前に援軍を送られた苅屋原城を攻めるべきか?

しかし、武田の首魁、武田晴信が詰めているという塩田城が近くにあり、ただ攻めるとしても容易くとはいかないだろう。

さらに、落としたばかりの青柳城を失うような結末ともなれば、本当に窮地に立つことになる。


「ふむ。ここが戦の分かれ目となりそうですな。」

「分かれ目?」

「これより先もなお侵攻を続けるのか、それともここまでとして、兵を退くのか。その岐路にあると思われますな。」

「バッハッハ。何を弱気な!このまま攻め上がれば勝ちは見えておるというに。」

「仮に勝てたとしても、損害がどの程度になるだろうか。越後における全ての兵を動員したわけではないが、多大な被害は今後の領国経営にも差し障りが出る。それに後少しすれば雪が舞う季節に突入することになる。冬支度をせぬ訳にもいくまい。」

「成る程ね。でも、葛尾城辺りまでは取り返しておきたいところなんだけど。」


そう言って頭をひねる。

変に欲をかいても仕方がない。

それでも、武田家を信濃から追い出す。

それが出来ずとも、武田の勢力を何度か押し返した葛尾城までせめて取り返したい。

そこまでやって、村上殿にバトンを渡してあげれば、ある程度は武田の侵攻を食い止める事が出来るんじゃないだろうか?

そこまで考えて、ふと思い付く。

何度も武田の侵攻を食い止めたということは、下手をすればこちらも同じ目に合うかもしれないと。

いや、城の構造に熟知し、用兵も上手な村上殿だったからこそ成せた事とも言えるが。


更に、季節も考えなくてはならない。

何の準備もせぬまま安穏としていられるほど、越後の冬は優しくは無い。

戦で冬支度が出来なくて死んでしまいましたなど、笑い話にすらならない。

武田が消極的にしか動かないのは、ここら辺を考えての事だろう。

となると、塩田城へと進攻しても、直接対決は望めないかもしれないわよね。


「どうなさいます?」

「そうねぇ・・・直ぐに答えは出ないわ。ちょっと考えさせて。」

「それは構いませんが、それほど時間があるわけでもありませんぞ。」

「勿論分かっているわ。」


そうして、二人を青柳城の一室から退室させる。

少し一人で考えたくなったからだ。

二人とも間違ったことは言ってはいない。

が、どちらも正解という訳でも無いのだろう。

進むべきか退くべきか。

塩田城まで奪えれば、明らかにこちらの勝ち。

しかし、それを奪えず冬を迎えるような事になれば、こちらの負けといったところだろうか。

良き答えは一向に浮かばない。

それなら私の心に従って行動する他無いわよね。

うん、そうしよう。


「誰かいる?」

「・・・」

「ああ、蔵人。ちょうどいいわ。皆を集めてちょうだい。」

「・・・」


無言のまま部屋を出ていく蔵人。

登場はいつも通りの神出鬼没ぶりを見せたけど、そこは普通に部屋を出ていく訳ね。

「御意。」とか言って、シュッと消えたらかっこいいのに。

そんな無駄な労力は使わないか。

そうして、再び部屋に集められた諸将を見て、私は自分の答えを発言する。


「ある程度の戦果を得ることが出来たと判断して、信濃よりの即時撤退をすることとします。」

「なるほど。そうお決めになられましたか。」

「バッハッハ。ま、それも良いですか!」

「お虎兄ちゃんが決めた事なら従うぜ!」

「どうぞご随になさってください。」


定満を始め、景家、貞興、長重の四人は賛同してくれた。

反対するとは思ってもいなかったけど。

ただ、反対しそうな人がいるのよね。

そう思い、目線をそちらの方に向ける。


「ん?どうしたんだ?オイラの顔に何か付いてるかな?」

「いいえ。ただ、反対するんじゃないかと思って。」

「そりゃ、残念さ。とはいえ、無理くり来てもらったようなもんだかんな。そう反対も言えないさ。」

「そう?申し訳ないわね。もう少し時期が早ければこうはならなかったかもしれないのに。」


少し申し訳なさげに私が言うと、それに対して首を横に振る村上殿。


「そりゃ、言いっこなしだぜ。かつての居城を取り戻すとまではいかなかったが、それでも充分な戦果だろうし。それに多分だけんど、景虎殿が帰った後、武田の連中も帰るんじゃないかな。」

「それは?」

「あいつらだって冬支度しなきゃならないだろうし。それに根拠地をいつまでも空けておく訳にもいかないだろうからな。」

「そうだと良いけど。」

「ま、駄目だったら駄目だったときさ。何、そんときゃ一発食らわしてやるさ。」


そう言って泰然とした態度を見せる。

これが強がりかどうかと言えば、やはり強がりだろう。

さりとて、このまま冬の間も私にいられるのも問題だろう。

今回の戦にも参戦していたとはいえ、主役の座を私に奪われたままなのだから。

幸い、信濃の豪族の衆らからはなかなか良い印象を持たれているようだ。

前回援軍に出した熊若が、ちゃんと仕事をしていたということなのだろう。

それに、乱暴狼藉何かは一切禁止。

下手なことをすれば、しばきあげると言ってあるし。

兎も角、村上殿の賛同も得られたのであれば、この地に残り続ける必要も無い。

そうして、私達は信濃の地を後にすることとした。

ただ、この時に貞興が言った一言が私の気分を重くした。


「そうなったら、揚北衆説得しなきゃな。」

「おおう、そうだった・・・」

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