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第十二話 デベロップメント Bパート

今回も戦闘はありません。

というか、人間相手の戦闘は原則できないんですよね。

その代わり、情報戦とか謀略的な描写が増えます。

「ふぅ……。ただのあいさつの予定だったんだがな」

「そうね。準備に数日かかるって言うから、いまのうちに商売の方にも、取りかからなくっちゃ」

 オレはアデールと共に公爵邸を辞して、裏通りを歩いていた。

「ん? あとは売るだけで、売り子のロロットがいれば、それでいいんじゃないのか?」

「はぁ? だぁから、あんたはアホなのよ。どんないい商品を持っていても、それが知られなかったら、意味がないのよ。意味が! 本当になってないわ」

「ぬぅ……じゃあどうするんだ? チラシでもまくのか?」

「そんな経費がかかる事をするワケがないでしょ。こういうのは、情報をどう広げるかが問題なのよ」

「ふむ……って、店に戻るんじゃないのか?」

 三差路で、三番街の方に帰ると思いきや、アデールは二番街へと、足を進めた。

「護衛人ギルドに顔を出しておくのよ。カデストと往復して帰ったという事を見せつけるのと、それとなく鉱石の事をにおわせておくのよ」

「なるほど……そういう事か」

 その後……。アデールの思惑通りに帰還を報告し、カデストから、延べ棒を持ち帰った事をにおわせていた。




「ところで、イレーネにどうやって承諾させるつもりだ? 説明すれば、恩義やら何やらで引き受けると思うが……。どんな危険があるかもわからんのに」

「そうねぇ……命の危険はないにしても、怖い思いはさせると思うけど」

「なら、おまえさんから説得してくれよ」

 黄金のハチミツ酒を本物だと思わせるための方法を、アデールが思いつきはしたのだが、イレーネの協力と公爵の人脈による、事前工作が必要な物だった。

「まぁ、そのつもりではいたけど……ひとつ貸しね」

「うぐっ……まぁ、仕方あるまい」

 オレたちは、三番街の店の前で、イレーネが手を振っているのを見て密談していた。



「ご主君! この弓なら、拙者の能力を完全に生かし切る事ができますぞ! なんと、スキルの上限レベルが四も上昇するような業物でして! 家宝にいたします」

「ほう……そこまで仕上げるとは、街一番の弓職人の名もだてではなかったという事だな」

 素材があったとはいえ、銀貨一千枚の投資で十数倍の価値にまで上昇した事になり、店主のはぎしりの音を感じる事ができた。



「良かったわね! けど、次の任務では、その弓は置いていかないといけないのよ」

「そうなのですか? 新たな任務ですか……」

「それはわたしの部屋で、あとでゆっくり説明するわね、イレーネ。あと、ロロットはいる?」

「はい、マスター!」

 検品をしていたらしいロロットが、軽快な足取りで走って来た。

「延べ棒だけどね、常に店頭にはごく少量しか置かないようにしてくれる?」

「わかりました。検品したところ、八十四個ありますが、四個づつぐらいにします」

「そうね。あと購入制限ね。一人が購入できるのは一日一個までよ。一日の販売数も十ぐらいを目安にしてね。在庫がある限りは、上客なら予約も受け付けていいわ」

 アデールはてきぱきと、ロロットに指示していた。


「店開きは明日なんからだろ? なら、そろそろ晩飯にしないか? できれば風呂にも入っておきたいしな」

「そうねぇ……。けど、帳簿の事とかで手を離せないし……あんたひとっ走りして、弁当でも買って来なさいよ」

「オレがか……。まぁ、帳簿付けの手伝いはできんしな。じゃあ、金をくれよ」

「あんた、半分の利益を取るんでしょ? 結団式ではわたしが出したんだから、気持ちよく出しなさいよ」

「わかったが、ひとっ風呂浴びてからでもいいか?」

 どうせ、三階の風呂には入らせてはもらえまい。それぐらい主張しないと損だ。




「ふぅ……。何かにつけて口やかましい女だな」

 オレは公衆浴場で一息をついていた。宿屋にはたいてい風呂があるし、一般家庭にも風呂は行き渡っているせいもあり、客の姿はまばらだった。


「あんた、見ない顔だが、冒険者かね?」

 蒸し風呂に入って、汗を流していると、横に座った男に話しかけられた。

「ああ……。オレは護衛人だが、いちおう三番街に店と事務所を構えている」

「ははぁ……。あの三角地に商会旗が揚がったと聞いたんだが、もしかして」

「早耳だな。カデストの領主がスポンサーだ。別に特権商人ってわけじゃあないが、制限地域を往復するやつは、あまりいないだろうしなぁ」

 少しでも商売のためになるならと思い、オレは世間話に興じる事になった。

「ほっほぉ……となると、カデストでしか採れない鉱石を売るってうわさは本当なのかね」

「早耳すぎはしないか? まだ、護衛人ギルドの長にしか話してはいないぞ」

「いやいや……そりゃあんたが鈍感なのさ。アビス峠の『名前付き』を倒した男が、カデストと往復してるって話は、いまもちきりなんだぜ? ケラエノ子爵が鉱石を横取りしようとして、悪業値が振り切ったって話は、今月のトップニュースだ」

 考えてみれば、モレイト村の人間にもその事について口止めをしたわけでもないし、どこからでもうわさは伝わるものなんだろう。

「もしや、あんたは……ブン屋なのかい?」

「お察しの通りでさ。あんたが、そのうわさの男だと知って近づいたのもバレバレでやしたか」

「顔まで知られてるとは思っていなかったんだがな」

「なぁに……『名前付き』を倒すような冒険者は、顔つきからして違いまさぁ」

「横をすり抜けるだけのつもりだったんだがなぁ。なら、例の件も耳にしているのかな」

「まだ何かあるんで? 教えてくださいよだんなぁ」

「ケラエノ子爵が領主の資格を失ったのは、鉱石の件だけじゃあないって事だよ。大荷物をさげて、逃げていったそうじゃないか……。その中身までは知らんが、想像はつくだろ」

「うーん……それだけじゃあ書けませんねぇ……まぁ、なんにせよ、情報ありがとうございました!」

 ブン屋の男と長話をしていたせいもあり、弁当を手に帰宅したころには、午後八時半を回りかけていた。



「もう、何やってんのよ……ったく」

 アデールは弁当をかっこみながら、オレをにらんだ。

「まぁ、そういうな。ブン屋と知り合ったから、ひとつ情報を流しておいた」

「はぁ? 何勝手な事してんのよぉ……わたしの作戦を台無しにしたんじゃないでしょうね?」

「いや、前ケラエノ子爵がなにやら大事そうな大荷物を手に逃げたらしいってな」

「それって……。あの件をなすりつける材料にしたって事? 禁制品だって事もにおわせたのなら、補強材料になるわね……うん! 上出来じゃない」

「ところで、イレーネの姿が見えないが……」

「ああ、公爵からの使いが来て、メイドとして潜入するために教育するんだってさ」

「ふむ……まぁ、あんな口調のメイドはいないだろうな。という事は、もう説明したのか?」

「あんたの帰りが遅かったからねぇ……。うそ偽りなく話したけど、協力するってさ」

「ふむ……まぁ、オレやおまえでは代わりができん任務だから、仕方ないか」

「で、その教育はどれぐらいかかるんだ? あと、下準備が必要なんだよな」

「そうねぇ。三日やそこらはかかるから、あんたモレイト村まで、一人でいって買い付けて来て欲しい物があんのよ。ついでに、ケラエノ子爵領にも」

「オレだけでか? まぁ、危険って事はないがな。で、何を買ってこいって言うんだ?」

「まず、ケラエノに行って、上等な木箱をひとつ買って来て、モレイト村名産の、ハチミツ酒を箱に入れればいいのよ」

「それって、オレが黄金のハチミツ酒を、買い入れたって偽装するのか」

 アデールの悪知恵は底がしれなかった。



※本日は二話公開。午後六時にCパートを公開します。


迷宮ばかりじゃ気がめいるから、シティーアドベンチャー

って感じですね。

そういえば、この世界にも『ダンジョン』はあるんだろうか。

ないのも不自然ですよね。いずれ出しますのでご期待ください。

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