2話 邪眼の真価
堕天使とって、暖かな光が差す窓は境界線に感じられた。
境界線の向こうには雄大な大自然がある。
先刻、堕ちて来た森と、その先には雄大に聳え立つ山々が、有った。
その大自然の中に、ルシフェルが懐かしむべき物はただ一つも無い。
彼にとってそれはただ奇妙な物ににしか映らない。
しかしそれは、美しく、何者にも犯す事は出来ないだろう力強さを彼に与えた。
時に走る風は木々を煌めかせ、ルシフェルの元へ生命力を誇示する。
その土と緑の香りは、彼がかつて、純朴だった事に感じた懐かしい香りに似ていた。
そこに流れる風になりたいと、自身には似合わぬ事すら思わせる。
だが境界線を飛び越える事は無い。
拘束されし堕天使は、忘れぬように光を見つめ、空気と同化したかのように静寂に包まれ翼を癒す。
これより灼熱に参る為に。
だが堕天使は、既に光の先に心を焦がされてしまっていた。
そう、ヨシオは…。
これから訪れる恥辱責めを思い窓の外を虚ろな目で見つめ、灰になって…
どうしてこうなった。
異世界に来て、俺は『堕天使の転生体 ルシフェル・ドラゴニア』として呪いに苦しめられながらも優美に生きて行こうと思っていたのに。
もう痛い奴扱いされないで済むと思ったのに。
早速、過去暴露とかシナリオどうなってんの?
主人公の暗い過去とかって、ヒロインとか仲間の前でバラされて「それでも私はルシフェルを信じるわ!」とかって更に熱い絆が結ばれるイベントじゃないの?
ヒロインとか仲間はまだ居ないよ?え?脳内?二次嫁が108人まで居るぜ!?ククク・・・
いや、でもどうすんだこれ・・・あ、風になろっかな、アイキャンフライって叫んで風になった人が二次元にいたよな・・・
馬鹿な現実逃避をしていた。
暫くすると扉の軋む音と悪魔の慟哭が聞こえた。
「おい、お前の番がきたぞ!」
扉からヒョイっとダッカードが姿を表した、さっきよりニヤニヤしているのは気のせいだと信じたい。
「今日はお前以外にもこっちに来たやつが多くてな。待たせた、俺も待っていたぞ?」
そう言ってダッカードのニヤけが更に酷くなった。
ダッカードが あらわれた!
「おい、黙ってないでさっさと行くぞ?此方に来る前に何もして無ければ怖がる必要は無い」
ヨシオは どうする?
「行きたく無いんですけど・・・。」
ヨシオの なみだめでうったえる!
「はっはっはっ!安心しろ!皆そう言う!」
ダッカードは こうかくが ぐーんと あがった!
「ほら!早く行くぞ!」
あいての ダッカードの ひきずる こうげき!
「嫌だぁーーー!」
ヨシオは めのまえが まっくらに なった!
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「わっ…笑ってすまんかったの。ここまで夢見がちな者を見たことが無いでのう、るっるし…ブフォ!」
「元気を出せ。るっルシフェルくん…ブフォ!」
ヨシオはダッカードによって占い小屋のような部屋に連れられた。
ヨシオが座る椅子の前にある机には水晶玉が置かれ、対面するのはフードを被った占い師のような老婆。プルプルしながら俯き、顔は見せないが、干からびた手が机の上でもがいている。
ヨシオの後ろでは暴れた時の保険である、ダッカードが呼吸困難で死にかけている。
連れられてすぐさま魔法で痛々しい過去を暴かれ、同席していたダッカードと老婆に笑われ続けている。
当のヨシオは灼熱のような恥辱によりまっしろになっていた。
「まあ、悪いやつじゃ無くてよかっ…ブフォ!」
ダッカードは顔を赤くして震えている。
「そ、そうじゃ、願望も…ブフォ!」
このばーちゃんもそろそろ呼吸困難かな?
「良いよ…笑えよ…堕天使の転生体にして闇を従えし者!究極の美を持つ我こそがルシフェル・ドラゴニアである!それは事実なのだ!」
「きゅっ…究極の美…」
「事実…なんじゃな…」
「「ブッ!ブフォ!!!」」
笑い過ぎでしょ…。
「「殺す気か!」」
チッ・・・
息を整えたダッカードと老婆がヨシオに向き直った。
「ま、まあ良い。無事に善良な人間だとこれで分かった」
「うむ、願望も世界最強の男になってモテモテ位のかわいい物じゃからの」
「そうすか…」
風になろう。決心したヨシオであった。
「後はお主のスキルの事じゃな」
放心状態のヨシオが待ちに待った言葉だ!
「そうだ!邪眼だよ!馬鹿にはされたけど邪眼はあるんだろ!?」
邪眼の能力次第では、こっちで楽に生活して!最強で!モテモテ!パーフェクトライフ!
「おお、あるぞ。しかもお主は珍しい事に女神が2つも持たせたらしい」
その言葉にダッカードがめを向いた。
「2つだと!?ありえん!普通は1つの筈だ!」
普通は1つ???
「ハッ!やはり我は選ばれた存在なのだな?まあ、今更確認するまでも無かったが」
「うむ。一つは女神が持たせた物、邪眼はお主自信が前の世界で開花させた力じゃ」
「ほう、その我の2つの力とは?」
「お主が開花させたスキルが【ちょくし…」
「直死!?あの直死の魔眼か!?」
この目はそんな強力な物だったのか!?
「いや?【直視不可の魔眼】じゃ。」
「は?」
何だそれは?聞いた事ないぞ?あ、直死不可?アンチスキル?
「発動させて、自らを昂揚させるセリフを放つと、周りの人間が、痛々しいお主を見ていられなくなるスキルのようじゃ」
後ろで「ブフォ!」吹き出す音が聞こえた。
「はあ!?」
「前の世界で開花させた物じゃからな、心辺りがあるじゃろうて」
そう言う老婆はプルプル震えている様に見える。
「嘘だろ!?邪眼だぞ!?」
でも、そういえば女神もそんな事言ってたわ…
「女神が授けたもう一つのスキルが【強制バックステップ】じゃな。これは相手を強制的に後ろにジャンプさせるスキルになるのう」
「・・・。」
…つまり?
ダッカードが重苦しく口を開いた。
「2つ合わせると、痛々しくして強制的にドン引きさせるスキルじゃないか!」
「「ブフォ!!!」」
よし!風になろう!
堕天使の精神は焦がれた風になって飛んで行った。