第十四話 デベロップメント Dパート
妙に筆が乗っていて、ペースが速くなっています。
一本一本は短いんですけどね。
「そういうわけなんだが、一週間で作れそうか?」
「そうですねぇ……クラウス殿に手伝ってもらえるのなら、何とかしましょう」
オレは翌日の夕方に、モレイト村の鍛冶師の家を訪ねていた。
「聖剣製作のスキルも、上げておきたかったから、ちょうど良かったかもな」
「そうですね。最後の焼き入れのさいにでもスキルを発動させれば、上昇するかもしれませんね。そこらは試してみるしかないとは思いますが」
「で、手付けとして金貨一枚を預かっているが、実際に剣を作って売れるまでの費用は足りるのか?」
手付け金なので、即座に換金する事はできないのは、鍛冶師でも同じ事だ。
「そうですね……少々切り詰める必要はありますが、何とかなるでしょう」
「ふむぅ……早く聖剣を売る事ができるといいんだが」
「アデール殿との契約で、二十本の延べ棒を購入していますが、それを仕上げるさいにも、聖剣製作のスキルを使ってみては? 短剣にするなら値段も抑えられますし」
「そうだな。時間があったら、それもやる事にしよう」
こうしてオレは、鍛冶師見習いとでも言うような仕事を、する事になってしまう。
「ふむ……焼き入れ時でも熟練度は上がるが、微々たる物だな」
「ですが、おかげで『聖騎士の鍛えたる剣』のタグがつきましたよ。さすがに聖剣は名乗れませんが、価格も二割増しぐらいでいけるでしょう」
「それは朗報だな。最後の方で、アレを混ぜたのも試してみるか?」
オレは、鍛冶師の家の隅に置かれた、たるを指さした。
「そうですね……短剣で試してみましょう」
「クラウス殿がこちらにいると聞いたのですが……あぁ、クラウス殿でしたか!」
「ああ……こんな格好ですまないな、レックス殿」
「鍛冶師のまねごとをしているとは聞いていましたが……」
数日後、レックスがモレイト村にオレを訪ねて来た。
「ちょうど良かったな。直接村長を紹介する事もできるな」
「いちおう、儀式は前段階が完了しましたので、これを持ち出す事ができるようになりました」
レックスは、連れて来ていた配下の者に合図を送り、木箱に入った七本の『聖剣』をオレに差し出した。
「おお、忘れかけていたよ。果たして売れるかどうかは疑問なんだがな……なにせ、使い捨てだ」
「その……クラウス殿は教会との関係が良好ではないようですが、これを教会に持ち込めば、使い捨てでも結構な値段で売れるかと思いますが」
「任務を遂行中に、親友だと思っていたやつに裏切られてな。別に教会に遺恨があるわけじゃあないが……」
「そうですか……実は、ラミールの教会に、あいさつに行くのですが、出過ぎた事ですが、口添えをしましょうか?」
「それは非常に助かるな。これまでは、デスペナルティーで、カデストなんてへき地にいたもんでな」
「では、この『聖剣』も、教会に売って来ましょうか? 規定では、聖剣製作が一レベルなら、一本銀貨一千枚で買い取ってくれるはずですが」
「頼めるか? 実はいろいろあって手元不如意でな……おまえさんだから話すが、聖剣製作のレベルを上げるべく、修行しているところなんだよ」
「そういう事でしたか! 良い物ができたら、自分にもぜひ売っていただきたい」
「うーん……。じゃあ、一本だけ手元に置いておくから、六本をお願いできるか?」
「お安いご用ですよ。では、銀貨六千枚ですが、経費を抜かせていただいて、銀貨五千枚をいま、お支払いします」
「はっはっは……なかなかの商売人だな。その条件なら、今後も、ぜひお願いしたいよ」
「モレイト村の橋ですが、おわびもかねて、強固な石橋で作る事にしましたし、結構かかるんですよ」
「ほう……そりゃあたしかに。じゃあ村長のところにいこうか? ちょうど夕方だ。うまいものを食わせてくれるさ」
ここ数日は質素な食事をしていたので、この日はレックスと村長を交えて、小宴会に招かれる事になった。
「ふぅ……どうにか、間に合ったな」
まずは、ノルマの長剣五本を製作し、聖剣製作スキルが三に上昇するのに、さらに長剣二本と短剣四本を要した。
聖剣製作スキルが三になった上に、鍛冶師スキルが三になったので、化合物を混ぜる事により、正式な『聖剣』扱いの小剣を作り上げる事ができた。
「見事ですね。タグが『聖剣』になってますよ。余裕があったら、長剣にしたかったんですがね」
もう延べ棒は一本も残っておらず、これ以上作るには、カデストまで仕入れに行く必要があった。
「これを買い取りたいんだが、いくらで売ってくれる?」
レベル三程度では、使い捨てではないものの、耐久度は設定されている。強敵を相手にするさいの保険にはなるだろう。
「そうですね。失敗した分も含めて、延べ棒二本使ってますし、素延べからはクラウスさんがやったとはいえ、原価で銀貨五千枚ですねぇ」
「ぐっ……おまえさん、オレの懐を知ってて、値付けたんじゃなかろうな」
レックスに聖剣を売った事は聞いているようで、クリティカルな値段を提示された。
「まぁ、わたしの名を広める事にもなりますし、銀貨四千枚でいいですよ」
「ありがたい。じゃあ、買い取らせてもらうよ」
オレは、銀貨四千枚分の預金証書を手渡して、販売権のない特約つきの所有権を設定してもらった。勝手に好事家に高値で売らないための処置ではあるが、彼も抜け目がない。
「というわけで、鍛冶師スキルが三になったよ」
「ふーん……『聖騎士の鍛えたる剣』ねぇ……。それと追加の委託が長剣二本に短剣四本ねぇ。飛ぶように売れるってわけでもないけど、いいでしょ」
どうやら、懐の『聖剣』にはきづいていないようだ。
「ところで、レックス子爵が来てたわよ。あの『聖剣』を売るんですってね?」
「わざわざ顔を出したのか……ああ。ついでに教会への交渉も頼んだよ」
「わたし、言ったよね? あのたるには経費がかかるって。それに、延べ棒を加工したのも使ってたわよね」
「あ、ああ……」
「延べ棒二本分は使ってるみたいだけど、破格の銀貨一千枚で勘弁してあげるわ……ほら、持ってんでしょ?」
こいつには、他人の懐具合をはかるスキルでも身につけているのではなかろうか。オレは再び、手元に預金証書の一枚もない状態に戻ってしまった。
「なぁ……延べ棒は少しは売れたんだろう?」
一週間も留守にしていたのだから、多少は売れているはずだ。
「六本しか売れてないわ。この街にはあれを使うレベルの鍛冶師は、あまりいないしねぇ」
「長剣一本分と短剣二本分といったところか。それでも、銀貨9千枚だよな……」
「言っておくけど、カデストからタダで鉱石を持ってきたワケじゃないのよ? 冒険者から延べ棒一本につき、銀貨五百枚で買い取ってる計算になんのよ」
まぁ、その分はアデールの個人資産扱いにしても仕方がないところだな……。
「輸送の経費と、ロロットに支払う給金を抜きにして考えても、六本売れた事による利益は、銀貨六千枚って事よ。だけど、プールする資金も必要でしょ? 銀貨五千枚は貯蓄に回すわ。残りでロロットをふくめた、あんたらへの取り分にするわ」
「じゃあ、オレの取り分は銀貨五百枚たらずって事か?」
「本当は、それでも多いぐらいなんだけどね……。イレーネも収入がほかにないんだし、支払ってあげないとね。ホラ」
アデールは銀貨五百枚の預金証書をオレの手に重々しげに置いた。
「ところで、イレーネは?」
「もう潜入してるころよ……。明日にはわたしたちも出発ね」
ようやく任務に取りかかる状態になった。。
まだ任務開始には至りませんでした。
次回からになります。
短い事もあり、本日はもう一本を午後六時に公開します。




