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第十五話 デベロップメント Eパート

1話1話が短いとはいえ、長引きすぎたかも。

次あたりから、活劇の模様。


「それにしても似合わないわねぇ……」

「うるさいな。おまえこそ、ハマりすぎだろ」

 オレたちは、公爵に手配してもらった衣装を着て、いままさに、海運の街アドニールに足を踏み入れようとしていた。

 ちなみにオレは、魔術師のような格好をしていて、アデールは、いかにもうさんくさい女商人の格好をしていた。

「腰に長剣をつるしてないと、丸裸でいるような気分だな」

 この衣装では、聖剣扱いの小剣しか身につける事ができなかった。作っておいて正解だな。



「で、まず売り込むにはどうするんだ?」

 愛人関係にある男女という空気を作り、酒場で顔を近づけあって密談していた。

「まだ、この街に持ち込めてもいないしねぇ」

 荷物はアドニール領ではない、郊外の貸倉庫に預けている。この酒場が闇商人たちの交流の場だという事を聞いて、出向いてはいるのだが……。

「アテにしていた商人が見つからないという風情にするか」

「そうねぇ……それでダメなら、明日考えましょ。開催まで三日はあるそうだし」

 オレたちは、あまり目立たないように、酒場の客たちをチェックしていった。



「よう、誰か探しているのけ?」

 すでに酒がかなり入っている男が、オレの視線に気づいて絡んできた。

「ここでよくたむろしているという商人なんだが……約束の期日になっても現れないんでね」

「期日に現れない? そりゃあ、商人の風上にも置けないが……。なにか、事情があるのかもな」

 その、酒に酔っているようでいて、怜悧(れいり)な瞳の奥を見るに、単なる酔客でもなさそうだ。

「オレたちには売りさばく販路がないから、その点は任せっきりにしていたんだが、このありさまさ。すぐに腐ってしまう心配はないんだが、出直すしかないかね」

「ほんとに……このままじゃ倉庫代だけで、すぐに破綻(はたん)するわよ」

 アデールも雰囲気を出すために、ため息をついてグラスのワインを、のどに流し込んだ。

「その格好をみるに、兄さんは魔術師かい?」

「錬金術師だったんだが……師匠が、突然転生しちまって、まだ、たいした事は……」

 錬金術師というのは、そのままの意味ではなく、魔法を使った、薬学……すなわちポーションを作る人間の俗称だ。

「ほう……なら、師匠の資産がそのまま転がり込んだんじゃないのかい?」

「借金の方が多いありさまで、ポーションひとつ持ち出せたのも、奇跡だったが、使っちまったからな」

「そのポーションがあったから、三割も分け前をあげる事になったんだけど、こうなってはね……」

 アデールは、いかにも悪そうな目つきでグラスを置いた。

「そのポーションってのが気になるねぇ……」

「金も女も受け付けないような小役人がお宝を守っていたんだから、ほかに手はなかったさ」

「割り符も手に入らないんじゃ、実際お手上げよね」

「兄さんら……その商品の見本を持ち込んでないのかい?」

「持ち込みたいのはやまやまだけど、シール|(封印の意)をはがす魔術師の手配も頼んでいたからねぇ」

 アデールがなまめかしい表情を浮かべて言うと、商人らしき男は、生つばを飲んだ。

「バカ高い手数料は取られるが、それは館の方でやってもらえるはずだぜ?」

「約束の相手が現れないから、大箱ひとつの商品を預け続けたりで、そのお金もないし、割り符もないんじゃねぇ」

「その商人には、取り分の何割を約束してたんで? ねえさん」

「魔術師と割り符の調達も入れて四割よ。わたしとこいつが、三割づつなんだけど」

「即金で取り分をくれるなら、二割でもいいぜ? あとはお任せって事になるがな」

「ところで、その商人ってな、どんなやつだい? 聞くところによると、大物っぽいが」

「どこぞの貴族の特権商人だ! なんて吹いてる、ガラの悪いのはいなかったかい?」

「あいつ……最近見ねぇ……。って、ケラエノの?」

「ちょっと兄さん……声が大きいぜ」

 オレはひじでつついてけん制した。


「前ケラエノ子爵が後生大事に持ち出したって、荷物の事はうわさになってたんだが」

「これだから、悪党どものネットワークも、あなどれないのよね」

「厳重に警備された倉庫から、特権商人の馬車に荷物を移すのには、どうしても手を組まなきゃいけなかったんだがね……。禁制品の密輸が想像以上に悪業値を上げちまったらしい」

「って、ケラエノ前子爵どのに、罪をかぶってもらったったって事か。そりゃぁ傑作だ」

「逃亡費用は必要としてたから、買い取る事はできたんだけど……おかげで、財布はペラッペラよ」

 くだんの特権商人は悪事がバレて、現在収監中であり、さまざまな情報を引き出す事ができていた。

「なるほど……。そちらのねえさんも、ふだんは正業を営んでいるが、いいもうけ話ができたからと、関与した口ですかい」

「あら……この気品は隠しきれなかったみたいね」

「ポーションを一番効果的に、金もうけにつなげられるかを考えるとな……」

 オレもじくじたる表情を浮かべてみせた。

「なるほどなるほど……そういう事ならぜひ、赤っ鼻のセルゲイに、おまかせあれ」

「割り符と、シールの件も大丈夫なんでしょうね?」

「わたしも潤沢な資金は持ってませんが、それぐらいなら、何の問題もありやせん」

「そうね。お互い深入りはしたくないし、割り符を見せてもらったら信用するわ」

「今週のは、これなんでさ……おっと、見るだけですよ?」

 セルゲイと名乗った男は首から提げていた、割り符を見せつけた。これで第一関門はクリアだ。




「ほっほう。たしかに、セラエノ公爵家の封印だ」

「で、持ち込みはあんたに任せるわけだけど、持ち逃げさせないための保険は用意したんでしょうね」

 翌日、オレたちは貸倉庫の中で、セルゲイと密談をしていた。

「そりゃあもう……。別件でいただいた、今回の主宰者の借書がありまさぁ」

「情報を集めてみたけど、あんたって最近、失敗が多いそうじゃないの。それだけじゃあね」

「わかりましたよ。じゃあ、この割り符を預けておきますから……。三人まで入れますから、合流しましょうや」

 実際にはそんな聞き込みをするヒマがなかったんだが、オレたちのようなのにまで食いついて来るからには、それなりの事情もあったのだろう。


「今日の午後七時に、例の酒場で合流しやしょう……じゃあ、これは主宰者のところに運んでおきますんで」

 セルゲイはうれしそうに、木箱に手を添えて言った。



「紛れ込ませている本物は四本か……。あとは、それを選んでくれるかだな」

 セルゲイが自前の馬車に木箱を積んで去っていくのを見守りながらつぶやいた。

「公爵のところの魔術師が、三日かけた魔法だそうだし、いけるんじゃない?」

 当初の予定では、オレとアデールが直接乗り込むつもりだったのだが、予想以上にガードが堅い事もあり、間接的な関与にとどめるように指示があった。

 オレたちの情報が想定以上に広まっている事も、理由のひとつのようだ。

「禁制品のみの闇競売だもの。全員引っ捕らえれば、いい街の掃除になるわ」

 基本的な警察権は、アドニールの街が保有しているが、セラエノ自治州が直接取り締まる事のできる物もある。麻薬をはじめとする、禁制品がその筆頭格だ。

「イレーネはうまくやっているのかな」

「公爵からの連絡では、今回の闇競売の開催者の家にメイドとして、潜り込めたそうよ」

 豪商の中でも、メイドの入れ替わりが激しいところに応募させて、お金に困っているアピールをさせるというのだから、媚薬の効果の実験台として、客へのアピールに使われる事になるのだろう。その実験の前に州警察の特殊部隊が踏み込めればいいんだが……。

「イレーネには、もし普通のハチミツ酒だったとしても、『ガード』を外すように言ってるから」

 一番理想的なのは、最初に一本の中身を調べるさいに、魔法により、本物の瓶を手に取らせて、実験のさいには普通のハチミツ酒の瓶を手に取ればいいのだが、そこまで求めるのも無理があるだろう。

「薬にたいする耐性は上げてるっていうから、危険はあまりないとは思うけどね」

 それも準備期間に、一週間を要した理由であるらしい。

「はたして、開催二日前になって持ち込んだ代物を、相手が商品として認めてくれるのかしらね」

 これまでも州警察が内偵をした事もあるが、薬を打たれて廃人状態で放り出された事があるとかで、慎重になっているらしい。

「さて……。宿はいちおう取ってはいるが、どうするんだ? もし、ハチミツ酒の事がバレたら、突入して来そうだが……」

「そうねぇ……。誰も残らないんじゃ、逃げ出したと勘ぐられそうじゃない?」

「そうかもしれんが……。って、オレだけ残れとでも言いたそうな口ぶりだが」

「わたしという人質がいない方が、安心できるんじゃない? ほら、黄金のハチミツ酒を使われる危険性もあるし」

「分からんでもないが、どうするつもりなんだ?」

「ちょっと考えておきたい事もあるし、この近辺に宿を取ろうと思うの」

「ふむ。じゃあ、オレだけで例の酒場に顔を出してくるか」

「それがいいわね。あと、懐の物も預けていきなさいよ? 貴重なんでしょ?」

 アデールは目を細めて、手を突き出した。

「お、おい……どうして知っている。特殊なスキルでもあるというのか?」

「そりゃあ、自明の理よ……例の聖剣もどきを売って、それなりに潤っていたはずなのに、お金に困ってるんだもの」

「言っておくが、転売はできないぞ。所有権はオレにあるんだからな」

「わかってるって。聖剣を作る事に成功してたんだ……あの化合物が必要って事じゃないのぉ?」

 オレは、懐の『聖剣』属性を持つ小剣を、アデールに手渡した。こいつに知られた事が一番の難儀のような気もするが。




「やぁ、にいさん……って、ねえさんはどうした? ケンカか?」

「いや、金策に駆け回っているよ。このままじゃ宿屋に泊まり続けるのもむずかしいんでな」

「あんな代物を二十本も売りに出しといてそれですかい?」

 これが芝居である可能性も捨てきれないが、第二段階はクリアだな。





明日からは、一日一本ペースに戻ります。

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