解説その一
解説その一
今日も穏やかな朝が来た、一日平穏に終わりそうな予感がする。
そんな事を考えつつ、自宅のマンションの居間でボーッと自分はしていた。
これが学生の頃であれば早起きして男子用の制服着て学校に行ってたところだけどそれも1ヶ月以上昔の話。
卒業した今では朝はこうしてリラックスタイムである。
「とはいえ、働かないと食べていけないんだよね」
こうしている内にでも仕事の話が来てくれると嬉しいんだけど、と考えていると玄関のチャイムが。
ピンポーン。
「集金、勧誘、販売、宗教、仕事、どれが来たのかなっと」
そんなことを考えつつドアを開けると女の子が立っていた。
艶やかで長い黒髪が印象的な、パッと見たところ小学生と間違えてもおかしくない背の高さ&体型の女子
高生だった。制服を着用していて鞄も持っている所を見ると通学中という感じに見える。
「こ、こんにちは」
「……まだおはようございますの時間だと思うけど?それに今日は平日だから登校しないといけないんじゃないの?」
「……その、実は私困ってて、その手助けをして欲しいというか……」
平日に制服でいきなりやってきた女子高生、挙動不審な様子。
どう考えても厄介事の類だ。
「それでどうしてここに?」
「ここにいるって話聞いたんです、なんでも解決してくれるヒーローのような人が居るって。たいして信じてもいなかったけど、もしかしたらって……」
なるほど『そのパターン』できたか。
「まあ、そういうことならとりあえず話聞くから奥にどうぞ……名前はなんていうの?」
「清水です、清水梓といいます」
「そう、じゃ、梓ちゃん奥へどうぞ」
さっきまで自分がいた居間に通してお茶を出してあげた。
「じゃ、まずはこれを渡しておく」
梓ちゃんに自分の名刺を渡す。そこには「解説業者 甲斐 英雄」と書いてあった。
「解説?」
「そう、解説」
「解決じゃなくて?」
「そう、自分は解説をする職種」
「ヒーローというのは?」
「英雄を変換したんだな、そういうこと面白がってする奴っているから」
「……」
黙り込んだけど無理もないと思う、まさかの間違いだったんだから。そしてやっぱり予想通りの展開。
「まあ、とりあえず何があったのかを聞こうか?力になれるかもしれないし」
「……ありがとうございます、でもお話しても……」
「どうにもできないと思うのは無理ないけどね、自分ならなんとかできるかもしれないよ?助けたい大切な人がいるんでしょ?」
「え」
「しかも制限時間が迫っているんじゃないの?」
「どうしてそれを……」
「その話は後々、まずは梓ちゃんの話を聞こうか?」
それから1時間後。
「なるほど、そんなことが……」
話を聞いた見ると案の定この子は面倒なことに巻き込まれていた。
この子の家は相当貧しい状況らしい。その為、少しでも家計の助けになれればと思って少し前にバイトを始めることにした。
運良く高賃金の事務職のバイトが見つかってそのバイトをやってみることとなった。
しかしそれが間違いだった。
バイト先はある会社だったが働いている内に気付いてしまった、その会社が普通の会社じゃないことに。
口座の転売、やばい物の運搬、それらの犯罪行為を手助けするための人材紹介、仲介をその会社はしていたのだ。
これは大変だ、ここから抜け出さないと、と思ったが脅されてしまう。
そこにいる奴らの纏め役をしている奴に『どうしても辞めるというのなら、お前がこういうことをしているということを家族や学校に知らせるぞ?』
と、言ってきたのだ。ちゃんとした履歴書の提出が不利に働く珍しいパターンだ。
そんなことしたら自分達も捕まるぞ、と梓ちゃんが言ったら『俺達はいつでも逃げれるようにしているから捕まることはない、破滅するのはお前だけだぞ』ときた。
このままここで働いていたら警察が動いた時に自分も協力者として捕まるかもしれない。
かといって、逃げることもできない。知り合いにも相談できない。
「まさに袋小路、それで半分やけになってここに来たというわけか」
「……はい」
この子はとてもまずい状況に陥っている。
そういうヤクザまがいな奴らが一般人の弱い部分(今回の場合は個人情報)を抑えれたらロクなことにはならない。
ひたすら利用されるだけだ。
「……まぁ、そういうことならなんとかできるかもしれないけどね」
「ほ、本当ですか!?」
「とりあえず今日の所は連絡先交換して終わりということで、こちらも色々と考えたりする時間が欲しいし」
「分かりました」
連絡先の交換するために梓ちゃんが取り出した携帯は新機種だった。自分の随分前の機種とは大違いだ。
「……よし、交換完了。こちらの準備ができたら連絡するからそれまでは現状維持しててほしい」
「あの……いつごろ連絡貰えそうですか?」
不安そうだ、気持ちは分かる。