第十一話 デベロップメント Aパート
陰謀めいた、シティーアクションになる模様。
「ふぅ……。昨夜は飲み過ぎたなぁ」
モレイト村で大歓待を受けた事もあり、昼過ぎになっても酒が抜けていなかった。
係争相手のケラエノ子爵が追放された事もあり、夜半まで付き合わされたのだった。
「ところでご主君。ケラエノ子爵領は、これからどうなるのでしょうか?」
「まだ、体裁としては名前が残っているようだが、継承がなされるか次第じゃないか?」
「聖騎士を志望している次男に、今ごろ継承のクエストが発生しているはずよ」
「その次男が多少はマシな男ならいいんだがな」
そんなうわさ話をしていたのだが……。
「お初にお目にかかります。自分はケラエノ元子爵の次男にあたる、レックスと申します。父と兄がご迷惑をおかけしたそうで、申し訳ありません」
三番街の店に荷物を下ろし、その足で公爵家に顔をだしたのだが、うわさの次男と遭遇してしまった。
「幸い、彼はラミールで修行中だったので、あわてて戻られたんだよ……」
セラエノ公爵は、オレの事を知ってか知らでか、やわらかい笑みを浮かべて、紅茶を口にした。
「話に聞くところによると、モレイト村への橋を落とし、そればかりか、聖騎士たるクラウス殿の聖剣を盗んだとか。肉親がそのようなまねをして、聖騎士を目指すほど自分も厚顔無恥ではありませんゆえ……」
レックスと名乗った青年は、さらっとオレの名前と身分の事を、口にしていた。
「いや、わたしが手を回して調べさせたのではないよ? 君を知る者と会ったそうだ」
オレの視線を感じてか、セラエノ公爵は涼しい顔をして、そう答えた。
「こちらに遺恨があるわけではなかったが、暗殺者を送られては、放置できんからな……」
「まっ、まことですか? あぁ……。それでは、追放されるのも、当然です」
オレの言葉に、レックスは心からの驚きの声を上げた。
「火矢を放ち、大量の魔物をオレたちにけしかけたり、アビス峠の水源に毒を入れられたから、示唆しただけでも、悪業値は高まっていただろうな」
「……あまりの事に、言葉もありません。どのようにしてこの罪を、あがなえばいいやら」
「おまえさんに責任はない。今後については、後ろでうずうずしている領主殿に任せるさ」
「お初にお目にかかります。カデストの領主のアデールです。子爵殿が領地を回復されましたら、お願いがありますの。それで手を打ちますわ」
水を向けてやると、アデールはさっそうとした足取りで、レックスの前に出て来た。
「自分が継承できるかは分かりませぬが、どのようなお願いなのでしょうか?」
「一点は、サン・カデスト商会の荷物に、関税をかけない事……。もう一点は、アビス峠の手前までの街道の整備ですわ。お約束してくださるなら、運ぶ鉱石の一割を適価でおゆずりしますけど、どうでしょう」
「関税の件に関しては、即答できますが、街道の整備とは……どの程度の物をさすのでしょう?」
「失礼ながら申しあげて、ケラエノ子爵領の特権商人は、その護衛をする大男も、かなり問題がある人物なんですの。首にするのが望ましいのですが、裏方の仕事ならと……」
「なるほど! その件については、先ほど公爵からお話を伺って、処遇に困っていました。制限地域の手前までの地点を、週に一回程度巡回させればよろしいですか?」
「さすが、レックス殿……。布告する事で、街道を利用する商人が増えると思いますの」
「これは助言だが、モレイト村との関係改善も図った方がいいな。村長とは顔見知りになったし、直接会うなら、紹介状を書いてもいいんだが」
「それはありがたい! 必要なら、モレイト村の自治独立の保証人になろうかとも思っていました」
「なるほど……それなら、領土的野心を完全に放棄した事になるしな。ケラエノ子爵の評判も上がるだろう」
「次にカデストにお帰りになるさいは、ぜひお寄りください。聖剣も返還します――」
「あれは、使い捨ての代物なんだが、返してもらうか。一本は記念として差し上げよう」
父と兄の不始末で、聖騎士への道をあきらめたその潔さに、オレは感服していた。
「さっそく、素晴らしい結果を出してくれましたな。さすがは……と言ったところですな――」
レックスが退出したあとに、おかわりの紅茶を用意させながら、セラエノ子爵は笑みを浮かべて口を開いた。
イレーネは緊張すると言うので辞退しており、今ごろは加工された、弓を手に取っているころだろう。
「結果的にそうなったというだけだろう。仕掛けて来たのは、向こうだったしな」
「正直に言って、前ケラエノ子爵は、改革のための最大の障害だと思っていましたからな」
史実では、セラエノ家とケラエノ家には血縁関係もあったはずで、領主連盟では重きをなしていたのだろう。
「正直言って、腹の探り合いは面倒くさいからな。次の目標を言ってくれないか?」
「……ラミールや部族連合の土地に接する、海運の街のアドニールでは、複数の商人が合議制を取っており、領主連盟に利益代表を、派遣しているのだが……」
「貴族の領土なら関税を自動でかけられるが、その点自由都市だと、密輸もやりたい放題で、税金逃れでも横行しているか?」
推測の内容をぶつけると、公爵は笑みを浮かべてうなずいた。
「ラミールまでの道のりを、数日かけて調べておきたかったんだが……空荷ってわけにもいかんよな」
オレはアデールの視線を感じて、顔をそむけた。
「そうは言っても、鉱石はセラエノで売るつもりだし、量もそれほどないわよ?」
「アドニールでは、禁制品か多額の関税がかかっていて、ラミールかヴォルテフ王国にでも運べばボロもうけできるような……そんな交易品はないか?」
「ふむ……そういう事なら、先ほど摘発して没収した、ある交易品があるのだが、この近辺で合法なのは、ヴォルテフ王国だけになりますな……」
「セラエノでも禁制品な代物か。オレが即座に破門されるような物は勘弁してくれよ?」
「うわさには聞いた事があるわ。セラエノでは、精神に特殊な作用をもたらす、黄金のハチミツ酒と呼ばれる飲み物があるとか」
「いったい、どんな作用をもたらすんだ?」
「惚れ薬よね。相手がNPCなら一発で落とせるし、冒険者であったとしても効くそうよ」
「それはたしかに、まごう事なき禁制品だな。それを許可するヴォルテフ王国はどうなっているんだ」
「押収したという事実は、裏社会に広がっていますからな。なにも、本物を運ぶ必要はないわけで」
「おとり捜査をやれと言うのか? それにより、悪事に手を染める商会を特定しろと?」
「アドニールには、ブラックマーケットがあるから、そこに出品すれば一網打尽よね」
「闇取引か。しかし、中身を確かめられたら、即ばれるんじゃないのか?」
「そこは、セラエノ公爵家の封印をしておいてもらえば、最初の問題はクリアできるわ」
「倉庫から盗み出したという形にするわけか」
「一本だけは本物を用意して、わたしが箱から無作為に抜き出す形にすればいいんじゃない?」
「だとしても、それをどうやって試すつもりだ?」
こちらが用意した物や人物で、試すような事になるはずはないだろうからな。
「そもそも、どうやって入手した事にするつもりだ? 仮にも領主のおまえさんが盗んだというのもな」
「前ケラエノ子爵に泥をかぶってもらえばよろしい。世間には、セラエノから逐電したという事しか知られていないからな」
「それを押収したか、買い取ったという話にするわけか」
セラエノ公爵もかなり人が悪いようだ――。
セラエノだけに、『黄金の蜂蜜酒』。わかる人だけ笑ってください。
作者は、バイアクヘーと読むのが好きだよ派です。




