第十九話 リクルーティング Bパート
余分な行程はばっさりカットしてますが、
どこで何をしているのか分かりづらいようでしたら、
多少描写を足すべきかなとも考えています。
「待て待て……誰と勘違いをしているかは知らないが、オレたちは敵じゃない!」
「黙れ! 悪党はいつもそうやって、ごまかそうとするんだ!」
少年は新たな拳法の型を見せて、オレたちを威嚇し続ける……。特殊な魔術を伝える塔院のはずが、拳法を伝える僧院と、間違えてしまったのだろうか。
「そもそも、人間を相手に攻撃など、できないはずだろう?」
オレが騎士のクリスタルを出して、相手の悪行を認識させれば、話は別ではあるが……。
「ふっ……その山門を一歩でも踏み越えたのが、貴様の落ち度よ! 鍛錬モードに変更したから、性根を正すまで、何度でもこらしめてやるぅっ!」
「うぉぉっ……っと……あぶねえ!」
少年はオレですら目で追い切れない速度で駆け寄り、オレの脇腹に強烈なけりを放ったが、盾で防ぐ事ができた。
「ちょこざいなっ! 盾で、我が蹴撃(しゅうげき)を防ごうなどとは、笑止千万、億千万!」
「いや、防げたじゃないか……オレは剣も抜いていないんだぞ? 落ち着いて話を聞くんだ」
「もはや問答無用! 我が流派に伝わる秘拳を見せてやろうぞ……もし、これを受けて立っていられたなら、話とやらを聞いてやってもいいぞ……」
少年はオレのすきをうかがっているのか、姿勢を変えるたびに、拳法の型を変更していた。その型のどれひとつとっても、撃ち込むすきを見いだす事ができず、まだ年若いのに相当の手だれなのだと、わかった。
「いいだろう。その、秘拳とやらを受けてやる!」
アデールとイレーネは、山門の外にいるようで、わざわざ踏みいるつもりもないようだ。
「ほっほう……貴様、悪党にしては存外やるようだが……ふんっ!」
少年が気合いを入れると、全身から闘気のようなものを噴出させ、流れるような型で、両手と両足にまとわせていくのを、薄暮の中で見て取る事ができた。
「せいやぁっ! はっ……はっ……てやぁっ!}
「うぉっ……くっ……はっ……せやぁっ!」
助走もつけずに少年は飛びかかり、強烈なけりを繰り出したので、オレはそれをパリィする事ができたが、着地したと同時に、両手による攻撃が息をつかずに押し寄せて来た。
「くっ……こんなに長く……攻撃を続けられるとは……うぉっ!」
ほぼ無呼吸としか思えない速度での攻撃を、オレは必死で受けつづけて来たが、盾が耐久度をなくして散じてしまい、大きなすきを作ってしまった。
「やっと壊れたか……ならば、生身で我が奥義を受ける覚悟せよ! ふんぬぅー……}
少年はこれまでで最大の気合いを込めたこぶしを中段に構え、いままさに、オレに放とうとしていた。
「これ、エミル! 何をしておるのだ!」
盾なしでどう防ぐか迷っていると、階段の向こうから、老師らしき人物が駆け下りて来て、少年を制止してくれた。
「たぁりゃぁっ!」
だが、集中のあまり聞こえていないのか、少年は全身をばねのように伸ばして、気をまとわせた右手をオレのあご先へと、触れさせようとしていた。
「くっ……ふんっ!」
「なっ……うわぁぁっ?」
オレは、迫り来る右手を左手で払うと同時に手首をつかみ、右手のひじを少年のみぞおちに打ち上げて、そのままの勢いで後ろに、投げ捨てた。
「ぬぅ……お見事――。いずれの流派の方ですかな?」
「修行時代に、相手を傷つけないように無力化する技を多少学んだのみ……。おい、大丈夫か?」
オレは老師らしき人物の問いに答えてから、みぞおちを押さえて苦しんでいる少年に駆け寄った。
「体力はそれほど減ってないみたいだけど……」
もう安全になったのを確認して、アデールが山門をくぐり、少年に回復の魔法を飛ばした。
「ご主君……子ども相手に、大人げないのでは?」
「当て身投げが、こうもうまく決まるとは、オレも思っていなかったし、恐るべき技の持ち主だったよ」
「けふっ……ぐぅっ……いてぇ……」
「気がついたみたいね……大丈夫?」
アデールは少年を介抱してやっていた。
「大変失礼した。オレは、セラエノ公爵から、ケサナ渓谷の元領主と、その取り巻きを排除するように依頼された者だ」
オレは、騎士の証でもある銀の鎖つきのクリスタルを、老師に見せて、頭を下げた。
「いえ、こちらこそ……。腕は立つのだが精神面が、見てのとおりの未熟者で、ご迷惑をおかけいたした」
老師は恐縮しきった顔で、頭を下げてくれた。
「狭いところですが、どうか、おくつろぎくだされ」
オレたちは、塔の中ではもっとも広い部屋へと通された。
「ふむ……屋上に出れば、イレーネがかなりの範囲を監視する事もできるな」
「そうですね。ですが、魔物が攻め寄せでもしない限りは、長弓の出番はないのでは? ご主君」
「男女が同室だけど、これぐらい広ければ快適そうね」
イレーネへの対抗心というわけでもないだろうが、最近アデールの態度が変化して来たように思える。
「せっかくお越しいただいたのですが、悪党どもに妨害されているので、買い出しもままならず、漬け物のようなものしか……」
「そういう事もあろうかと思って、馬車に大量の生鮮食料品を積んで来ているから、好きなように使ってちょうだい」
「おお、それはありがたい。さっそく料理にとりかかりまする」
「へぇぇ……こういう料理法もあるんだ。なかなかオツな味わいよねぇ……」
「まことに。大根がこれほど甘くて美味なる物とは、拙者も知りませんでした……」
「そう言っていただけるとありがたいですな……」
オレたちは、老師が作った野菜を使った料理に、舌鼓を打っていた。
「そういえば、先ほどの少年……エミルとやらの姿が見えないが、まだ具合でも悪いのか?」
「いえいえ……まき割りなどの作業を、済ませていなかったので、命じておいたのですよ」
「ふむ……見たところ、老師と先ほどの少年しか見かけないようだが、ほかの弟子はどうされたのだ?」
「もともと、多く弟子を取るわけでもありませんで、あれの兄が、後継者になるべく、全国を回って修行中なのです。もう五年にもなりますか……。単にあずかるだけのつもりが、いまではいっぱしの、魔法拳士になりました」
「接近戦に特化した魔術を利用した、拳士を養成していたのか……たしかに特殊だな」
「左様で……ケサナ渓谷への案内は、エミルに任せますゆえ、至らぬ点がありましたら、ご教示してやってくだされ」
「ああ……。鼻っ柱を折られた事で、オレにどう反応するかが楽しみだな」
オレは、今ごろまきを割っているだろう、エミル少年の事を思って笑みを浮かべた。
「風呂はこっちか……」
風呂の準備が整ったと聞いたとたんに、女二人が飛んでいき、長風呂のあげくに戻って来たので、オレが風呂に行くころには、夜空に大量の星がまたたいていた。
「追い炊きしないといけないから、入るなら早くしてくれよな」
風呂場らしき場所に行くと、エミルが両手にまきを持って、すねたような表情で声をかけて来た。
「ああ……そうさせてもらうよ」
オレは、風呂場に入って服を脱ぎ捨てた。
「うん……。いい湯加減じゃないか。さっきは女どもが騒がしかっただろう」
「…………」
「どうした……そこにいるんだろう?」
まきを割る音は響いているので、いないはずはないんだが。
「おまえには拳技も蹴撃も、全然通用しなかった……。オレの技は、そんなに未熟なのか?」
「いや。正直に言ってひやりとしたよ。だが、技は見事でも、実戦で磨かれていないのか、殺気は感じなかったな」
オレのその言葉にまきを割る音がやみ、声をかけてくれた。
「やはりそうか……。おれの兄上も実戦での勘をやしなうために、あちこちで魔物と戦っているらしい……。やはり、訓練だけでは、達せない境地があるんだろうな」
「ちょっと南に下れば、魔物が出て来そうな領域になると思うが、禁じられているんだな?」
「ああ……生半可な技で魔物に挑んではいけないと言われてる。けど、兄上ですら習得が間に合わなかった奥義をおれは身につけた。それでも、まだ許されていないんだ」
ふたたび、一定間隔ごとにまきを割る音が響きはじめた。
「ふむ……明日からケサナ渓谷に、悪党を排除しに行くんだが……相手の悪行を記録したら、無力化させる許可が下りる。おまえも、案内だけではなく参加してみるか?」
「そっ……それは、ボクも望むところだよっ!」
興奮したのか、少しかわいらしい声で少年は叫んだ。
「ただし、オレの指示には完全に従ってもらわないといけないが、約束できるか?」
「約束するっ! だから、ボクも連れていってくれよ!」
エミルは立ち上がり、木枠ごしにオレと目があった。
「いいだろう……。ところで、まだ名乗っていなかったな。オレは、クラウスだ。よろしくな」
「ボクは、エミル……エミル、ハート……って、立つなぁ」
「なんなんだ……別に男同士だから、問題なかろう」
オレが立ち上がって、握手を求めようとすると、エミルは足早に逃げ去っていった。
「ふわぁぁ……朝一で行かなくてもいいとは思うんだけどね」
「それじゃあ、今日はよろしく頼むぞ……エミル」
荷馬車は預けていく事にして、オレたちは装備を調えて、山門を下りていった。
「来た道を戻れば、渓谷にいけますよね? ご主君……」
「こっちだよ……入り口は一か所しかないから、そこを守っていればじゅうぶんだと思ってるけど、実は抜け道があるんだ」
エミルは、山の奥の方へと続く小道を指さした。
たしかに、三方向が山に囲まれていては、待ち受けている場所から進むしかない。道案内とはそういう意味だったのだろう。
「あまり無理はするなよ? エミル」
「うん! わかってるよ、アニキ!」
いまにも駆け出しそうな風情のエミルに声をかけると、笑顔で答えてくれたのはいいが、なぜにアニキ?
「あの奥義は、老師ですらよけるのが精いっぱいなのに、反撃までされるってすごすぎるよ。だからアニキだよ」
「あら、そんなに仲が良くなってたの?」
「拳と拳を合わせたもの同士の友情でしょうか?」
二人は面白げに、エミルとオレを見つめていた。
いろいろとフラグが見え隠れしてますね(笑)
それにしてもクラウス強すぎです。
きっと気迫とともに烈風○や疾風○を放てるのでしょう。
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御笠:「空と海のコンダクターから、出張で宣伝をしに来ました~」
早坂:「帳簿は、コンダクターの露払いだったのに立場が逆転っス」
御笠:「こっちは、泣きたくなるぐらいしかアクセスがないのよね」
早坂:「ミリタリーが苦手な方でも怖がらずに読んでくださいっス」




