第二十一話 インターミッション Aパート
第四次スパ○ボの出撃準備の音楽とかが脳内で鳴り響いていますw
「館の中の物には、何も手をつけていませんので、接収をお願いします」
オレは、派遣されてきた役人の代表者にあいさつをして、館を退去した。
「レックス殿……すまないが、すぐ近くの空き屋を借りているので、そちらまで、ご同行願えるか?」
まだ、通知書とやらを受け取っていないので、とりあえず場所を移す事にした。
「ええ、それはもちろん……」
レックス殿は少し暗い表情で、オレのあとをついて来た。
「その表情を見るに、レックス殿は、どういう内容か知っているようだな……」
アデールやイレーネ。そしてエミルが見つめる中、オレはレックス殿に問いかけた。
「ええ。このような苛烈(かれつ)な物になろうとは」
率先して、教会との連絡係を買って出ただけに、胸を痛めているのだろう。
「オレが任務を放棄する形になってから、二百年以上たっているからな。今になって許してもらおうって言うのは、簡単じゃないとは思っていたさ」
むしろ、破門されていないのが不思議なぐらいだな。
「それでは、通知書を読み上げさせていただきます……『聖騎士、クラウス・ケインの復帰の条件として、三か月以内に、ランドルフ街道に居座る、古代竜を倒す事を条件とする』だそうです――」
レックス殿は、教会の虹のように光る印章が押された通知書を、読み終えてからオレに手渡した。
「そんな……古代竜を倒せだなんて、ムチャにもほどがあるわよ」
アデールは気色ばんで立ち上がる。
「そうです……古代竜に倒されると、『復活』は不可能で、即転生をしないといけないのですよ? ご主君!」
古代竜とは、いにしえの時代から生き続けている最強の竜であり、世界に五匹存在し、かつてこの世界に魔物が満ちる前から、存在していたという。
何を隠そう、オレの祖先である聖戦士、ニコラス・ケインも、戦友とともに古代竜を倒した事で、英雄と呼ばれるようになったのだと、伝えられている。
ちなみに聖戦士とは、神官としての能力を持ったまま、聖騎士になった存在の呼称である。
「三か月か……。一度きりしか挑戦ができないなら、ギリギリまで準備をするとしても、短いな」
「ご主君! なにも、そんな苦しい思いをせずとも、ここの領主として暮らせばよいではありませんか!」
「そうよ……事実上、死にに行くようなもんじゃないのよ。こんなところで死なれたら、大損よ」
いや、アデール。おまえはオレからどれだけ搾り取るつもりだったんだ?
「いくらアニキが強くても、古代竜は強すぎるっスよ……もっと、アニキと一緒に修行がしたいっスよ」
エミルも必死になって、オレを説得しようとしていた。
「この通達書を無視したら、聖騎士の称号ははく奪されるし、それだけではすまないかもな」
「実際、勝てる見込みはどれぐらいあると思っているのよ」
「いますぐに向かうのなら、限りなくゼロに近いな」
「そんな、ならばなおさらの事、やめた方が」
「アニキと別れるのはイヤっスよぉー」
みな、口々に思いとどまらせようとしてくれた。
「いくらなんでも勝算がゼロの状態でどうこうはしないが……このまま破門されてしまっても、今後冒険者を続ける事は困難になるんだよな……」
「聖剣を大量に作るつもり? けど、そもそも剣で戦う間合いにまで、持ち込む事ができるの?」
「竜は火の吐息を吐くと聞いておりますから……拙者の弓で遠距離から削ろうにも、飛ばれてしまってはそれまでですので」
ランドルフ街道の古代竜は、小高い丘にある古城をねぐらにしているとか……。
「まぁ、それについては二か月かけて考えるとするさ。レックス殿、わざわざすまなかったな」
「いえ……。ケラエノを通るさいは、お声をかけてください……。それでは、失礼します」
「ああ……じゃあ送って来るから」
オレは仲間と別れて、レックス殿の部下が待っている、領主の館へと足を進めた。
「せ、拙者が……ここの領主になるのですか?」
数日後、正式な書類を手にした役人が来たので、オレはイレーネを領主の館に呼び出した。
「ああ……オレは、教会とのからみがあるし、いま領主になったりしたら、問題だからな」
「前回、クラウス殿からそう聞き及んでおりましたので、書類も、イレーネ殿の名前で用意しておりますので。サインを頂けましたら、領主会議までは仮の領主という事になります」
「拙者のような人間に、領主が勤まるものでしょうか……それに、拙者にはご主君がいるわけですし」
イレーネは突然の事に、驚いているようだった。
「別にいいじゃないのよ。わたしだって領主なんだし。けど、あれよね……クラウスって『ヒモ』みたいよね」
事後ではあったがアデールには言っておいたので、奥から出て来てイレーネをなだめてくれた。
「その手続きが終わったら、役人さんも帰られるんだから、あまりゴネずに、サインしてやれよ」
「本当に……よろしいのでしょうか」
「イレーネが領主になるのなら、『二世の契り』を結んでやってもいいんだがな」
無論、この事はアデールにも了承させている。
「そういう事でしたら、是が非でもお願いしまする」
イレーネはさっとペンを取って、すらすらとサインをした。
「これが財産目録になります。それでは、失礼します……」
役人さんはイレーネに丁重に頭を下げて、書類を手渡して退出していった。
「財産目録か。多少は残してくれると公爵が言っていたが、どうなんだ? イレーネ」
「この領地内の徴税権。温泉の入湯税。家産として金貨三千枚。この館の家具や調度類。あと、セラエノの一番街にある別宅……だそうです。ご主君」
「というわけで、今日からイレーネがここの女主人だ。泊まらせてもらってもいいかな?」
「ええ……喜んで! ご主君」
二世の契りの件もあるので、今日はアデールは遠慮してくれる事だろう……。
「本人も望んでいますので……オレたちの旅に連れて行きたいとは思っていますが、『名前付き』とは戦わせない事を条件にしたいと思います」
「うむ……。それなら、あの子の兄にも申し訳が立つな」
翌日、オレは塔院を訪ねて、エミルの正式な加入についての、話し合いをしていた。
「現在のパーティーでは敵に肉薄された時の火力が足りないので、基本的には後衛の護衛役。時にはアタッカーとして、経験を積んでもらいたいと思っています」
「あの子をいつまでも縛り続ける事はできんとは思っておった……。クラウス殿になら、安心してお任せできる。こちらからもお願いもうす――」
「ケサナ渓谷の領主にはイレーネがなりましたし、拠点のひとつにするつもりなので、できるだけ顔を出させるつもりです」
「そうしていただけると、ありがたい……」
「というわけで、エミル。おまえさんの加入は、条件付きで認めてもらえたぞ」
「条件って何なんすか? アニキ……」
「それは……『名前付き』とは戦わないというのが条件だ。これを破ると破門になり、兄とも会えなくなるぞ?」
実際はそのような事はないのだが、エミルのはやる心にくぎを刺しておく事にした。
「わ、わかったっス。これから、よろしくお願いするっス!」
不在の兄とオレを重ねて見ているのか、エミルはとてもいい表情で言ってくれた。
「さぁて、次は何を買い付けに行こうかしらね」
翌日、オレたちは一度セラエノの店に戻るべく、ケサナ渓谷をあとにした。積んでいた生鮮食料品は、食糧難に陥っていた村人たちに分配したので、新領主は好意的に受け入れられたようだ。
「やはり延べ棒のままでは、アドニールで売るのも、無理があると思うか?」
「そうねぇ……銀貨一千枚で仮に卸したとしても、上乗せは二百枚ぐらいだろうし、請けてくれる商会があるかも分からないし、それなら聖剣を量産する方がマシじゃない?」
「ふむ……。半分ぐらいを、『聖騎士の鍛えたる剣』扱いにして、オレの鍛冶師としての能力を上げるとともに、収入源にするしかないだろうな」
聖剣をバラまいたところで、好事家の蔵の中にしまわれるだけだろうしな。
「聖剣を教会に奉納すれば、多少は条件が緩和されるかもしれないしな」
「それもそうね……聖騎士じゃなくなったら、聖剣を作れなくなるとしたら、向こうとしても大損よね?」
「どちらにせよ、鍛冶師と聖剣作成のスキルは伸ばしておいて、損はないという事だ」
「ねぇ……。聖剣って、古代竜にたいしての効き目ってあるのかしら?」
「そもそも聖剣は、古代竜を倒すために作られた剣と、その流派だからな。効き目は少なからずあると思うし、スキルの上乗せもあるからな」
「なら、なおさら聖剣を作るしかないじゃない。公爵のところに顔を出したら、カデストまで仕入れに戻りましょうよ」
アデールも、オレの聖騎士残留への思いをくんでくれたようだ。
「いきなり、拘置所に大勢放り込まれて来たから、係員は驚いたそうだよ。何にせよ、うまくやってくれたようだな」
翌日、オレたちはセラエノの街に戻り、公爵のところに顔を出していた。
「役人の代表の方にも言いましたが、ケサナ渓谷の領主はイレーネという事にしました。アデール同様に、後見人になってくださいますでしょうか?」
「それはもちろんだよ。領主会議での承認についても、全力で推させてもらうよ」
「有り難きお言葉……拙者も、これから一層の努力を続けますゆえ、何とぞよろしくお願い申す」
イレーネは感極まった表情で、公爵に頭を下げていた。
「どうっすか? うまくいったっすか?」
緊張すると言うので、表で待っていたエミルが、オレたちの顔を見て、駆け寄って来た。
「ああ……イレーネの後見人になってくれるそうだ。じゃあ、店に行くか」
「そうね……って、エミルの寝床を用意しないといけないじゃないのよ。家具店に寄って注文していきましょ?」
「そうだな。それぐらいの広さは確保できるだろう」
「あの……拙者は一番街に別宅をもらったので、見ておきたいのですが」
「一番街という事はこの近くか……見ておくか」
オレたちは、新たな冒険のための準備を始めた。
今後の目標が定まり(かなり無謀ですが)
そのための準備をする期間となります。
この章では、戦闘は少なめで、商売や、
鍛冶師の話題が多くなると思います。




