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第六話 イントロダクション Cパート

前中後編ではなくアルファベットにしておいて大正解。

このエピソードが終わるまで、あと1話や2話はかかりそうです。


あと、明日から、書きためておいた別作品の投下も始まります。

並行して行うつもりではいますが、こちらは一日一本の

投下ができれば、せいぜいという感じになると思います。


「ここが三番街か……雰囲気は悪くないな」

 オレたち三人は公爵邸をあとにして、仮押さえをしている物件のある三番街に足を運んでいたが、後ろの二人は口を閉ざしていた。公爵に名乗らなかったのを不審がっているのだ。


「下見ぐらいはできるんだよな? アデール」

「話は通っているはずよ。こっちね」

 アデールは事務的な口調で、三番街の中でも立地の良さそうな、角地を指さして歩き始めた。どうやら土地を扱う店のようだ。

「あの……。拙者を雇ってくださっても、本当によろしいのでしょうか?」

 こうなっては人員の確保は必須なので、イレーネに所属してもらうよう頼んではおいたが、条件的な物だとかは一切定めていない。なにせ仕事が途切れたら、あっと言う間に、店じまいになりかねんからな。




「こちらになります。内見が終わりましたら声をかけてください」

「なかなかいい物件じゃないか! 本当にあの額で買えるのか?」

「仮押さえを打ってるって言ってるでしょ? 足りない金貨六百枚は、わたしが出してるわよ。まぁ、幸い浮いたお金もあったしね」

 案内されたのは、三番街と四番街の境にある、三角形の土地を、一片の土地もあます事なく建てられた、三階建ての商館作りの建物だった。


「アデールが、三分の一以上も金を出すって言うのか?」

 第一印象では気弱な少女だったのだが、オレの中では男を食らう魔性の女で、守銭奴に見えていたので、意外だと言える。

「そうよ。建物の登記そのものは、わたしの領地の名義で行うからね……」

「待て待て! それでオレが金貨九百枚って、おかしくないか?」

 オレに負い目もなくはないが、ここは主張しておくべきだろう。

「もう……話は最後まで聞きなさいよ。わたしが主張するのは三階だけよ。あとは、あなたに住む権利を発生させるような、証書を作るからさ」

 アデールは、自分の腹を大事そうになでてから言い放った。

「うーん。条件としては、悪くないのではありませんか? 主君」

 イレーネは古風かつオレが領主であるかのような呼び方をする。改めてもらいたいと言ってはみたが、名前を名乗ってもすらいないからな。

 この世界では、証書の有効力と強制力は絶大だ。所持金と言っても、一定額になると自動的に証書に変換されてしまうという、妙にデジタルさのあるシステムだ。

 それ故に、証書にともなう強制執行などが行われる場合には、どこに逃げようとも、懐の預金証書が消え失せたり、借金を返すまでは天引きされるというシステムなのだ。



「ちょっとした事務所や、待機所として使うにはじゅうぶんだな」

 一階はカウンターや応接セットを用意する事になるだろうが、それでも仕切りの向こうに二人や三人はダベれるだけの広さがある。

「場所はへんぴですけど、通りから見えてますし、よろしいのではないかと……」

 イレーネはここに来て、商売的な観点を持ったのだろうか……。

「うーん……カデスト家が後援し、旗印すら下賜する商会としては貧相ですけどね」

「ちょっと待て、アデール! 商会だと? 護衛を請け負うんじゃないのか?」

「いきなりそんな事を言っても、無視されるのは見えてないのかしらね? わたしの領地から運んだ鉱石を売れば、大もうけできるじゃないの」

 アデールは、まったく想定していないような、未来予想図を口にしてしまう。

「おいおい。そんな事をしたら、あんな辺ぴな土地まで鉱石を掘りに行くヤツが、いなくなるんじゃないのか? それに、『名前付き』がいなくなったとはいえ、危険な制限地域をまたいで、商売をするってのか?」

「それができるからこそ、この街でも一目置かれる存在になれるんじゃないの? 無難な事してたら、半月とかからず干されるわよ。もうちょい現実を見てよね」

「ぐっ……たしかにそうかもしれんが、現領主の了解は得ているのか? 掘りに来ている連中だって、横から買い上げるとか言っても、素直に売るとは思わんのだがな」

 アデールの言っている事は合理的ではあるのだろうが、人間の感情というものを、理解できていないのではないかと思う事がある。

 領地に戻って演説をぶったところで、信頼が得られるとは、とても思えない……。

「前領主なら転生準備中で、もうわたしが領主なのよね」

「なんだって?」

「鉱石の事だけど、そもそもあの鉱山は、当家に権利があるから、その気になれば一日に持ち出す量を制限する事ができるわ。余剰分を買い取ればいいし、どうしても持ち出したいなら余分に税を払えばいいのよね」

 それぐらいの自動処理なら、簡単に行えるだろう。鉱石を掘った事がないので気づかなかったが、いまでも一割ほどの税金がかかるとか言っていたな。

「わたしの領地もあの街も……。これまでは、『名前付き』が居座っていたけど、これからは違うわ」

「制限地域ではあるけれど、あそこを毎週のように突破しようだなんて、隊商もいないでしょうし、そもそも余剰分の鉱石は独占するのだから、ほかに売る物もないわ」

 アデールは一気呵成かせいに、弁舌をオレたちに披露した。

「すごいです……。アデールさんは、領主だというだけではなく、商売人としての才能もお持ちなんでしょうね……敬服しました!」

 イレーネは、アデールの口先八寸に早くもやられてしまっているようだ。耳障りのいい言葉だけを信じると、たいがいろくな事はないんだがなぁ……。

「上の階も見ておきましょうよ。人を待たせてるから早く! 時は金なりよ」

 アデールはそう言って、すたすたと階段を上がっていった。



「ふむ……間仕切りをすれば、二人ぐらいは暮らす事ができるな」

 一人で住むには若干広すぎるからな。

「三階はわたしのスペースだけど、お風呂もあるわ。イレーネになら、入らせてあげてもいいわよ?」

「えっ本当ですか? ありがとうございます! アデールさま!」

 イレーネはさっそく懐柔されて、使われる人間になってしまっているようだな。

「って、待て待て! イレーネも、ここに住むつもりなのかぁっ?」

「いま住んでいるところは、出て行かないといけないんです……。やはりご迷惑ですよね? 主君」

 イレーネは上目使いでオレに問いかけた。

「アデールは二階と同じ広さの三階を使ってるんだから、住ませてもらえばいいじゃないか。それで解決だろう」

「ところが、どっこい……わたしにはもう、同居人が一人いるからムリなのよね」

 なに? オレが言えた事ではないんだが、さっそく男でも作ったというのか?

「ここで商売をするにも、護衛の仕事を請けるにも、出払っている間は開店休業状態じゃないの。売り子件事務員を確保してるのよ。公爵家の第一執事のめいっ子だそうだから、安心できるわよ」

 何という手回しの早さか。すっかりオレも取り込まれているな。だが、反論しようとしても、これまで目をそらしていた事について突っつかれるのは目に見えているしな。



「ちょっと待て、その売り子の給料はどうやって払うつもりだ?」

 商売をする上での、リスクだけをかぶせられるぐらいなら、すべてを捨ててでも逃げ出した方がマシなので、オレはあわてて問いただした。

「これから話すつもりだったけど、利益の三割はもらう事になるわ。経費の中からその子の給料を支払うから。売り上げの三割じゃないから良心的なんじゃないの?」

 そう言われて素直に信じるつもりにもなれないが、筋は通っているんだろうな。

 ただし、オレの経費はほとんど認めてもらえない。そんな未来が見え隠れしているようだぜ。

「あの……拙者のお給金は、いかほど頂けるのでありましょうか」

 そういったオレのどんよりた不安を吹き飛ばすかのように、イレーネが期待を込めた表情でオレに問いかけて来る。いや、だから、空気読めって。

「ぬぅ……二階で住み込みという事だから、あまり支払えないとは思うんだが……」

「そうですよね……でも、住まわせてもらえるなら、拙者としては有り難いです」

「アデール。おまえさんはどうするべきだと思う?」

 オレに有利すぎる契約でも結ぼうものなら、アデールがうるさそうだ。そもそも、人助け的な雇用だしな。

「そうねぇ……。商会の規模にもよると思うけど……半年ごとに、来期の報酬を、利益からの取り分という形で決めればいいんじゃない? 現状この三人で回す事になるのなら、暫定的に二割あげればいいじゃない」

 という事は、その言葉をうのみにしたとして、利益の半分かぁ。たしかにオレにとっても悪い話ではないな。

 まぁアデールの取り分の割合は変化しないんだろうが、直接払うよりはマシだ。

「それじゃあ、契約をさっさと済ませましょ。その売り子も来てくれる事になってるしね。ほらほら、降りた降りた」




「残金を受け取りましたので、名義書き換えを行わせていただきます。公爵家のご紹介ですんで、万事遺漏なく執り行わせていただきます。もうお使いになられて結構ですので」

 あっと言う間に、土地の取引は完了してしまった。たしかに、あの公正なセラエノ公爵が裏の後見者であるのなら、アデールも、あまりうムチャな要求もして来ないかもな。オレは額面が金貨百枚に減ってしまった証書を眺めてつぶやいた。



「あの、カデストのご領主のアデール様はいらっしゃいますか?」

 取引が終わり建物に入ろうとすると、十五歳ぐらいの女の子と、少し年上の身なりの整った少年が、近づいて来た。

「もしかして、アデールが頼んだって言う、売り子兼事務員か? だとしたら、そちらは一体……」

「申し遅れました。わたくしセラエノ公爵家で執事見習いをさせていただいている者で、こちらにご奉公するのが妹のロロットです」



「あぁ、来たわね。じゃあサン・カデスト商会の名にふさわしい、家具や寝具の調達を頼むわね。三階のわたしの部屋はこれで支払って。一階のカウンターと応接セットと、台所とかは……。ホラ! 早く!」

「なんだ? どんな家具にするかは好きにしてもいいぞ?」

「そうじゃなくて、金貨百枚の証書がまだ残っているでしょう? それを使って一、階の家具と二階の寝具なんかを、そろえるのに決まってるじゃない」

「待て待て! 金貨百枚ったら、銀貨に換算すると一万枚だぞ? しかも銀貨を一定額ためれば金貨に変換できるって物ではないし」

 金貨は銀貨に換算すると一枚で銀貨百枚に相当する。だが、一般的な生活のための費用や報酬などは銀貨が主流であり、金貨はさまざまな利点もあるのだが……入手する事すら困難な、特別な扱いの、貨幣になるんだ。

「あんたが半分の利益を取るってんなら、それぐらい当然でしょ? ったくぅ。まず一階の調度を整える事を重視して、二階の家具や寝具は残りのお金でまかなってちょうだい」

 アデールはオレの手から金貨百枚の証書を、半ば強引にむしりとると、執事見習いだという少年に手渡していた。

 という事は、そもそも条件付きの金貨だったって事だ。これがあるから恐ろしいんだ。

 つまり、金貨とは使用目的を限定する事により、さまざまな契約の履行を容易にするための貨幣だという事だ。

 仮に仕事のための金貨を持ち逃げしたとしても、それを銀貨に換金する事もできなければ、不審な行為をした場合には、即座に証書が消えうせるという算段だ。



「やれやれ……これでは先が思いやられるよ……」

 二階には二人住む事も告げておいたので、数日のうちには準備が整うんだそうな。なら、その間に、どこかに冒険をしに行ってもいいかもな。

「仕事も住む場所も見つかって。主君には、本当に感謝しております。これからは何なりとご命令ください!」

「じゃあ、まだ処分していない武具とかもあるし、売りに行くか。これから、あちこちで仕事をするなら、買っておく物もあるだろうしな……」

「それでは、案内いたしまする」

「そうだ、例の長弓な。あれはここで働いてもらう事にたいする前渡し金の一部だとしておくか。当面の物も必要だしこれを」

 オレは、銀貨500枚の証書をイレーネに差し出した。

「本当によろしいのですか? ここまでの厚情をいただけるとは、いかようにしてご恩に報じればいいのやら」

「買い物に行くの?」

「あぁ。必要な物を買いそろえておく必要があるからな」

「わたしも同行するから……。ぜんぶ、領収書をもらうのよ?」

 大蔵大臣もついてくるようだ。



「おまえはクラウス・ケイン! 聖騎士の勤めを放棄して、何をしている!」

 大通りに出た時に、目線があった人物から、荒い言葉を投げかけられた。

 過去ってのは、嫌でも追いかけて来るもんなんだな。



多少は縦書きでも読みやすくなったのではないかと思いますが。


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