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或るいきすぎた男の話

作者: 春暁

 いつも君を考えていたい。

 いつも君だけで満たされていたい。

 君のことで頭がいっぱいな感じで暮らしたい。

 日がな一日君のことだけを思い続けていたい。

 24時間365日1分1秒全部、君のためだけに存在していたい。


 君が喜んでくれることだけをして生きていきたい。

 手始めに君に毎日花を贈ることにしたが、予想外に花が高いせいで預貯金に不安を覚えた僕は、仕事を始めることにした。節約のためにお昼は手作り弁当をもっていくわけだが、朝に弱い君が一生懸命毎朝作ってくれて「いってらっしゃい」とチューしてくれる妄想は365パターンはゆうに極めた。

 身だしなみがだらしないと君に嫌われるかもしれないから、毎日ひげも剃るしお風呂にも入るし洗濯だってちゃんとしているし、アイロンだってかけるようになった。パリッと糊のきいたワイシャツにネクタイを着けるときは、不器用な君がネクタイをうまく巻けなくて「いつになったら上達するのかな」なんて僕に隠れて落ち込んでいる様を思い浮かべてニヤついている。

 服屋に行く服がない位おしゃれに無頓着な僕だが、君の日焼けしていない白い肌に似合う服を選んでプレゼントするためだけに、ファッションや流行を勉強するようになった。ゆくゆくは「これ前から欲しかったの! どうして分かったの?」なんてはしゃぐ君に、「愛の力さ」なんて恥ずかしい台詞を吐く度胸まではさすがになくて「店員にすすめられて」と事実と異なる回答をしてしまい、後から猛反省するシミュレーションは既に千回は超えた。

 料理ができる男はモテるというフレーズに決して踊らされたわけではないが、君との記念日に手の込んだ料理をさり気なく供して「すごーい!」なんて目を輝かせる君見たさに、昆布出汁と鰹出汁の違いもよく分かってなかった料理音痴の僕が、「得意料理は揚げ出し豆腐」と言い切れる位にミラクルに腕前を上げた。 

 縁側で気持ちよく転た寝して、でも実は用事があったことを思い出して、起き抜けで慌てている僕に、しょうがないなって感じで微笑んでいる君に「おはよう」って言われちゃったりしたら、きっと僕はもう、もう、もう幸せすぎて天にも昇れる。


 いつも君を考えていたい。

 いつも君だけで満たされていたい。

 君のことで頭がいっぱいな感じで暮らしたい。

 日がな一日君のことだけを思い続けていたい。

 24時間365日1分1秒全部、君のためだけに存在していたい。


 ねえ、君に寄り添うことだけを考えるようになってから、長い時間が経ったよ。

 あれから僕は、君に寄り添うためだけに、朝起きて顔を洗い朝食を食べ身支度をし、仕事に出かけ汗をかき、昼食をとって仕事に戻り、時々寄り道もするけれど家に帰り、家事をこなし、晩ご飯を食べ、お風呂に入って明日の準備をして眠りについているよ。

 日が昇り日が沈み夜が更け朝が来て、その繰り返しをずっとずっと続けてきたよ。


 もういいかい?

 もう、いいかい?


 もうそろそろ、いいだろう?


 君の心臓が疲れたときが、僕の『オヤスミ』になったとしても。

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