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第十六話 デベロップメント Fパート

今日からは一日一本の公開になると思います。


「で、シールははがせたのか? あんなに厳重じゃ、さぞかし苦労したろうな……」

「そりゃあもう。でないと、これはもらえないって寸法ですし」

 セルゲイと名乗った商人は、懐から大事そうに一枚の証書を取り出した。

「さっそく試してみたのかねぇ……。効くようなら、一本もらっておきたいところだが

「おやおや? あの、ねえさんとは、そういう関係だと思っていましたがね?」

「いつまでも、あんなに気が強いやつの相手なんかできるか……」

「まぁ、美女は男を削るなんとやらと申しますし。一本開けて検査したそうですが、上物だそうですぜ」

「ほう……その分の料金をくれというのも無粋すぎるな」

「そりゃあ、そうですぜ。こっちから扱ってくれって頼むんですからねぇ……」

 オレもだてに長い間ひとつのキャラで過ごしてきたワケじゃない。この男の言葉にはうそは感じられない。だが、この男が泳がされている可能性もあるわけだ。



「じゃあ、次に会うのはあさっての夜か?」

「そうですね。午後七時にこの店で落ち合いましょうや」

「言っておくが、抜け駆けなんて考えるなよ? オレはともかく、あの女は執念深いからな」

「そんなぁ……割り符も預けてるじゃないですかぁ」

「そうだったな。あの女に出し抜かれる心配をした方が、いいのかもしれんな」

「そこはそれ、この預かり証がないと、代金はいただけませんからね?」

「で、手数料はどれぐらい取られるんだ?」

「物納って事にしてもらいましたよ。例の検査で開封したのも含めて、四本差し出す代わりに、残りの十六本の売り上げは、そのままもらえるんでさぁ」

「二割や三割の手数料は覚悟していたから、そんなところなんだろうな……」

 四本というクリティカルな数字に、内心ではヒヤっとしたのだが、何とか表情には出さずにすんだ。

「そんじゃ、あっしはこれで」

「ああ……。じゃあな」

 セルゲイが去っていったあと、オレは果実酒の残りを、心ゆくまで楽しんだ。



「うぃー……酔いすぎちまったかな」

 オレは千鳥足で、酒場から宿屋に帰ろうとしていた。

「よう、そこな兄さん。いい店があるんだが、紹介しようか?」

 半ば予測していたとはいえ、裏社会からの接触だと、オレは感じ取る事ができた。

「いい店なら紹介してもらいたいが、なにせ手元が不如意でな……。今度にしてくれや」

「そうですかい? 兄さん。なら、場所だけでも教えておきたいんですがねぇ」

 客引きの男は懐から一本の『ワンド』を取り出した。ワンドとは小型の杖に、誰でも使える魔法がチャージされている物をさす。

「なっ……攻撃魔法は使えないはずだぞ!」

「そんな無粋な物じゃありませんや……。そらぁっ!」

 裏社会からの回し者は、オレにワンドを使用した。抵抗する事も可能だが、オレは甘んじて受ける事にした。




「こっ、ここはどこだぁっ?」

 いすに座らされて、目隠しを外されたオレは、意図的にビビってみせた。

「落ち着きなよ。別に命まで取ろうって事じゃねえ」

 かなりの幹部らしく、仮面で顔を隠した男がオレの前に立ちはだかった。

「オレに何の用だ……。闇競売の件か? アレはもう、持っちゃいないぞ」

「そうだともよ……。魔術師が気づいたからいいが、ほとんどが偽物ったぁどういうこった!」

「なに、偽物だと? そんなワケはねぇ! オレたちは州の保管庫から盗み出したんだぞ?」

「保管庫に、わざわざ色合いまで似せたハチミツ酒と混ぜて、入れてあっただなんて、ありえるか!」

 仮面の男はかなり腹を立てているようだった。

「な、なら……ケラエノの前子爵がすり替えたってのか? あんの野郎っ!」

 オレはとっさに、罪を前子爵になすりつける事にしたが、信じてもらえるかどうかは怪しいもんだ。

「おまえさんが、いまだにノコノコと街を歩いているぐらいだから、その可能性も捨てきれんがな……」

 仮面の穴ごしにのぞいた男の瞳は、薄明かりでも分かるほどに、ギラついて見えた。

「ヤツなら魔術師やら暗殺者やら、怪しい人間を一杯抱えていたってうわさもあるし、間違いねえ!」

「ふむ。内偵かとも思ったんだが、州警を探らせても、何の動きもねえようだし……」

 どうやら州警には内通者がいるようだが、特殊部隊にはいないように願う事しかできない。

「だとしてもだ! 本物の分の代金は、ちゃんともらえるんだろうなぁっ……オレの全財産なんだぞ!」

「必死だなぁ……。一本分なら払ってやってもいいが……客の前で、実験台になってもらうぜ?」

「お、オレのガードなんか外して、どうしようってんだ?」

「アホか。てめえじゃなくて、薬を飲ませた女を抱かせてやろうってんだ。感謝するんだな」

「待ってくれ! そんな事をしたら……オレが州警に訴えられるんじゃないのか?」

「そこまでは責任持てんさ……。まぁ、仮面ぐらいならかぶらせてやってもいいがな」

「ほら、しっかりと立つんだ……それが終わったら解放してやるってよ……」

 その後、オレは独房に放り込まれた。もし予定通りに動いているのなら、その相手はイレーネという事に……。




「くっ……どれぐらいの時間がたったんだ」

 両手を左右に伸ばせないほど狭く、窓もない独房の中で、オレは時間の感覚もつかめずにいた。食事も不定期に粗末な物が投げ入れられるだけなので、推し量る事ができない。

|(魔法で監視されている可能性もあるな)

 オレは意図的におびえた表情で、独房の床にねそべった。



「おい。そろそろ出番だぞ? 客の前じゃなきゃあ、おれが変わってやるんだがな」

 もう二日もたったとは思えないが、ついにその時はやって来てしまった。

「金が欲しかったら言う通りにするんだ。ここで待機してろ」

 オレは、幕が下ろされた小舞台のような場所に通された。顔には革のマスクのような物をかぶせられているので、アデール以外にオレだと分かる人間はいまい。


「んっ……んぐぅ……」

 計画通りではあるのだが、そこにはイレーネがメイドの格好で、猿ぐつわをされて横たわっていた。

「だ、大丈夫なのか……痛くはないのか? あんた」

 監視されている可能性はあるので、オレは演技を続ける事にした。実際、暴行をする事はできないのだが、一度メイドという形で従属する事によって、この程度は可能になるようだ。


|(今ごろ、アデールは入場しているんだろうか……)

 おそらく、セルゲイも因果をふくまされて、街から逃亡しているのがオチだろう。


「続いての一品は、ノーリス共和国産の高純度な蒸留酒だ。一口でも飲ませたらブっ倒れる事間違いなし!」

 割り符をセルゲイから預かったのは好材料だが、禁制品の闇競売では、客の数もしれていると思われるので、アデールが安全だとも言い難い。


「なんと、驚きの銀貨五十万枚|(金貨換算すると五十枚)での落札だぁ! これは、盛り上がって参りました……だが、今日の注目の一品はこれからですぞ?」

 その言葉に、客席からは大きな歓声が上がっていた。

「誰だか知らんが、オレにも悪気があるわけじゃねえ……頼むから、あとで訴えたりしないでくれよ」

 いくつかの指示を出すために決めておいた『符丁』により、時間を稼ぐようにイレーネに伝えたら、右のまぶたを二度閉じたので、意味は通じたらしい。




「それでは、本日の最大の目玉商品をご紹介します……。なんと、押収された州警の保管庫から、ケラエノ前子爵が盗み出したといういわく付きの逸品だぁっ!」

 ワゴンの上に載せられた黄金のハチミツ酒が持ち出され、瓶がきらりと光沢を放っていた。


ちょいと鬼引きですかね(笑)

次回でケリがつけばいいんですが。

完全に書き下ろしの上、プロットも書いてないので、

どうなるかは作者にもわかりませんwww

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