第五十話 ロンゲスト・マーチ Dパート
記念すべき五十話目ですが、ちょっと地味なパートかも(汗
「はぁ……何とか無事に逃げ込めたようだな」
何か所かに外との出入り口があったので、オレたちはオーリガの案内により、坑道に逃げ込む事ができていた。
「表面の皮は固いし、槍でブッたたいても平気なんスから……下がる事しかできなかったっスよ」
唯一の盾役として頑張っていたらしいエミリーが、弱音を漏らしていた。
「全部は試してないけど、水の元素魔術でも効いてなかった――」
「拙者は、矢で目を突き刺したのですが、みるみる盛り上がって回復してしまうのでは」
「闇の眷属にはかなり効くんだけど、火の眷属だと結界もあまり効果なかったから、怖い思いをしたわよ」
先に進んでいた皆は、感じた恐怖を口にしていた。
「火の眷属はあの場所の東の地に封印されており申したが、何者かが封印を破壊したのやも」
「カミラの水の元素魔術でも効かないとしたら……対処方法は、何か言い伝えで残っていないか? オーリガ」
「わちきは、しゃばでも部族連合の産まれであり申すが、火の眷属については聞いた事もあり申さん。この世界にのみ存在するのやも」
「ふむ……何者かの干渉の可能性か……。イベントというやつにしては、過酷だが」
現時点では対処できないのなら、それは障害とみなして回避して、迷宮に突入するしかなかったが、このままではラミール軍にも多大な被害が及ぶだろう。
「水の精霊王を召喚し、盟約を結べば、倒せるかも――」
ついにあの事を口にする決断をしたのか、カミラが口を開いた。
「精霊使いがいればの話よね。それも、相当の能力を持つ……」
「実は、カミラは精霊魔術も使えるんだ……相当高いレベルでな」
「なんですと? 精霊魔術と元素魔術は相いれない物と、なっていますぞ? ご主君!」
自身も精霊の加護を得んとしていただけに、イレーネは精霊使いの知識が豊富なようだ。
「正確に言うと、カミラではなく、このわたくし、カレンが精霊使いなのですけどね――」
どうフォローするべきか悩んでいると、カレンに切り替わってしまったようで、カレンが口を開いた。
「えぇっ? カミラさんっスよねぇ……」
さすがに、エミリーにも説明していなかったようで、目を丸くしていた。
「わたしはカミラの体に入り込んでしまった精霊の魂なの。エミリーちゃんとも、何度かお話をしてるんだけどな――」
「ふだんは口数少ないのに、夜になるとおしゃべりになるとは思っていたっスよ……」
その違和感には気づいていたようで、エミリーはすんなりと受け入れていた。
「そういう事であるなら……川を挟んでラミール側の山の奥に……龍神が住まうという滝があり申す。そこでなら、水の精霊王を召喚する事ができ申すが……。禁足地のうえ、侵入を阻む結界もあり申す」
「川向こうでも、カミラの魔法を使えば移動できるわよ? 詳しく聞かせてくれるかしら?」
そのあと、オーリガから龍神の滝について教わり、カレンがそこに向かう事は半ば決定したのだが……。
「いくら、あなたたちが強力な魔法を使えるとしても、一人で行かせるわけにはいかないわ……」
合流するのは、迷宮の前の水焔の里の西の地点と定めたので、 残るメンバーは前進しつつ魔物について調べる予定なので、誰を同行させるかという事で紛糾していた。
「エミリーちゃんなら、抱えて一緒に運べるけど、それ以外の人は無理だって、カミラが言ってるわね」
「ふむ。そっちの戦力的にはじゅうぶんだが、こっちはオレとオーリガとアデールとイレーネか……。威力偵察ならできるが、大勢の魔物を相手できるかは不明だな」
そもそも、川岸まで無事にたどり着けるのかも疑問ではあるのだが、川のそばにオレたちがいないと、戻って来た時にカミラたちが危険だしな。
「渡河予定地点の東の森の地下に、非常時用の備蓄庫があり申す。前進できないようなら、そこで待つしかないかと……」
まだ倒せないと決まったわけでもないが、下手に戦闘すると仲間を呼び寄せられるので、原則的には回避するしかないだろう。
「エミリーから連絡――魔物の姿は見えず――」
カミラとエミリーが渡河するために、半日ほど坑道を東に進んで、あたりが暗くなったころに外に出て、斥候のエミリーのあとをついて川岸まで移動していった。
どうやら例の魔物の群は西に向かっているようだが、また後続が出て来ないとも限らなかった。
「じゃあ、朝六時と昼と午後六時を定期連絡の時間にする。できるだけ川岸に近づくから、連絡可能ならしてくれ」
「了解した――」
「このポーションも持っていくといい」
イレーネはエミリーに、部位損傷も治せる最も高価なポーションを手渡していた。
「イレーネさん……ありがとうっス! 必ず、カミラさんとカレンさんをお守りするっスから!」
「エミリー……カミラに抱きついて」
「わかったっス……じゃあ、アニキ……行って来るっス!」
エミリーは不安を押し隠しながらも笑みを浮かべて手を振ってくれた。
「うわっ。消えたんじゃなくて、もう向こう岸にいるのね?」
それなりに川幅はあったが、視界が届く範囲になら移動できるのだそうだから、余裕で到達できたに違いない。
「夜は危険ですし、備蓄庫まで移動しますかな? クラウス殿」
「そうだな……。ちょっと試してみたい事はあるが、それは着いてからの事にしよう」
火の眷属の魔物に、聖剣による神雷の剣が通用するか、試しておく必要があったが、仲間を危険にさらすわけにはいかない。
「ちょっと狭いけど、この中までは魔物も入って来ないわよね」
三十分ほど慎重に移動し、オレたちは森の中にある備蓄庫にたどり着いていた。
「よし。なら、みんなはここで休んでくれ。オレは少し試しておかないといけない事がある……」
「そう? じゃあ食事は……ここの保存食料をいただいて済ませましょうか」
オレは三人を備蓄庫に残して地上に出て、入り口を偽装し始めた。
「こんな物で大丈夫かな? では、行くか」
「クラウス殿……わちきも連れていってくだされ」
「いや、おまえさんが残らないと、あの二人ではどうにもならん」
二人の実力を低く見積もっているわけではないが、近接戦闘能力を期待できないのも事実だった。
「ですが、クラウス殿がもし倒れるような事があれば、この作戦は失敗に終わるのでは?」
「わかった。では、後詰めを頼む……」
「では、二人に言っておきまする。もし戻ってこなかったら、明日の朝、川沿いに移動するように……と」
「そうだな。反対されそうだが、相手を見極めないと、今後の戦術が立てられないからな」
その後、ひともんちゃくはあったが、オレとオーリガが威力偵察に出る事を認めさせた。
「できれば、一匹しかいないような状態でのみ、戦ってみたいのだがな」
「そこまで都合よく行くかは、わかり申さぬが、ここらの地理なら詳しいので、有利な場所を選び申そう」
オレたちはできるだけ視認されにくいよう、反射するような物はストレージに収納して、草むらや木の陰を伝って進んでいった。
「なにやら、前方で金属音がするが……。こんなところに、生き残りの部族の人間がいる可能性はあるか?」
「行方不明者は二人ほどしかおらぬし、戦闘能力のない人間ゆえ、違うかと」
「様子が分かるぐらいまで、接近してみるか」
「くっ! 川沿いに後退しろ! スタミナを完全に切らすなよ」
前進すると、レックスが率いる六人のパーティーが、レッサーデーモン四匹と、グレーターデーモン二匹と戦闘してるところだった。
レックスが再びの登場です。
さて、どうやってこんな奥まで入ってこれたのでしょうか?




