第4話 慟哭
2人の男が一匹の獣を止めようとしていた。
幾度と無く獣に刺さる物は、鋭い。
獣は幾度と無く慟哭を上げた。
獣の慟哭は甲高い、弱者のそれだ。
だが、獣は決して引かない。
攻勢に出られず、ただ傷が増えるとしても。
獣の姿に男達は息を飲み込む。
視線は理解出来ない物を見る目をしていた。
ありえない。
傷付けた度に、悲壮な叫びを上げた。
傷が増える度に息を荒げ弱々しくなった。
だが眼光は鋭く、鋭利になり続けた。
すぐに獣は死ぬだろう、間違いなく。
だが、獣は死ぬ恐怖を理解していない。
2人の男はそれを理解していた。
ただ、その理解が、男達に焦りと憔悴を与えた。
そう、2人の男は。
ダッカードとタケナカは、
冒険に出たいと言い出したヨシオ散々止めようとしていた。
「無理だよヤマダくん。『英雄』に憧れてるかもしれないけど、誓ってなれないよ?」
「そうだぞボウズ。敵をドン引きさせるだけのスキルで旅に出てどうすんだ?」
「そうだねダッカード。君のスキルは使う度に俺は痛い奴だって自分でバラすのと、相手をステップさせるだけのようだし。」
「身体能力も普通だし、カッコつけるのはまず無理だぞ?ルシフェル?」
「身を削るなら芸人の方が僕は良いと思う!」
「違い無い!間違いなく大物になりますぞ!タケナカさん!」
「「あははははは!」」
「真面目な話で笑うなよ!」
えらい鋭い言の葉だ。
事の発端はこの城に来て3日目。
明日には城から追い出されてしまうので、冒険に出るため、この世界の事を詳しく聞こうとタケナカさんの元までやって来たら。
ダッカードもついて来て面白く可笑しくスキルの紹介を始め、タケナカさんに冒険は無理だと判断されたのである…。
話によると、タケナカさんはイルダールに来た日本人を支援する活動団体『日の丸』に所属しているらしい。
構成員の殆どが日本人、この城も『日の丸』が人が送られて来る祭壇近くに目印と説明、宿泊所として作ったらしく、名前は『ラ◯トーム城』…いいのか?おい…。
因みに祭壇を祠にする派と城を建てる派で派閥争いをした末に、城派が名前を『ラ◯トーム城』にすると祠派に叩きつけ、黙らせたらしい。
そのノリなら祠だろうとヨシオはどうでも良い事を考えたのは置いておく。
城で3日過ごした後は『日の丸』に入会を勧められる、入会費が1年毎に必要になるが、そこに入ると就職先を探してくれ、普通に社会人として生活する事を推奨している。
随分急な就活だが毎日人が来て城に余裕が無く、日の丸はサポートも充実しており、数は無いものの、安定した収入を得られる場所をいくつか確保しているので、最低限の生活は出来るようになる。
異世界で路頭に迷う人を減らす為に尽力しており、スキルが良くないなら生きる為に入るべきだ。
現にヨシオが城に居る時に話した人達は、初めは冒険したいという声も聞いたが、3日に近づくと、次々に日の丸に入会を決めていった。
だがヨシオの中に宿るルシフェルの魂がそれを拒む。
我が平穏などに身を浸せる訳がなかろう…!
そこら中にいるモンスターと勇んで旅に出た先輩方の末路を聞いて、いのちをだいじにしか選べなくなっているヨシオではあるが…。
幾度となく憧れた冒険譚、それを自分でなぞる、今のヨシオにはその選択肢を選ぶ事ができる。
何より、旅の途中ならがんもを詰まらせるより、まだマシな死に方が出来る。
幾度となく馬鹿にされ、幾度となく自らを装飾してきた。
装飾は頭の中だけで、現実がすぐに現れ、幾度となく逃避した理想を砕かれてきた。
それでも妄想を止められず、息が詰まる生き方しかしていなかった。
死んだ方がマシかもしれないと思った事もある。
「すぐ死ぬかもしれない、でも決めたんだ!」
だから刹那的だとしてもやりたい事をやる、女神に貰った折角のチャンスなのだ。
ヨシオは引く事無く、慟哭を上げた。
随分遅くなりました!
今後の展開と向き合う時間を頂きました。
マイペースではありますがトントンと投稿出来るよう善処して行きます!