お国の状況
とかくこの世は世知辛い。
親が子を、子が親を、そして兄弟が兄弟をと血で血を洗う時代。
自分の上司だとしても、それは赤の他人。
なれば、それはより顕著に現れるだろう。
それが俗に言う戦国時代である。
そしてそれは、ここ越後の国とて例外ではない。
世はまさに下克上。
貴賎を問わず上を目指すことが出来た時代。
下剋上の時代にあって、私の父である為景は、戦を繰り返していた。
越後守護である上杉房能を自害に追い込み、次いで関東管領という要職にいた上杉顕定を長森原の戦いで討ち取った。
そして、次の守護である上杉定実を傀儡化して、勢威を振るったのだ。
もっとも、それで簡単に国が治まったかというとそうでもない。
相次ぐ反乱に、対応を苦慮されたと聞いている。
それでも父上は強かったようで、それらの反乱を修めた。
やがて、相次ぐ戦いに疲れたというよりも、年齢的問題を考慮したのであろう。
父、為景は隠居し、兄で晴景が家督を継いだ。
その際、私は林泉寺に入門し、住職の天室光育の元に預けられることになった。
今まで、蝶よ花よと育てられた私にはショックだった。
父上があまりそばに来ることが無かったのを鑑みると、もしかしたら疎まれていた?とついつい思ってしまう。
尤も、住職の元に預けられたことで、比較的平和に様々な教養や兵学を教えられ、今の自分があるのだからわからないものだ。
兄は、どちらかというと父上と違い、国内を力で治めるのではなく融和をもって治めようとしたようだ。
生来体が弱かったことも、政策に影響していたかもしれない。
隠居したとはいえ、父上が生きている間は上手くいっていたようだ。
しかし、父上が没すると対抗勢力が力を増し、越後の国をその手に入れようと画策していた。
そのお陰もあってか、私は元服する流れとなり、そのまま初陣を果たすことになった。
その後も反乱や謀反が起こるが、私を中心とした軍勢でこれらを次々と撃退してみせた。
でも、どうにも頑張り過ぎてしまったようで、次は私を担ぎ上げて、兄上との仲を引き裂こうとする動きが起こる。
どうにも、兄上の領地経営に不満があるもの達が、かなりいたらしい。
父上の時と政策がガラリと変われば、ついていけない者もいるのだろう。
平和でいいと思うが、どうにもそれが納得いかないようだ。
強い力で引っ張って行ってほしいという者達が多かったようだ。
周りは、段々と関係が冷えきってきていると感じていたようだが、私にはそう思わなかった。
何せ大事な兄上なのだ。
何のかんのと喚く髭の濃い者達をいなしながら、のらくらとしていると、父上が亡くなった際に復権を狙った上杉定実が、調停を申し出てきた。
力はなくとも権勢はあるという有名無実なお方だが、これには助かったとばかりに、私はこの話に飛び付いた。
久方振りに訪れた居城は、やはり大きい。
門を見ただけでも、その偉容を伺い知れることだろう。
私にとっては勝手知ったるといった具合だが。
思えばここまで色々あったものだ。
「ただいま、帰ってきたよ。」
何となく呟いたのが門兵に聞こえたらしく、頭を下げられる。
それに鷹揚に手を振ってそれに応えると、門を潜り中に入っていった。
上杉謙信が実子がいない、かつお酒好きということだけで想像をふくらませたお話。
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