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第四話 イントロダクション Aパート

前中後編では収まらない可能性があるので表記をアルファベットにしました。



10/29:微調整しました。


「くっ……全財産は、銀貨千五百枚というところか――」

 オレは、セラエノの街の裏通りを歩いていた。

「最初っから、そのつもりだったのなら……いや、深く考えるのはよしておこう」

 少し遅れて会合の場所に送り届けたものの、クエストは失敗という扱いになったのだ。前日の夜に護衛ギルドまでたどり着いた時点で、違約金の心配はなかったのだが……。

 それは任務に失敗していないという事でしかなかったのだ。

「あの街から抜け出せただけでもマシと考えるべきなんだろうな」

 だが、手に入るはずだった、三千枚もの金貨を思うと、頭が痛くなる……。

「オレってやつは、ちっとも成長しちゃいないんだなっ!」

 幸いにして、領主の継承はできたようなので一安心ではあるんだが。今後も顔を出す事を約束させられたのだから、何を要求されるやら……。

「住む場所すら決まってないんだが、紹介してもらえるのかねぇ」

 オレは任務中は必要な事しかしゃべらない癖をつけているのだが、実際はこんな男だ……。

「ぬわっ! な、何だ?」

 考え事をしながら、護衛ギルドの方角へ向かっていると、耳に激痛を感じてしまった。

「これは失礼致した。大事ないか?」

 ぶつかったのは妙に古風なしゃべり方をする、長弓を背負った若い女性だった。

「大丈夫だ。ついでだから訪ねるが、ここらで武具の素材を買い取る店を知らないか?」

「この街の事なら多少は知ってはいますが、いったいどのような、素材なので?」

 長弓使いの女性は、オレのぶしつけな問いにもかかわらず、応えてくれた。

「そうだな。魔物のこういう部位ならば、買い取ってもらえると思うんだが」

 オレは、『名前付き』の毒針のある尾を、大袋から取り出してみせた。

「こ、これはもしや、西の峠に居座っている『名前付き』の尾ではないのですか?」

 長弓使いの女性は目をむいて素材にさわり、手触りを確認していた……。

「ああ。切りつけても傷ひとつ付かなかったもんで、根元から切り取って来たんだが」

 『名前付き』を倒した時点で、所有権がオレの物になった武具なども持って来ている。警護対象者をかついで移動する事もあるので、筋力はそれなりに鍛えているつもりだ。

「何という事でしょうか。満足な謝礼が払えるかどうかは分かりませんが、是非拙者に!」

「うーん。いま、金欠なんでな。一度相場を調べてからでないと、気が進まんな」

「そうですね。価値を知らない方から、口先だけで買い取ったと思われても不名誉です」

「そうだな。店の買取価格がわかれば、一度保留しておいて、直接取引してもいい」

 正直このような商売じみた物は好きではないのだが、そんな事を言ってはいられない。銀貨千五百枚の所持金も、小銭ではないが、新しい基盤を作るには足りないのだから。

「だが、査定だけをしてもらうのもアレだが、大丈夫かな? なにせ新参者なんでねぇ」

「それでしたら、買い取る素材の種類は限られますが、気心のしれた店がありますゆえ」いまから同道するのなら、口裏を合わされる心配もなさそうだ。




「なっこれ、ずっと欲しがってた素材じゃないの! 私に作らせてくれるのぉっ?」

 裏通りの小さな店に入り、あいさつをしてから素材を見せると、目をむいてしまった。

「ん? 素材の買取業者じゃあないみたいだな」

 作るという言葉に反応したが、回りを見ると弓関係の製品ばかりだと気づいた。

「彼女は見ての通り、弓作りをなりわいにしていて、街一番だと言われています」

「オレがこの店に素材を売り、この店が加工して、それをキミが買い取るべきなのかね?」

「これを使った長弓を作らせてくれるのなら、多少の事は問題ないですから!」

「拙者が紹介したのですから、買い取りには、優先権があってしかるべきですよね?」

 即座に買い取ると言わないところを見ると、手元が不如意なのかもしれないな。

「ふむ。で、いくらぐらいで引き取ってもらえるんだい?」

「うーんと、そうですねぇ。銀貨二千枚ではどうでしょうかねぇ」

 店主は少し考えてから、上目遣いでこっちを探るような視線で、口を開いた。

「あの、ちょっとお待ちください。この戦利品はギルドで報奨金は受けられました?」

「ちょっ、言わなきゃいいのに。このクソまじめっ」

「ん? どういう事だ? 『名前付き』を倒したのは初めてだから、何も知らんのだが」

「これは『名前付き』を倒した事の証明になので、冒険者ギルドで報奨金がもらえます」

「ふむ。何だか知らんが、報奨金をもらっても、没収されるわけではないんだよな?」

「ええ、それはもう。報奨金だけでも銀貨二千枚は固いので、まさか知らないとは」

 店主の険悪な空気を察してはいるのだろうが、想像以上にきまじめな人間のようだ。

「必ずここに持ち込むから待っているんだな。それとも。やめておくかね?」

「いえいえっお待ちしていますもんで」

「それではのちほど」

「オレも交渉ごとは得意じゃないが、キミもそれに輪をかけているようだな」

「それは……他人をあざむくような事をすると、精霊の導きがなくなるからです」

 悪業を積まない事を目的とする宗教に入っているのかと思ったが、違っていたようだ。




「あそこまで感謝されるとはな。オレがいた街には、冒険者ギルドがなかったからなぁ」

 冒険者ギルドが報奨金をかけていたので、銀貨三千枚もいただいてほくほく顔だった。逆に言うと、この女性から指摘されなければ、相当な損を被っていたという事になる。

「いえ、当然の事ですから。むしろ店に行く前に気づいておくべきでした」

「失礼だが、あの店で加工してもらったとして、それを買い取れる金はあるのかい?」

 オレが意を決して問いかけると、みるみるうちに表情が暗くなってしまう。

「あーそんなに表情が読まれやすくっちゃあ、悪いやつにつけこまれるぜ?」

「仰る通りです。いつも気がつくと、損な役回りばかりに」

「これをあの店に売ると、いまでも二千枚払ってくれそうかね?」

「ええ……もうけは少なくなるでしょうけど、問題ないかと」

「という事は、キミの助言で銀貨三千枚の損失を防げたって事だな。これは恩義だろう」

「そう。なりますでしょうか? そもそも拙者の……」

「オレの故郷では、これは立派な恩義だ。だからと言って礼金としては受け取らんだろ?」

「そ、そうですね……よく、拙者の事が分かりますね」

「西の街から出て来たばかりで、右も左も分からん状態だ。そこで案内を頼みたい」

 オレは、意図的にビジネスライクに、会話をすすめる事にした。これも縁だからな。

「はぁ案内ですか? どちらに案内すればよいのでしょうか」

「オレは護衛人をやっているが、このあたりで任務を受けるさいに通りそうな場所だな」

 地理を把握していないと、死地に追いやられる危険があるから、十日はみておきたい。

「そうですね。西から来られたのでしたら、東のラミールへと続く街道でしょうか」

「ふむ。片道で、どれぐらいの日数がかかるのか、わかるかい?」

「そうですね。大量の荷物を運ぶ商人の護衛ですと、渡船を使わないので、三日ですね」

「ふむラミール周辺でも多少は下調べをしておきたいから、現地に二泊は必要かな」

「この街は規模は大きいんですが、隊商の方が多いので、ラミールの方が仕事が豊富かも」

「大きい街に出ればいいってもんでもないんだな。ところでキミの予定は大丈夫かい?」

「正直に言いまして、仕事を干されているような状態なんです」

「仕事は限られているから、いやなやつでも従わないといけないんだが、ついってか?」

慧眼けいがんおみそれしました。本当によく理解しておられるようで」

「それはオレも似たようなもんだな。護衛ギルド長に裏切られて、危険な橋を渡ったのさ」

 つい先日の苦い出来事を思い出してしまい彼女にも同情してしまっていた。

「ふーん。ところで、おまえさんの本業は何だい? 冒険者か護衛人かい?」

「拙者は。その……、あまり聞き及んだ事がないと思うのですが、『狙撃手』なのです」

「は? そんな職種があったのか? 希少スキルの持ち主に与えられる称号なのかな?」

「まさしくその通りでして……敵に接近されるとお手上げなので、使い道がないと」

 かく言うオレも希少スキルというか、希少な存在ではあるのだが、無論秘密だ。

「一人では冒険に出るのもおぼつかないが、周囲には利用されたり、厄介者扱いを受けていると?」

「拙者、これほどまでに、自身の事を理解されたのは、初めての事です」

 オレも相当なものだと思っていたが、この女性の世渡りの下手さは、群を抜いている。

「ふむぅ。遠距離から敵を狙撃するのに必要なのは、強い弓だから、あの素材か」

「その通りでございます」

 何を言ってもかしこまられてしまい、少し居心地が悪い気までしてしまう。

「という事は、この街から出て、ラミールを本拠地にしても問題は、ないのかな?」

 自治州とはいいながらも、領主たちが大きな顔をしているようなので、居心地は悪い。

「それを考えていたところなのですが、なにぶん路銀もなく護衛の任務すらも」

「そういう事ならこうしよう。この素材はあの店に託して、加工後にオレが買い取ろう。『名前付き』素材で作った弓だからと、飾る目的で買われでもしたらたまらんだろう」

 素材だけで銀貨二千枚を提示したのだから、その倍の値はつくに違いない。

「まことに有り難きお言葉。その事を先ほどから、気がかりにしていたのです」

「ふむ。じゃあ先の事は分からないが、十日ほどキミを雇うという事でいいかな」

 いまにも平伏しそうだった彼女をなだめて、先ほどの店に戻る事にしたのだが……。



「おんやぁ? どこから男をくわえ込んできやがったのか。ろくな働きもできんくせに」

「オレは彼女を道案内兼護衛として雇っているのだが……キミは、どこのギルドの人間なんだね?」

 ちょっと大通りを歩いただけで、以前からもめ事のありそうな大男がその姿を現した。

「おっと、これは失礼。だが、ギルドを通さずに仕事を請けるのは、いかがなものかね」

「別に直接契約が、慣例に反しているというわけでもないだろう。まだ何か問題でも?」

 彼女は後ろに隠れておびえている事もあり、こういう手合いには強気に出る事にした。

「ぐっ。てめえ。どこの山から出て来た、山だしだかしらねえが、このオレ様に!」

「ほう。何の関係もない人間にまで、無条件で服従しろとでも? どこの貴族様だね?」

 騒ぎを聞いて人が集まって来ており、大男は怒りを押し隠すのに苦労しているようだ。

「これまでも彼女に、従う筋合いのない命令を強要し続けたんじゃないのか? あんた」

 正直に言ってオレはこの大男のような手合いが、へどが出るほど大嫌いだ。彼女も、こんなやつにつきまとわれて、さぞや迷惑をした事だろう。

「この街は、自治の気概があると聞いてやって来たんだが、実際は大違いのようだな」

 無関係な人間を敵に回すのは得策ではないが、誰も制止しない事に腹立っていた。

「あったま来たぜ! このおれさまを誰だと思ってやがる。アビス峠の『名前付き』の、左腕をたたき切った『豪腕』のバルディオス様をなめるんじゃねぇ! クソガキぃ!」

「左腕? これは異な事を聞くな。アビス峠の『名前付き』なら、つい先日倒して来たところだが、両腕ともくっついてたが、どういう事だ?」

「はっ! 言うに事欠いて、『名前付き』を倒しただと? あまり笑わせるなよぅっ?」

「説明するのも面倒だな。これに見覚えはないのか?」

 オレは大袋から、くだんの『名前付き』のしっぽを道に放り出した。まぁ実際は、あの剣がなければ、勝てる見込みはほぼなかったんだがな。

「なっ! なんだとぉっ? そのトゲのついたしっぽは!」

「報奨金を受け取って来たところだよ。この街に腰を下ろすつもりだったが残念だよ」

 オレは、大袋にしっぽを戻して立ち上がり、背を向けたが襲ってくる気配はなかった。




「恐れ入ります。少々お待ちいただけますでしょうか。わたしどもの主人が、あなた様に面会を希望しております」

 執事然とした男性が、オレたちの前に現れて頭を下げた。

「ふむ……荷物を下ろして来てからでもいいかな? ごらんの通り同行者もいるのだが」

「ちょっ! あの方はこの街の」

 予想していたよりも大物の執事だったようで、彼女がオレの後ろで困惑していた。

「もちろん、かまいませんとも。お越しをお待ちしております」

 執事を見れば、主人の程度が分かると言う。オレはこの誘いに乗る事を決めていた。


どのような反応があるかによって方向性も違ってきますので、

皆様の感想をお待ちしております。

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