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第十三話 デベロップメント Cパート

前回の続きですね。

事件的にはほとんど進んでないので、

一日二話公開にしました。


「まったく。アデールは人使いが荒すぎる」

 朝一で買い出しに行くように命令され、日も暮れかけたころに、ケラエノ子爵領をあとにしていた。

「レックス殿も不在だし、正式なあいさつは次でいいか」

 現在はセラエノ自治州の管理地区なので、関税などをかけられる事もなかった。



「これは、クラウス殿! こんな夜更けにいかがなされた?」

 夜も九時を回ってから、モレイト村の鍛冶屋の扉をたたくと、少しして奥から出て来てくれた。

「アデールに言われて、ハチミツ酒の買い付けにな。それは明日でいいんだが、泊めてくれるか?」

「そりゃあもう……。それと、例の剣なのですが、準備はできていますよ」

 カデストから持って来た、たるもここに預けており、オレは聖剣にはその化合物を内包させる必要がある事を、この鍛冶師には伝えていた。

「ふむ……せめて『聖剣製作』のレベルを三にしないといけないからな。研究は続けてくれ」

 この事についてはアデールにも話しておらず、オレ個人が経費を支払う約束だ。

 この鍛冶師も、カデスト産の鉱石を作って剣を普通に作るよりは、『聖剣』を作った方が、カネにも名誉にもなると長期的なスパンで、考えてくれたのだった。

「それで、費用の方なのですが、さまざまな治具じぐを発注しましたので、約束通りその半額を、持っていただきたいのですが」

「まだ先日の交易分の報酬をもらっていないから、あまりないが、いくらかかった?」

「銀貨三千枚かかりましたので、クラウス殿には、その半額を持っていただきたく」

 まぁ、すぐに結果が出る事ではないから、無理もない事だろう。

「銀貨千五百枚か……経費なら当然だな」

 オレは、銀貨五百枚の預金証書を三枚手渡した。これで残金は、銀貨五百枚まで減少してしまった。つつましく暮らせば二か月は持つ額だが心もとない。



「おーい……。買って来たぞ」

 翌日の夕方に、オレは三番街の店まで帰り着いた。

「クラウスさん……マスターはいま、組合に呼び出されていまして、不在です」

 アデールの姿はなく、ロロットが馬車の音を聞きつけて、外に出て来てくれた。

「組合? 何の組合なんだ?」

「セラエノの街の商会の自治組合です……。そこから通達が出たので、現在は何も販売できないんです」

「なんだと? そりゃ、どういうこった」

 一日の販売数量は控えるとは言っていたが、一本銀貨一千枚の、値付けをした延べ棒が四本売れれば、仕入れの経費を差し引いても、そこそこな額になるはずで、あてこんでいたオレは肝をつぶしてしまった。



「いやー……まいったまいった。わたしが領主でも、あいつら一歩も譲歩しようとしないんだもん」

 夜になり、買って来た弁当をロロットと食べていると、アデールが憔悴しょうすいしきった顔で帰って来た。

「腹が減ってるのか? 弁当は買っておいたが……」

「じゃあ、食べてから話するわね。昼ご飯も食べてないのよ」

 アデールは、オレが買って来た弁当を差し出すと、ものすごい速度で食べ始めた。



「わたしも一応、調べてはおいたのよ? この街の商取引に関する条例とかでは問題ないのに」

「なら、何が問題だと言うんだ?」

 食べ終えてお茶を二杯飲んだアデールは、ようやく、今日の話を語り始めた。

「やつらが言うには、販売を独占するのは認めがたいってさ。まぁ、わたしらの値付けした価格で買うしかない状態は、健全じゃあないかもしれないけど」

「とは言っても、カデストまで行って直接鉱石を買い付けて、それをセラエノまで持って帰って売る事は、誰でもできるんだろう? 何で問題になるんだ」

「わたしが、領主としての立場を利用して、通常では得がたい方法と原価で入手するのが問題だってさ。アホらしい。ほかに、この鉱石を売る人がいないんだから、公正じゃないとか言われても、鼻で笑っちゃうわよ」

「なにか実効的な処分……販売差し止めとかでも食らったのか?」

「そんなぐらいなら、全部剣にして売る事を選ぶわよ……。安く手に入るからって、ダンピングはまかりならんって言うけど、ほかに売る人いないのにさ」

「そんなぐらいなら、競売にでもかけた方が、まだマシという話になるな……」

「まぁ、セラエノ公爵ですら、自治組合には横車押せないみたいだし、突っ張るのは簡単だけど、いろいろ妨害されそうなのよね」

「ふむ……。その組合の発言力の強さも、公爵が改革したいという部分なのかもしれんな」

「ところで、木箱やらハチミツ酒を買ったし、手元にはほとんど、金が残ってないんだが、少しは延べ棒も売れたんだろう?」

「そんなの、朝一で呼び出されたから、一本も売れてないに決まってるじゃない」

「おいおい……。オレはもう、証書にもできないような、小銭しか残ってないんだぞ?

「わたしも自治組合に加盟金と保証金として、金貨一千枚も支払って来たのよ? 次の仕入れの分ぐらいしか残ってないわよ」

「えらい高い加盟金だな……そんなにするものなのか」

「自主的に積んだのよ。すでに目をつけられてるんだから仕方ないじゃない」

「ぬぅ……。で、延べ棒の販売はできるのか?」

「価格は、銀貨千五百枚で固定すればいいってさ。そんな額で買い手がそんなにつくかしらね」

「普通の手段で冒険者から鉱石を買い取って、それを制限地域を、またいで運ぶんなら、それぐらいの額になるか」

「銀貨一千枚でも利益率が相当あったから、千五百枚ならもっともうかるだろうけど、一日一本売れるかしらねぇ……店を維持し続ける費用を考えると頭が痛いわ」

「ざっと二か月は仕入れる必要なしって事か。なら、公爵の依頼を進めた方がマシって事だな」

「イレーネをメイドに仕立て上げるのには苦労してるらしいし、身分の詐称とかでも時間かかるそうだから、あと一週間は動けないって、ロロットの兄が伝言に来てたわよ」

「なら、多少でも鍛冶師に渡して、武器にして販売するか?」

「モレイト村の鍛冶師? 一人でやってるんでしょ?」

「そうだな。オレも手伝うというのはどうだ? どうせ、一週間は動けないんだろ?」

 ひまを見て、聖剣製作のスキルを上げておくのも、いいかもしれんしな。

「じゃあ、延べ棒を20本渡すわ。長剣なら何本作れるかしらね」

「聞いてきたんだが、歩留まりはあまりよくないそうだな。四本はかかりそうだ」

「なら、長剣が五本作れるというわけね……一週間もあれば、いけそうね」

「だが、作ってもらうにしても、鍛冶師に支払う手間賃がかかると思うが」

「それは……委託販売という事にしなさいな。延べ棒を渡すから、それを剣にして、利益の四割ぐらい渡してあげればいいでしょ? 延べ棒四本使うのなら銀貨六千枚分の延べ棒を使うんだから、一本銀貨一万枚ぐらいで売らないとね」

「それにしても、手付けぐらいは払ってやる必要が……」

「あっそう。じゃあ、初回の五本分の利益の前渡しとして、金貨一枚を渡しておくわ」

 五本を売る事ができれば銀貨五万枚……つまり金貨五枚だ。その中から、一枚を前渡しするのは妥当ではあるんだが……。オレが、手元不如意なのを知って金貨にしたんじゃ――。

 ※金貨の場合は横領できません。


「わかったよ。長剣五本を作り終えたら帰って来るさ」

「じゃあ、お願いね。わたしも組合の連中を、少しでも懐柔しておくから」

「あの化合物なんだが、毎回一たるづつでいいから、もらえるように手配しておいてもらえるか?」

「別にいいけど……経費はいただくわよ?」

 アデールは手で銭のマークを作った。



次回ぐらいから、潜入編になる予定です。

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