第十七話 デベロップメント Gパート
ようやくGパートで第三章も終わります。
「それでは皆さん……左手の舞台をご注目ください!」
司会の男の言葉に、オレはびくりと体を震わせてしまう。目の前では幕が静かに上がりつつあった。
「うわさを聞きつけて、この商品のためだけに参加した人もいる事でしょう……そう。好事家ならずとも、のどから手が出るほど欲しい逸品です――」
幕が上がりきり、三本の黄金のハチミツ酒のボトルが、スポットライトで浮かび上がると、客たちは大きな歓声を上げていた。
「いにしえより、禁止されてはいましたが、いまもその製法を伝えるという、黄金のハチミツ酒の登場です! 今回は、三本の提供となりますが、最高値を出した方が、残りのすべてを買い取る権利を持ちます!」
「このメイドは、この男に交際を迫られたものの、田舎に婚約者がいると断った、身持ちの堅い乙女です。こうして、皆様の前で黄金のハチミツ酒の効果を確認していただくには、うってつけです!」
どうやらそういう設定にされているようだが、文句を言う事などできない。オレは客の中にアデールがいないか探したが、みな一様に顔を隠しているので、判別できずにいた。
「現在はこのメイドにガードがかかっていますので、服を脱がす事もできません」
服を脱がすようにジェスチャーで命令されたので、オレは心の中で謝りながら、イレーネのスカートをまくり上げようとした。
「うぉっ!」
ガードが反応し、オレは軽い電撃を浴びてしまい、尻もちをついてしまう。
「見ての通り、このありさまでございます。どうしても納得がいかないという方がおられましたら、試してみてもよろしいですが……おられませんね」
「それでは、この黄金のハチミツ酒を、この乙女に飲んでいただきましょう」
司会の男が指を鳴らすと、開栓された瓶とワイングラスが運ばれて来た。
「ここまで来たら観念しろ! オレの物になるんだ――」
オレは、ワイングラスをイレーネの口元まで持っていった。
「んっ……んんーっ!」
グラスを唇に押しつけるが、イレーネは口を開かない。どうやら、時間稼ぎをしろという、オレの指示に従っているようだ。
「メイドには未通の乙女しか置かない。とうわさの某家から、移籍したばかりですので、ご期待に添えるかと」
司会の男はさらに客席の興奮をかきたてようとしていた。
「ちっ……おまえが悪いんだからな――」
このままでは、別の人間に乱暴なまねをされかねないので、オレはワイングラスに口をつけ、黄金のハチミツ酒を口にふくんだ。
「んっ……んんーっ……んくっ……んぅ……」
オレは、イレーネの鼻をつまんで口を開けさせ、唇を重ねて口中のハチミツ酒を流し込んでいった。
「おおっとー……。これは、盛り上がってしまいますねー。この黄金のハチミツ酒があったら、一度断られた相手でも、たちどころに反応が変わる事でしょう」
「くっ……まだなのか……まだ、おまえはオレの気持ちをっ!」
「んー……いやぁっ……んぁっ……んっ……んくっ……」
まだガードを解かないように目配せした事もあり、イレーネは抵抗を続けたので、オレは二口目を口にして、再び流し込んだ。
「けほっ……んっ……ふぇぇっ……」
防衛反応が働いたのか、イレーネは口中からわずかにはき戻してしまう。
「なんでだ……そんなにおれが嫌いなのか? えぇっ!」
オレはイレーネの胸に手をやろうとしたが、再び電撃を食らってしまう。
「おまえがその気になるまで……何度でも……けふっ!」
オレはボトルを手に、直接口に流し込んだが、あまりの刺激にむせてしまい、かなりの量を飲み込んでしまう」
「おいおい……あんたのガードを外したところで、仕方ないだろうがよぉっ!」
客席からはヤジが飛んでいるが、少しでも時間を稼ぐ事により、イレーネを守ろうとしていた。
「うぅっ……からだが熱くなって来た……。なんだこの衝動は!」
オレは、半ば衝動のままに、イレーネを抱き寄せて、再び口移しでハチミツ酒を飲ませていった。
|(特殊部隊はまだなのか……いくら耐性をつけているとはいえ、限界があるだろうに)
「んうっ……はぁ……やぁっ……な、なにぃっ……これぇ……」
ついにイレーネにも薬効が現れたのか、上気してしまい、荒い吐息を漏らすようになってしまう。
「こんなの……ダメなのに……うぅ……誰か……助けてぇ」
気のせいか、イレーネは太ももをもぞもぞとこすり合わせているように見えた。
「おおっとー! 効いてますね、これはー……。やはり、瓶の半分ぐらいは飲ませないといけないんでしょうか」
「おいおい……まだガードが外れないのかよ! 相当身持ちの堅い女だな!」
「やぁっ……そ、それを飲ませないでぇっ……おかしくなっちゃうからぁ」
イレーネもメイドとしての教育をうけたせいか、それっぽい言葉遣いをする事ができていた。ここで拙者だの言われては、興ざめもいいところだ。
「いいから、おれを受け入れろよぉっ! ほらぁっ!」
「んぅっ……ふぁっ……やっ……やぁよぉ……」
ふたたび鼻をつまんで口移しで飲ませると、イレーネは全身をがくがくと震わせはじめた。
「そこだっ! もう一押し! ロックが外れたか、試してみろよ!」
観客席からはさまざまなヤジが飛んでいて、この闇競売の質の悪さを物語っていた。
「やっ……何をするのぉっ……やぁぁっ……」
ガードがゆるくなっているのか、スカートをひざの上までめくり上げても、まだ電撃は来なかった。
「おれの物にしてやるから……観念するんだ!」
「いやっ……いやぁぁ……やめてぇっ……だれかぁ……」
オレは、再び『符号』を口にして、半ば強引にイレーネを押し倒した。
「そんなぁっ……あぁっ……うそでしょぉ……」
偶然か意図してか、イレーネのガードが解除されてしまい、淡い光を放ってメイド服がストレージに格納されてしまった。
「おおっとー! ついにロックが外れた模様です!」
「いまだー! やれ! ビビってんじゃねえぞぉ!」
「全員、そこを動くな! すでに包囲しているぞ!」
観客全員が総立ち状態で興奮していると、二つの出入り口から、特殊な電撃が流れるワンドを手にした特殊部隊が突入し、無力化させる光の魔法をさく裂させた。
「はぁ……どうにか、間に合ったようだな……」
「んぅ……あぁ……おねがいですからぁ……ふぅぅっ……」
オレは、閃光(せんこう)からイレーネを守るべく、押し倒したままだったが、オレの腕の下で悩ましげな声を上げていた。
「合い言葉は『サンダー』よ。上の二人は協力者だから――」
客の中にいたらしいアデールが、舞台の上に上がって来た。
「遅いぞ! もっと早く突入するもんだと……」
「そんな格好で言われても……。って、大丈夫なの?」
「ふぅぅっ……あっ……だっ……大丈夫じゃ……ないですぅ」
イレーネは顔を真っ赤にして、下半身を手でおさえて、体を二度三度と震わせてしまっていた。
どうやらガードを外すだけではなく、催淫剤としての効能もあったようだ。
「いくらなんでも飲ませすぎたんじゃないの? 宿屋に早く連れていってあげなさい! わたしはまだ、ここの後始末があるから!」
「お、おう……イレーネ! 服を元に戻すんだ……できるだろ?」
「は……はいぃ……クラウスしゃん……ふぅぅっ……」
イレーネは何度か試行して、どうにかメイド服を装着させていた。
「どうする? はいた方がいいのなら、手伝うが……」
「もう……無理です……はいたところで、この効能は消えそうにありません……ご主君さまぁ……」
オレとイレーネは、闇夜に紛れる形で、前金を払っていた、宿屋に帰り着く事ができたのだが……。
「魔術師を探してくれば、解除できるかな……。州警の特殊部隊員に、能力者がいないか聞いて来ようと思うんだが……」
「だっ……ダメです……。拙者はもう……。このままではっ……ふぅっ……ご主君さまぁ……殺生ですから、どうか……」
「お、おい……なぜ服を脱ぐ……やめろっ……すがりつくな」
オレも黄金のハチミツ酒を大量に飲んでいるため、ガードはとっくに外れており、半裸になったイレーネにのしかかられても、それをはねのける事もできなかった。
「ご主君さまになら……はぁぁ……喜んで……わたしの操をっ……差し上げまするぅー……」
「んっ――。くっ……やっ……やめるんだ……イレーネっ――」
オレは唇を奪われ、先刻の舞台とは攻守を逆にした形で、熱い戦いが始まろうとしていた。
|(アデールだけでも、あんなに大変なのに……これ以上は……)
「あはぁ……拙者の、体でも……喜んでくださってるんですねぇ」
オレはイレーネのその言葉のあとに、すべての理性を失った。
「うぉぉ……頭が痛い……。な、なんなんだ……」
どれぐらいの時がすぎてしまったのか、オレは陽光の降り注ぐ下、ベッドで身じろぎをして頭を抱えた。
開けっ放しだった窓の木枠にはスズメが舞い降りて、さえずっているようだ。
「ご主君さまぁ……」
半ば覚悟していたとはいえ、オレの隣ではイレーネが双丘を露出させたまま、オレの腕にすがりつくようにして眠っていた。
「やっちまった……んだろうなぁ」
自分自身も相当興奮していたので、あまり覚えてはいないんだが、背中に残るつめあとが痛むのが証拠だろう。
「悪業値が急上昇しているんじゃなかろうな……」
オレは自分のステータス画面を調べたが、悪業値は増えてはいなかったのだが、妙なタグが点滅しているのに気づいた。
「で、いたしちゃったワケだ……どう責任とんのよ?」
「いや、まことに……申し訳のしようもないんだが……」
「クラウス殿は悪くないんです……拙者が請い願ったゆえ」
薬の効果が完全に抜けるまで、さらに一日を要してしまい、すべてを察したアデールと話し合いをしていた。
「何か勘違いしてるみたいだけど、別にわたしはクラウスの恋人ってワケじゃないんだからね? ただイレーネの事を、どう責任取るのよって言ってるの」
アデールは少しほおを染めて、なぜかムキになって怒っていた。
「妊娠する心配はないので、拙者としては……。今後もご主君を、お慕い続けるだけなのですが……」
正直言って、その言葉は重すぎる。金銭的に絞り続けようとする、アデールより重い関係を強いられそうだ。
「何か条件でもつけなさいよ! そんな事じゃあ、こいつにつけあがられるだけよ?」
「条件……ですか。その、どのようなお願いなら、許されるのか分かりかねますが……」
「許してもらえるのなら……その、結婚とか以外なら何でも……」
この重圧から逃れられるのなら、『名前付き』とタイマン張ってもいいぐらいだ。
「よろしいのですか? では……『愛人盟約』を、お願いいたしまする……」
「なっ……『愛人盟約』だと? それって、たしか……」
『愛人盟約』とは、その……週に一度の関係を義務づける盟約であり、収入の三割が自動的に送付されるという仕組みだった。
「ひえー。強制的に三割とは、半端ないけど、いいの? こんな男でさ……」
「わたしの故郷では……操をささげた相手には、一生ご奉仕するような風習がありますので」
イレーネはオレをちらりと見て、ほおを染め上げた。いや、それ重いどころの話じゃないって。
「ふーん……それなら、歩合の方はいずれ一割に落として、新たに人員を増やしたいところね」
「増やしすぎても意味はないが、三人ではたしかにな。接近戦時の火力不足を補いたいところだな」
遠距離を攻撃するような魔術師は、イレーネと立ち位置的に同じになってしまうし、ヒーラーもタンクも足りているのなら、アタッカーを欲するのも当然だろう。
「じゃあ、その『愛人盟約』だけど、徴収に便利だから、わたしも結んでおくけど、いいわよね? イレーネ」
「ええ。アデール殿は、拙者が敬服する女性ですし、光栄です」
オレはあっという間に、収入の六割を吸い取られてしまうマシンと化していた。
「ふむ……なにやら、関係に変化があったようだが、さておくとして。こたびの件、まことに感謝している」
数日後、セラエノ公爵家の私邸を訪ねて、応接室に通されると、入ってきた公爵がオレたちの様子を見て、興味深そうに笑みを浮かべた。
「そう言っていただけると何よりですわ」
「ご主君さまなら、これくらい軽くこなせますゆえ」
アデールとイレーネはオレの左右に密着して座っていたのだ……。オレのステータスに新たに追加されたタグとは……『三角関係』であったのだ。
ふたりの関係は良好なようだが、これからオレはどうなってしまうのか。考えるだに頭が痛かった。
えっと、朝チュン警報です(遅いって)
これにて第三章は終了ですが、
このまま本編としての第四章にいくか、
インターミッション的な外伝にするか、
絶賛悩み中であります。
ツイッターでぽろっとバラしましたが、
新キャラも第四章で出て来る予定です。
これ、タグにそろそろ『ハーレム』的なのを追加した方がいいかもですね。




